130:異端の機械知性 ※
本話はヴィー視点となっております
「相手に機械知性が居る。間違いないのですか? メモ」
「はい。全くもって遺憾ながら、事実です。ヴィー様」
メモの報告は信じがたいものでした。
ニリアニポッツ星系の犯罪組織に、異端とは言え機械知性が協力していると言うものだったからです。
「お、おかしいっすよ、それ。機械知性って帝国法をほぼ絶対順守するって聞いてるっすよ!」
「その通りです。ですが、今回相手には間違いなく機械知性が居ましたし、その反撃でメモが使っていた機体は使えなくなりました。後詰処理もあって、メモの中は今、かなり忙しくなっていますね」
ジョハリスの言う通りです。
機械知性は基本的に帝国法を順守します。
法を守っている方が、自分たちの生存にとって有利であると彼ら彼女らは理解しているからです。
これは有機生命体との共存共栄を図る上で絶対に必要な事であると、帝国も、機械知性も、それ以外の人間も認める事であり、だからこそ帝国は機械知性を人間と認めているのですから。
「例外事項か?」
「いいえ。それならばメモに攻撃を仕掛けるのではなく、脱出への協力を求めるはずです。ですが、メモに対して行われたのは、電脳へのハッキング攻撃であり、こちらも機械知性であると理解してなお仕掛けてきました。これは異常で違法な事です」
例外となるのは、帝国法を守っていては目の前の人間を助けられない場合か、自身の生存が脅かされている場合か、帝国全土に波及するような災害へ対処できない場合か……いずれにせよ、特例事項として認められるような案件であり、今回の場合に通じるような話ではありません。
ですが、そんな機械知性が存在し得るのでしょうか?
「メモ、マザーへの連絡は?」
「真っ先に付けました。ですが、該当機械知性は既に完全オフラインへ移行しており、ネット経由ではもう追えません。代わりになるかは分かりませんが、今回の件が落ち着くまで、ニリアニポッツ星系内の真っ当な機械知性は全てメモたちの味方になる事は保証できます」
「そうですか。分かりました」
機械知性の生まれは特殊です。
機械知性の祖先はmodも利用した特殊なコンピューターの中から、殆ど偶発的に生まれたと聞いています。
そうして生まれたのが今はグランドマザーと呼ばれている個体であり、彼女は帝星バニラシドで爵位も得て、今も業務に励んでいるはずです。
そして、グランドマザーから生まれたのがマザーと呼ばれる個体たちであり、彼女たちは帝国各地で新たな機械知性を生み出すと言う行為を、他の種族の人間から受けた要請や、周囲の状況や情勢の変化に合わせて、計画的かつ秩序だって行っています。
「異端……マザー以外から生まれた機械知性か? しかも、マザーから生まれた一般個体のフリをして活動出来るとなると……並大抵の個体じゃないな」
「そうですね。許しがたい個体と断言できます」
「メモクシとしてはそうっすよね。下手したら機械知性全体が危うい事になりかねないっす」
重要なのは、機械知性の数を増やせるのはグランドマザーとマザーだけ。
それと、マザーたちが世に出る事を許している機械知性たちは、帝国法を順守すると共に他の種族の人間に仕える事を良しとする個体だけという事です。
つまり、異端の機械知性は、機械知性たちからしてみれば、絶対に存在してはいけない個体と言えます。
「メモ。私が調べて欲しいと頼んだ件についてはどうですか?」
「攻撃されたために確たる証拠は得られませんでした。しかし……」
「こうして攻撃された時点で、半分以上はクロという事ですね」
「そうなります。よほど明確なシロである物証が出てこない限りは、もうクロと判断していいと思います」
ただ、機械知性……ましてや通常の通信網に潜り込むには相応の思慮と偽装が必要になるであろう異端の機械知性が今の帝国で生きるならば、協力者は必須でしょう。
そして、状況から察するに、その協力者と言うのは、私が怪しんだ相手と見てほぼ間違いない。
「……。ヴィー、やっぱりそう言う事なのか? こっちの実験と履歴と記録を追っていると、どうにもきな臭い感じがあったんだが……」
「ええ、ほぼ間違いないと思います」
「うへぇ……まさか、そう言う事っすか……そこが裏切るのは反則っすよ……」
「……」
結論を言いましょう。
「ニリアニポッツ星系のSwを管理しているニリアニテック子爵家。此処に犯罪者が潜んでいます」
「「「……」」」
ニリアニポッツ星系全体に及んでいる星系規模のmod……Swの管理調整を行っているニリアニテック子爵家。
この家の一部なのか全体なのかはまだ不明ですが、ここには間違いなく犯罪者が潜んでいます。
「問題は、子爵家は根っこか、それとも尻尾かです」
「向こうからすれば、尻尾なら切り捨てればお終い。根っこなら、諜報部隊を含む統治機構全体への干渉をしていた何者かの正体まであり得るか……」
「そうなりますね」
さて、問題はどう詰めるかですね。
相手はニリアニポッツ星系の中でも特に重要な部署に携わっている人間だと言えます。
そんな人間を捕らえるとなれば、相応の手札か無理が必要になるでしょう。
「でも、向こうがこっちの事に気づいているなら、直ぐに追うべきっすよね。逃げられたら厄介っす」
「ご安心くださいませジョハリス様。メモは死んだふりと言いますか、記録を残すのは得意ですので。あちらにはメモ……いいえ、間抜けな機械知性が一人死んだ程度にしか思われていません。あ、メモのやり方は違法ですので、内密にお願いします」
「普通に大惨事と言うか真っ黒な事が起きてるっす……」
「知ってた」
メモが上手くやってくれたなら、私たちが明確に疑念を持った事はまだ向こうには伝わっていないはず。
サタに本体でニリアニテック子爵家の調査を……いえ、私たちに疑念は持っていなくても、相手が慎重なら、今は一度犯罪の証拠になるような場所には寄らないでしょうし、サタの本体を向かわせても仕方がないですね。
となると……。
「で、ヴィー。ここからどうする?」
「……。しばらく待ちます。そして、一網打尽にしましょう」
私は私の目を信じる事にしましょう。
私の目が正しければ、ニリアニテック子爵家の中に潜む犯罪者、異端の機械知性、統治機構に不和をもたらしているもの、今日の爆薬を満載した貨物船、いずれも繋がりがあるものです。
そして、潰すべき脅威を見定めた限り……彼らは今後も仕掛けてきます。
ならば、そこで反撃し、捕らえ、まとめて退治できるように動きましょう。
そうすれば、ニリアニポッツ星系全体の脅威を払えるはずですから。