125:宇宙船レース開始
『各機一斉にスタートオオオォォォ! コロニーを飛び出していくううぅぅ!!』
「始まったな」
「始まりましたね」
「スラスター出力問題なし、進路同期問題なし、異常行動を取っている機体なし……観戦組はとりあえず大丈夫っすね」
ニリアニポッツ・アステロイドベルトカップ・戦闘機16時間耐久レースが始まった。
ゲートコロニーからほぼ同時に32の戦闘機が飛び出して、小惑星帯へと突っ込んでいく。
それに追随するのは二つの集団。
一つは俺たちが属する観戦者の集まりで、もう一つは戦闘機のサポートをするメンバーたちが乗る各チームの宇宙船だ。
『まず飛び出したのは1番ファステストランス! それを追いかけるように7番ブラックシャドウ、続くのは……』
16時間経過後時点で最も小惑星帯の中を進んだチームが勝ちと言うシンプルなルールであるため、殆どの戦闘機は我先にと飛び出していく。
ニリアニポッツ星系の小惑星帯は大小様々な小惑星と隕石が動き回り、ぶつかり合っている危険地帯なのだが、彼らは何と言う事はないと言わんばかりに、素早く、最小限な軌道変化だけで突き抜けていく。
そして、少しずつだが、先頭と後続で差が開いていく。
公式サイトに載っているパンフレット通りならば、この手の宇宙船レースはハード、ソフト、modなどあらゆる部分でレギュレーションが細かく決まっていて、速さだけを見るならそこまで大きな差はないはず。
なのにこの差は……純粋にパイロットの腕の差なのだろうな。
『おおっと! 後方から激しいブラスターの連射! 22番ヒカリノアメアラレだ! その猛攻に13番ヤマヤマラクがクラッシュ! だがここでそんな事をしてしまえば……案の定だ! 22番ヒカリノアメアラレもクラッシュ! 他のチームから滅多打ちにされてしまったぁ!!』
「あら早速ですね」
「おー、結構派手に吹っ飛ぶっすねぇ……」
なお、本レースに参加する戦闘機たちは進路を塞ぐ障害物を排除するために、相応の出力のブラスターmodを装備する権利を持っている。
それと、どのチームも戦闘機は三機まで準備しておくことが義務付けられており、二度までならばクラッシュをしても、多少の時間と引き換えにクラッシュした位置から再スタートする事が許されている。
『ふーむ、今回は大人しめの立ち上がりですね。二機しかクラッシュしないとは』
『そうですねえ。普段ならば一機使い捨ての代わりに先行逃げ切り皆殺しと言う勢いで、自爆するチームが居るものなのですが……レギュレーション調整の影響ですかね?』
『でしょうな。まあ、流石に自爆は問題がありすぎた。コロニーにも迷惑が掛かりますしね』
「……」
うんまあ、見て分かる通りに、結構どころでなく荒っぽいことも許されているレースなのだ。
障害物と言うのが他のチームの機体でも問題は無いし、自身の進行方向後方にブラスターの銃口が向いていても問題は無い。
駄目なのは、クラッシュした機体から投げ出されたパイロットを狙い撃つくらいである。
うーん、レース参加者は誰もが高出力のシールドmodなどを持ち込んでいるからこそ、許される競技だな、これ。
「さて、開幕が終わったなら、暫くはただただ飛ぶだけですね」
「そうっすね。際どいインを突いて前に出るとか、狙撃ブラスターとか、機雷とか、色々と妨害できる要素はあるっすけど、そう言うのを仕掛けるのはもうちょっと先、少し緩んでからだと思うっす」
「ソウカー」
と言うか、いや本当に、とんでもなく荒っぽいな。
俺は興味がなかったから、ジョハリスとヴィリジアニラの二人と違って碌な知識も入れずに見始めたのだが、本当に荒っぽいな。
完全に戦闘しながらのレースだぞ、これ。
「とりあえず俺はポップコーンを味わうか」
「そう言えばサタ。どうしてポップコーンが3種類もあるんですか?」
「折角だから色んな味を試してみようと思ってな。ヴィーとジョハリスも食べるか?」
「食べます」
「食べてみるっす」
俺は買ってきたポップコーンを自分の前に並べる。
横にはSwの影響で僅かに光っている炭酸飲料を置く。
では、食べてみよう。
「ふむふむ、普通の塩味」
「そうですね。普通の塩味です」
「本当に普通っすね」
一つ目、普通の塩味のポップコーン。
うん、本当に普通。
シンプルにしょっぱいだけのポップコーン。
でも普通は普通で素晴らしいと思う。
「こっちはキャラメル味ですね」
「甘くて美味しいっす」
「そうだなー。確かに美味しいなー」
二つ目、定番フレーバーの一つとも言えるキャラメル味。
ただ今回買ってきたこれは、糖分控えめにするためなのか、キャラメルの量が少なくて、減らした分を調味modによって補っている感じだな。
普通の人間の味なら問題なくキャラメルの味を感じられるし、俺も意識をしなければそれで済むのだが、品評モードに入っている舌と頭だと、どうしてもmodを使っているなと感じてしまう。
一応言っておくと、悪い点は一切ないぞ。
きちんとキャラメルの甘い味はしている。
なのに、キャラメル分のカロリーは増えず、変な代謝物も生成されず、と言うのが、このキャラメル味modを使ったポップコーンだからな。
これは俺個人の趣味嗜好の問題だ。
「サタ。この赤いのは何です?」
「チリペッパー味」
「ピリピリするっす!? 痛いっす!」
三つ目、チリペッパー味。
要するに辛味を付けたポップコーンだな。
これは……辛い、シンプルに辛く、口の中でサクサクする。
だが美味い。
ジョハリスはギブアップしたようだが、俺個人的にはこれは当たりだな。
ちなみにmodは使っていない。
ああ、手が進む……。
「かっらぁ!?」
「サタ!?」
「かた、塊があったぁ!? あつ、いったぁ!? 水ぅ!!?」
と、思っていたら、フレーバーのぱらつき具合に偏りがあったのか、舌に辛味をもたらしている粉の塊が直撃。
思わず悶絶する事になった。
直ぐに飲み物を飲むことで難を逃れたが……あー、ふー、あー、やべぇ。
「これは、気を付けて食べる必要がありそうですね」
「サタは何処でこんなのを買ってきたっすか……」
「あー……祭りに合わせて出してた屋台。直感じゃいい感じだったが……調味の丁寧さ的にハズレの部類だったのかもな。うーん、味自体は悪くなかったんだけどなぁ……」
「そう言う事もある、と考えて割り切るしかなさそうですね」
「そうっすね」
「だなぁ」
とりあえず記事にはもうちょっと味をいい感じに均一化させてほしいと書く案件だなぁ、これは。