121:人造人間はなぜ生まれる?
「世話になった」
「どういたしまして。ただ次は仕事を持ってきてくれると助かります。ああ、お前自身じゃなくて、他から依頼って意味でな」
「あー、まあ、機会があればな」
話し合いを終えた俺たちは何事もなかったかのように部屋の外に出ると、派出所の店員に鍵を返してから、店を後にする。
で、俺たちが店を後にしたところから、しばらくの間、本体で派出所の様子を見ていたのだが……うーん、一人だが非合法な潜入をしたな。
そして、さっきまで俺と話していた店員によって取り押さえられた。
帝国軍諜報部隊にしては練度が低いと言うか、初動が違法と言うおかしな動きとか、とにかく怪しい奴が居るなぁ……。
「ヴィー。早速一人捕まったんだが」
「ええっ……」
「……。諜報部隊ではなく犯罪組織の方でしょうか?」
「どちらにせよ末端なのは確かっすね」
とりあえずヴィリジアニラに報告。
全員、困惑しているが、事実として捕まってるからなぁ……。
「そう言えばサタ。先ほどの方はサタを同期と言っていましたが……どういう意味ですか?」
「あー、同じタイミングで製造された人造人間、と言う意味しかないぞ。あちらには悪いが、俺は顔にも名前にも覚えがない。俺は色々と特殊だから、同期との交流も少なかったしな」
「なるほど」
それはそれとして、俺はヴィリジアニラの質問に答える。
と言っても、俺と同じ年に製造されて、宇宙怪獣である俺とは違って普通の人造人間として教育運用されて、五年の雇用期間が明けてもセイリョー社から離れる事を選ばず、派出所の店員として関わる事を選んだ個体、ぐらいしか俺に言えることはないな。
まあ、本社で五年間仕事を続けて五体満足である事、会社の顔ともいえる部署に赴任出来ている事、迂闊に踏み込んだ人間を難なく制圧している事などから考えて、同期の中でも上澄みと言うか優秀な個体なのは確かか。
「サタに見覚えは無いっすか?」
「無いな。ぶっちゃけ、俺は人の顔と名前を覚えるの苦手だし、人造人間たちの顔って割と似てるし」
「ですが、相手はサタ様の事を知っているのですね」
「俺は特殊だったからな。とりあえず俺視点じゃ、他よりちょっと縁が深い他人くらいだな。兄弟と言うにはセイリョー社が作ってる人造人間の数は多すぎる」
なお、俺は同期と比較して優秀だったか否かを論じる位置には居ない。
宇宙怪獣だからな。
完全にオンリーワンだから、全くの別枠だ。
「と、夕飯の材料を買っていくけどいいか? いい感じの材料が揃っていそうな感じがある」
「そうですね。そうしましょう。メモ」
「はい。サタ様、こちらが船内在庫の記録です」
「助かる」
今日の予定はもう無い。
こういうコロニーに居るなら、普段ならば夕食は適当なレストランに入るか、弁当を買うか、ホテル内で食事を摂るかと言うところなのだが……ニリアニポッツ星系の文化がそうなのか、お店で売っている料理の材料の質が良い。
この鶏肉とか、かなり良好なタンパク質を摂れそうな感じだ。
うん、買っておこう。
「ちょっと話が戻るっすけど、そう言えばセイリョー社ってなんで人造人間を作っているんすか? modの検査や開発をしている会社に必要とは思えないんすけど」
「んー、簡単に言えば人海戦術が必要になる場合があるからだな」
俺は白菜を見比べながら、ジョハリスの質問に答える。
「人海戦術っすか」
「セイリョー社の社員は確かに優秀だが、無尽蔵の体力手数時間を持っているわけじゃないし、理論と計算だけで終えられるとは限らないのがmodの検査だからな。どうしたって人手は要る。1検査1分のを100パターンくらい試すならともかく、10万とか20万とかやってられないだろ?」
「それは……確かにそうっすね」
とは言え、此処は公共の場だからな。
血なまぐさい話題については出さない方が賢明だろう。
例えば、小規模だが致命的な事象破綻が発生した結果、体が半分くらい消し飛んで死んだ同期が居る、とかな。
うん、そう、セイリョー社は確かにホワイト企業だが、それは法的な意味であって、業務内容を詳しく見ていけば、赤黒い部分も沢山あるし、その赤黒い部分は社会全体の為に排除できない部分でもある。
だから人造人間を作る許可をセイリョー社は得ていた。
そう言う何かが起きた時に命に関わる仕事を、低コストでありながら人間の柔軟性を以って行える人材が必要だからだ。
俺は宇宙怪獣だから関わりは薄かったが……あの部署から漂ってくる臭気が好きになれる事は一生ないだろう。
まあでも、それでもやはりセイリョー社は白い部類なのだ。
雇用期間を五年と定めているのは帝国法がそうだからだが、セイリョー社では五年の間に十分な教育をして、それが過ぎれば十分な金を渡し、その上で普通の人間として生きることを許してくれているのだから。
あの部署にしても、好んでいる研究者は……片手の指で足りるくらいしか居なかっただろう。
何かしらの荒事や危険な実験があっても、出来る限り安全な装備と計画を立てて動いていたようだし、そもそもセイリョー社がコロニー全体に常時展開していたmodもアレだったからなぁ……うん、やっぱりホワイトだな。
少なくとも、人造人間を安価な労働力として使い潰した挙句に倒産した何処かの会社とか、人造人間を食用人間として好事家に売っていた犯罪者とか、自己意識を持たないように改造した人造人間を戦力として使っていた宙賊とか、そう言うのに比べたら、はるかに真っ白だ。
「サタ?」
「ん? ああ、ちょっと考え事をしてた」
「そうですか。問題がないなら構いませんが……」
と、少し考えこみ過ぎてしまったようだ。
とりあえず白菜は質が良い方を購入しておこう。
「うーん、変な事を聞いちゃったっすかね?」
「人造人間周りは帝国内ではどうしてもダーティな部類に入ります。自然に流れてくる話ではありませんが、秘匿はされていませんので、興味があるなら、調べてみるとよろしいかと」
「うっ、精神的に余裕がある時に調べてみるっす」
ジョハリスとメモクシが小声で喋っている内容は……まあ、聞こえないフリをしておくか。
俺は当事者とは微妙に言い難いしな。
「とりあえず夕飯は白菜と鶏肉を一緒に煮て、スープ兼主菜としようか」
「それは……美味しそうですね」
「ジュルリっす」
うん、それよりも今は夕食だな。
出来る限り美味しく仕上げよう。