122:人造人間は必要だから作る
「ふんふふ~ん♪」
今日の鶏肉の鳥は正式名称をプロテインブロイラーと言うようだ。
ニリアニポッツ星系で肉体競技系の選手が食べるものとして、modも利用して品種改良を重ねられたニワトリであり、通常のニワトリよりも良質なタンパク質を摂取する事が出来るらしい。
勿論、生産性や味なども、コストが許す範囲で高められているようだ。
そして白菜だが、こちらも正式名称はイオンハクサイと言うらしい。
やはりニリアニポッツ星系でmodも用いて独自改良が重ねられた品種の白菜であるらしく、通常の白菜よりも各種ビタミンやイオン類が多く含まれており、体内に保有している水分は純粋な水よりもスムーズに体へ吸収される性質を持っている。
また、この性質は一緒に食べるものにも適用される。
つまり、プロテインブロイラーとイオンハクサイを一緒に食べることによって、様々な栄養を効率よく体に吸収する事が出来る、らしい。
うん、俺のオリジナルレシピではなく、ニリアニポッツ星系でよく食べられている家庭料理なのだ、これは。
「ただ切って煮るだけでいいんですね」
「家庭料理だからな、基本的な形はシンプルだ。まあ、一般家庭だと、此処から好みの調味料や具材を少しだけ追加したり、煮込み時間を調整したりで、各家庭の味を出したりするらしい」
「なるほど。今回は?」
「シンプルにスープになるくらいに煮ます」
調理方法はシンプルで、具材を流水で洗い、水気を払い、手ごろな大きさに刻んで、少量の水でまとめて煮る。
これでいい。
なお、追加の具材、どの程度煮るか、水の量をどうするかはお好み。
今回は追加具材なし、煮込み具合は調理補助modも使って白菜がクタクタになるくらいで、水の量は白菜から出る水を計算に入れた上で多少濃い目になるようにした。
「と言うわけで完成」
「お手軽ですね」
「だな」
出来上がった料理を皿に盛り、主食として温めたパンを用意。
追加のおかずでフィーカンド社の缶詰を少しだけ開けておく。
うん、これで完成だな。
「出来上がったぞ……んー?」
「じ、人造人間関係、ブラックっす。ブラックっすよ、これは……」
「ですから、食事前は止めておいた方がいいとメモは言ったのです。ジョハリス様」
「どうやらジョハリスが人造人間関係を調べたようですね」
「あー、なるほど」
俺とヴィリジアニラで食事をテーブルへと持っていく。
ジョハリスは……プルプル震えているなぁ。
まあ、人造人間関係はどうしてもなぁ……。
「ヴィリジアニラ様、これで帝国は良いんすか……?」
「良くはないです。ですが、人造人間を必要としている場所には相応の理由がありますから、現状ではどうにもならないですね」
「ただの機械じゃどうしようもなく、けれど死亡率は安全策を講じてなお無視できない程度には高い。そんな場所が基本だからなぁ。人造人間が使われている場所は」
「宙賊とかじゃ駄目なんすか?」
「駄目なようです。過去にジョハリス様と同じこと考えた方も居たようですが、宙賊になるような連中では不都合が多数出たようですね」
「ぶっちゃけ、宙賊は宙賊で、9割方死ぬか不都合があるような場所に投じると言う使い道があるから、人造人間を使う場所に使うのは勿体ないと言うのがあるしな」
「もっとブラックだったっす!?」
ぶっちゃけどうにもならないのだ。
どうにかなっているなら、帝国の倫理観からして、とっくの昔にどうにかしてる。
事実、本人の意思など関係なく反応だけ見たい実験を行う場合には、実験動物とか、逮捕された宙賊とか、死刑が確定している情状酌量の余地なしな凶悪犯が使われていて、人造人間が使われる事はなくなっているからな。
今もなお合法で人造人間を使っているのは、人造人間を使うしかない場所ばかりなのだ。
「ほら、美味いかは分からないが、温かい飯でも食べて切り替えるぞ。明日からはいつも通りでいかないといけないんだからな」
「ジョハリスが人造人間に対して優しい心を持っている事は良い事で、私としては嬉しい事です。でも今は食事を楽しみましょう」
「ううっ、分かったっす」
「では、メモもエネルギーパックをいただきましょう」
と言うわけで、俺が作った鶏肉と白菜のスープをいただくとしよう。
「あー……温まるっす……」
「美味いなぁ……これ……」
「ホッとしつつも栄養を感じる味ですね……」
味は……素人が作った割にはいい感じではなかろうか?
適度な甘味、塩味、うま味があって、スープ単体でも、パンをくっつけて食べてみても美味しい。
クタクタになるまで煮られた白菜はそんなスープを内部に沢山蓄えて、噛む度に口の中に溢れさせてくれる。
鶏肉もスープを吸って美味しく、同時に柔らかく、簡単に口の中で蕩けていくなぁ。
うーん、美味しい。
そして、フィーカンド社の缶詰も美味しい。
今回は魚の切り身を砂糖醤油で煮たものを出してきたわけだが……ちょっと試すか。
と言うわけで、缶の中身をスープに少量入れてみる。
「あー、これはこれでいいなぁ」
「そうですね、これはこれでいいものですねぇ」
「スープが甘じょっぱくなったっすねぇ」
うん、いい感じの味変だなぁ。
元となるスープの度量が広いから、量さえ間違えなければ、だいたいのアレンジが通用しそうだ。
「それにしてもサタ。このレシピは何処で?」
「普通にニリアニポッツ星系サーバーにある家庭料理のサイトだな。分量や手順がしっかりと書いてあって、妙な記述もなかったから、当たりサイトだと判断したんだが、正解だったみたいだ」
「なるほど、メモ」
「はい。サイトのアドレスは記録しておきます」
どうやらヴィリジアニラの御眼鏡にもかなったらしい。
うん、美味しい料理が広がる事は良い事だと思うし、気にしないでおこう。
俺は自分の分を美味しく食べ終えた。