118:誰かのサボタージュ
「これは……ヴィー様。少々厄介な情報が入ってきました」
「メモ?」
それは昨夜の事。
明日に備えて、現地で一般的に得られる情報の取得と精査をしていた時だった。
メモクシが『セクシーミアズマ』の排出と補給作業に紛れ込ませるように送られてきた小型メモリを見つけた。
小型メモリを見つけたメモクシは直ぐに中の情報を確認。
そして、ヴィリジアニラの下へと持ってきた。
「……。サタ、ジョハリス。どうやら私たちが解決するべき脅威そのものは極めて薄くですが、ニリアニポッツ星系にも発生していたようです」
「……。そうか」
「……。分かったっす」
俺は情報メモリの中身を確認していない。
だが、メモクシとヴィリジアニラ曰く、情報の差出人はニリアニポッツ星系の諜報部隊の元締めとの事。
で、肝心の情報の内容は……。
最低でもしばらく前、下手をすれば以前からずっと、ニリアニポッツ星系の諜報部隊には犯罪組織と内通しているものが居て、そいつが犯罪組織に情報を流すだけではなく、もっと直接的に諜報部隊へサボタージュ……仕事の効率を低下させるような妨害行為を働いている疑惑があるとの知らせだった。
そして、この情報を見たヴィリジアニラの目は告げた。
この問題を放置する事は、ヴィリジアニラ自身あるいは帝国全体に対して多大な被害をもたらすことになる……つまりは脅威である、と。
「明日の『バニラプレス』社の人間と会う事はそのままか?」
「そのままですね。どうやらサボタージュそのものは確実にあるのだけれど、誰がそれをしているのか……と言うより、元凶がどこに在るのかは、諜報部隊の元締めの方でも掴めていないようです」
となれば、俺たちが動くことはもう確定である。
問題はどう動くかだ。
まず、明日の『バニラプレス』社の人間と会う事は、既に先方に面会の要望を出している事から確定。
そうでなくとも、『バニラプレス』社の人間に四人で会う事は、フラレタンボ星系に居た時点から、依頼の一つとして組み込まれていたそうなので、ずらすことは出来ないようだ。
「そうですね……まず、情報源が一つしかないのは危険です。下手をすれば、この情報を送って来た元締めこそがサボタージュ画策の主犯である可能性だってありますから。なので、正しい情報を得るために、多角的な情報収集が必要ですね」
「そう言う事ならウチは『エニウェアツー』の支社の方へとこっそり行っておくっす。こっちの機体はメモクシ、頼むっすよ」
「かしこまりました。ではメモも、専用のネットワークを用いて、現地の機械知性から情報を得ておきましょう。機械知性は特別な事情がない限りは帝国法を順守しますから、信頼のおける情報源になるはずです」
が、それなら先方にバレないように、秘密裏に他から情報を得ればいい。
と言う事で、ジョハリスは普段使っている機体をメモクシに任せて、コロニーの配管やダクトへ移動。
それを伝ってコロニー内にある『エニウェアツー』の支社へと赴き、情報収集を行うようだ。
メモクシも、機械知性以外は実質立ち入り禁止である専用ネットワークに潜って、情報を集めるらしい。
「俺は……護衛に専念でいいか」
「いえ、サタも護衛だけでなく、件の検証を進めておいてください。何を以ってサボタージュが行われていると元締めが判断したかによっては、そちら方面から詰めていくかもしれませんから」
「分かった。やっておく」
で、俺は件の検証……特定の分子に反応して発光するSwを無効化出来てしまう件についての検証を進めておく必要がある、と。
まあ、やっておこう。
どうにも此処までに読んだニリアニポッツ星系で発生している犯罪関係の資料を見る限り、ニリアニポッツ星系で頻発しているのは、各種競技に関係する形での犯罪のようで、その中にはSwをすり抜けるような形で行われたドーピング関係の事件もあるようだからな。
とまあ、こんな具合に、俺たちは各方面から情報を得て、誰が信頼出来て誰が信頼できないかのラベリングを独自にやる事から進めなければいけなくなってしまったのが現状だった。
「それで? ヴィー的には『バニラプレス』社の人間はどうだったんだ?」
「私たちが会った人はシロですね。むしろ被害者と言っていいでしょう。サボタージュのせいで、仕事に支障をきたし始めているからこその私たちへの対応でしょうし」
「メモも同意します。ただ、あの方の出世については、能力的に現状が限度である事。それを認められずに暴走し、結果としてサボタージュになっている可能性までは否定できないと思います」
「うんまあ、余裕はなさそうだったな、確かに」
で、時は今に戻り、俺たちはジョハリスと密かに合流するべく、コロニー内を歩いている。
なお、『バニラプレス』社のあの人については……もうちょっとヴィリジアニラの立ち位置について考えた方がいいんじゃないかなと言うのが、俺の感想である。
ヴィリジアニラは『バニラプレス』社に記事を卸しているだけで社員ではないし、諜報部隊的にも皇帝直属の部隊のようなものなので、命令できるような相手ではないのだ。
ヴィリジアニラ自身が、そっちの方が物事が都合よく動くと判断しているから従ってくれるだけで。
まあ、口には出さないでおこう。
二人は分かっててスルーしているだろうし、俺が口を出したら、現状維持で済まない事になりそうだしな。
「あちらにセイリョー社の派出所がありますね。ちょうどいいと思いますが、どうでしょうか?」
「そうですね。いいと思います」
「まあ、話は通しやすいか」
『助かるっす』
俺たちはセイリョー社の派出所に入った。
此処ならば、業務内容と技術レベル的に外から監視されないで済む部屋がある事だろう。