129:手綱を握れない馬には乗れない
ニリアニポッツ・アステロイドベルトカップ・戦闘機16時間耐久レース開始から16時間経過……つまりはレースが終わった。
優勝は1番ファステストランス。
前評判通りに終始、優位に事を進めて、最後には駄目押しだと言わんばかりに独走態勢に入っていった結果の優勝だった。
完走したチームは32チーム中18チーム。
多少の怪我人は出ているものの、重傷者以上は出ていない。
また、レースに影響が出るような大事故も発生していない。
つまり、少なくとも表面上は何事もなく終了した。
「ようやく到着っすねぇ」
「本当にようやくだな。待ちくたびれた」
「そうですね。おまけにやってきたのは諜報部隊ですか……」
さて、表がそうやって動いているのなら、当然のように俺たちが居る裏側でも事は動いている。
ヴィリジアニラの手元にはレースの開催に乗じるように発生した事件や、合わせて取り締まった犯罪組織についてのデータが集まっていて、その総数はかなりのものになるようだ。
そして、その中には俺が仕留めた爆薬満載の貨物船も含まれている。
「ん? あ、本当っすね。おかしいっすねぇ。警察に連絡したのに、諜報部隊が堂々と来るんすか」
「時間的には妥当なところだが、割り込んだか、事件の方向性を考えてか……まあ、きちんと処理してくれるなら問題はないんじゃないか?」
「そうですね。きちんと処理してくれるなら、私たちがとやかく言う必要はないでしょう。事情聴取についても画面越しに最低限で済ませてくれるようですし」
現在、あの貨物船の近くには、何が起こったのかを調査するための宇宙船がやってきている。
所属は諜報部隊。
しかし、表向きは帝国軍に属しているようなので……不審事件捜査専門なら問題は無いし、ヴィリジアニラに阿った結果ならまだマシか。
問題は隠滅に動いた場合だな。
「サタ、例のものは?」
「当然仕込んである。俺の特異性を生かした発信機だから、気づけるとしたらセイリョー社、宇宙怪獣モドキの黒幕ぐらいのはずだ」
「きちんと処分されるかを疑わないといけないなんて、面倒な話っすね」
対策は既に打ってある。
貨物船の装甲板に偽装するように作った人形……と言うか瓦礫を混ぜてあり、何処に行ったのかはヴィリジアニラの髪飾りと同様に直ぐに探れる。
きちんと基地に持ち込んで調査し始めたなら、誤解を招かないためにも直ぐに引っ込めるが、そうでないなら……対処案件だな。
ちなみに偽装の範囲は見た目だけでなく、mod、Sw、OSにも及んでいるので、専用機器できちんと調べるならともかく、目視で判別できるのはヴィリジアニラか宇宙怪獣ぐらいだろう。
「では、私はレストルームで取り調べを受けて来ますね。相手が諜報部隊なら私の目とサタの力については知っているはずなので、そうかからないはずです」
「『セクシーミアズマ』は基地コロニーに戻しておくっす。それなりに時間がかかるっすから、今日はこれで活動終了っすね」
「じゃあ俺はSwの調査に戻るか。後もうちょっとで、とりあえずの所はまとめられるはずなんだよな」
余談だが、ヴィリジアニラとジョハリスは俺が貨物船を撃墜し、レースが終了するまでの間に一度ぐっすりと寝ている。
これはレースも捜査も時間がかかるので、休める時に休んだ結果だ。
そんなわけで、モニターにレースコロニーへと亜光速航行で戻って凱旋を始めたファステストランスを映しつつ、俺たちを乗せた『セクシーミアズマ』は基地コロニーへと戻った。
そうして、基地コロニーに戻ったところで、三つほど特記事項があった。
「自由行動許可ですか。よろしいのですか?」
『こちらの言う事を聞く気など無いのだろう。だったら好きにしろ。代わりに何かあった時の責任も全部そちら持ちで、私たちからの援護には一切期待するな』
「分かりました。では好きにさせていただきます」
一つ目、『バニラプレス』社に居る諜報部隊の人はヴィリジアニラと言うか俺たちについて匙を投げた。
成果はくれてやるが、責任もこっち持ち。
邪魔をしたなら犯罪者として対処する。
情報が欲しければ自分で何とかしろ。
との事。
うーん、まあ、別に困る話ではないな、うん。
自分の能力ではこっちを制御しきれないと判断しただけ、むしろ優秀まであるかもしれない。
「貨物船の残骸はきちんとコロニーに運び込まれたみたいだな」
「後はちゃんと調査されるかっすね」
「この感じだと問題はなさそうだけどな」
二つ目、爆薬満載貨物船を回収しに来た諜報部隊はちゃんと仕事をしているようで、一通りの残骸を回収した後、俺たちが居るコロニーへときちんと戻って来た。
入港した場所も、きちんと帝国軍のドックであるし、残骸の量が不自然に減っていたりもしない。
少なくとも現状では問題なしと言えるだろう。
「っ!? してやられましたね……」
「ん? メモクシ?」
「メモ?」
「どうしたっすか?」
三つ目、メモクシの意識が戻ってきた。
ただし、その表情は機械知性とは思えないほどに不機嫌なものだ。
「ヴィー様。報告します。どうやら本件には異端の機械知性まで関わっているようです」
「……!?」
「どういう事っすか?」
「はー、大事になって来たな……」
そして、その報告内容も、俄かに信じがたい……いや、信じたくないような内容だった。