131:自在変形式総合演習場
「さて、それで今日は何処に?」
表向きは宇宙船レースを見終えて、基地コロニーに帰ってきた翌日。
俺たちは四人揃って『セクシーミアズマ』の外に出た。
ヴィリジアニラ曰く、今回の件を解決するにはしばらく待つ必要があるとの事だが、俺たちのこれまでを考えると、船内に引きこもって本当にただ待つだけでは、状況が悪化する事は目に見えている。
なので、待つと言いつつもある程度は動くことになるわけだが……どう動くかはヴィリジアニラ次第だな。
「今日は自在変形式総合演習場の5番へと向かいます」
「自在変形式……ああ、これっすね。此処からだと30キロメートルくらい離れているっすね。となると車のレンタルが必要っすか?」
「いいえ、普通にトラムです。脅威は感じませんから」
「分かったっす」
ヴィリジアニラの言葉を受けて、俺は自在変形式総合演習場の5番とやら情報端末で調べる。
なるほど、このコロニーの由来は帝国軍の基地として作られたと言うもの。
だから、今でもこのコロニーの中には帝国軍の駐留基地があるし、彼らが訓練する場所もある。
そして、訓練する場所の幾つかは民間にも開放されていて、許可を得れば大会を開いたり、運動をしたり、コンサートの類を開くことも出来るようだ。
現に、これから向かうらしい自在変形式総合演習場の5番とやらでは、何かしらのイベントが開かれているようだ。
「サタ様」
「とりあえず現地には異常なし。進路上についても、俺の本体で感知できるレベルでの騒ぎはなさそうだ」
「メモが調べた限りでも同様です。他に危険な兆候は見られませんね」
しかし自在変形式とは?
見た限りでは演習場の中には建物が何棟も形成されているのが見えるが……よく分からないな。
まあ、現地に行けば分かるか。
「昨日の戦闘機レースは……」
「今日はプライマルコロニーで……」
「ナインキュービックの大会がサブコロニーで……」
「基地コロニー横断レースなんだが……」
と言うわけで、ドック近くの駅からトラムに乗り、周囲の人間の雑談を聞きつつ移動。
目的地近くの駅で降りて、そのまま徒歩で向かう。
うん、本当に何も起きてないな。
平和でいい事だ。
「しかし大きいな……。人間サイズで使うには大きすぎるんじゃないか?」
「会場全体が1キロメートル四方。中の演習場だけでも、800メートル四方あるらしいっすよ」
「そんなにか」
自在変形式総合演習場の5番に到着。
えーと、行われているイベントは……競技用ブラスターを主に用いた、複数の小隊によるバトルロワイアル大会。
いわゆる、サバイバルゲームって奴か。
ただ、プロの軍人と言うか……特殊部隊、傭兵部隊と言った面々もレギュレーションによっては参加しているので、殆ど実戦演習みたいなものだな、これは。
「「「ーーーーー!」」」
「ちょうど試合が一つ終わったみたいだな」
「そうみたいですね」
俺たちが演習場を取り囲む建物に入ると同時に、歓声が響く。
どうやら、本日一戦目、プロ同士でのゲームが終わったところだったらしい。
だが、今日は一日かけて複数のゲームをやるようなので、見どころはまだまだある事だろう。
それとこの建物だが……選手たちの待機場と観客席を兼ねるだけではないらしく、奇妙なスペースが幾つもあるようだ。
そして、演習場に居た選手たちが全員演習場の外に出て、俺たちが演習場の中が見える窓の近くに立ったところで、それは始まった。
「始まったみたいですね」
建物が崩れていく。
いや、溶けていく。
先ほどまで戦いの舞台になっていた建造物が溶け落ちて、白色のなだらかな地面になっていく。
「……。なるほど。自在変形」
「これだけでも見応えがあるっすねぇ……」
そして、今度は積み上げられていく。
地面から生えてくる。
新しい戦いの舞台となる建造物が屋上から順番に、地面からせり上がって来て、有色の建造物群になっていく。
「ミリサイズの特殊なブロックと各種modを組み合わせる事によって実現した、簡易建造物生成技術との事です。演習場に収まる規模である事、特殊な機構を持たない事、この二点を満たしているならば、おおよその建造物は作れるとの事です」
「はー、これはすごい」
「ちなみに、一定量の競技用ブラスターの照射、壁破壊用の爆弾を模した道具を用いる事で、建造物の破壊を疑似的に発生させることも可能ですし、ハッキング用の監視カメラモドキなども各所にセットされています」
「本当に凄いっすね」
「また、過剰な衝撃が発生しうるのを感知した場合には、瞬間的に柔らくなって、クッション代わりになる事も可能となっており、安全面にも十分な配慮がなされています」
「素晴らしい事ですね」
そうして出来上がったのは、先ほどまで俺が本体で見ていたのとは全く別の建造物群。
五階建て程度のビルが何棟も立ち並び、それらが屋上に張られた通路やジップラインで繋がれていると言う構造。
なお、ビルそのものはもっと高いと言う設定なのか、ビルの下、地面部分には触れたら失格だと言わんばかりに赤の縞模様が張られている。
いやこれをたったの数分で作り上げるのか、素直に感心するしかないな。
「で、俺たちは観戦だよな?」
「はい、勿論観戦です」
「それは当然の事っすね」
「メモたちが参加するのは準備以前の問題がありますからね」
俺たちはヴィリジアニラが示した、周囲から隔離されているらしいVIP用の観客席へと向かった。
なお、次のゲームはアマチュア小隊20組によるゲームらしく、今は何処からスタートするかの抽選と移動が行われているようだ。
さて、どんなゲームになるのだろうか?
要するにだいたいの地形を簡易的に作れる巨大演習場です。