114:ニリアニポッツ星系到着
『『セクシーミアズマ』は間もなく超光速航行を終了してハイパースペースからリアルスペースに移動するっす。船員各自は衝撃、周囲の変化、ニリアニポッツ星系のガイドコロニーから行われるスキャンに一応備えて欲しいっす』
「何事もなく、だな」
「そうですね。何事もなくです」
「いい事です。毎度毎度ではメモは生きた心地がしませんから」
さて、フラレタンボ星系からニリアニポッツ星系まで移動する旅路は何事もなく終わるようだ。
うん、何事も無いって素晴らしい。
メモクシではないが、毎回毎回、宙賊に襲われるとか、宇宙怪獣に襲われるとか、そんなトラブルに見舞われるのはおかしいし、ごめんだからな。
『戻ったっす。当機はこれから3分後にニリアニポッツ星系のSw範囲内に進入し、それと同時にニリアニポッツ星系のガイドコロニーからスキャンを受けることになるっす』
「お、おおっ……」
「サタ?」
「サタ様?」
「ああいや、本体の方で見えたものが見えたものだったから、ついな。いやー、本当に賑やかな星系なんだな……」
周囲の風景がハイパースペース内特有の黄金色と薄い虹色の膜から、リアルスペース特有の星々の瞬きは見えども基本的には何処までも続く漆黒の宇宙へと変化する。
だが、ニリアニポッツ星系では静かと言う言葉と宇宙と言う言葉は結び付かないようだ。
俺の本体の視線で見えたのは、大小無数のコロニー群に、恒星の光が当たらない部分でも照明の光によって明るく照らされている惑星たち、それらを繋ぐように行き交う無数の宇宙船たちによって構成された線だ。
これまでに俺が訪れた星系で最も宇宙船の行き交いが激しかったのはグログロベータ星系だが、ニリアニポッツ星系の宇宙船の行き交いはその比ではない。
本当にとてつもない数の宇宙船が飛び交っていた。
で、そのような事を話したところ、ヴィリジアニラたちからはこんな返答があった。
「なるほど。サタの視点だからこそ見れる光景ですね、それは。少し羨ましいです」
「そう言う事でしたか。ちなみにサタ様。ニリアニポッツ星系は人が多すぎて、宇宙船の航行においては自動航行を使う事を推奨されている星系です。大丈夫だとは思いますが、サタ様の本体が目撃されないようにしてください。思わぬ事故に繋がるかもしれませんので」
との事。
うん、メモクシの注意事項については気を付けておこう。
うっかりでも姿を出したら、交通事故とか渋滞とか引き起こしそうだ。
『間もなくニリアニポッツ星系のSw圏内に入るっす』
「おっ」
さて、此処で一つ、別の星系からニリアニポッツ星系に入る際に定番と言ってもいいぐらいによくされる遊びがあるので紹介しておこう。
事前に準備しておくのは、人数分+1杯のカフェインを含有した飲料、つまりはお茶、コーヒー、一部のエナジードリンクと言ったものだ。
「では」
「だな」
俺とヴィリジアニラは準備しておいたコーヒーを一気に飲む。
うーん、淹れたて、程よい熱さのコーヒーが胃へと落ちていき、立ち上る香りと苦味が口と鼻の中へと広がっていく。
が、ここで重要なのは味ではなく、カフェインを含んだものを飲んだという事。
そして、ニリアニポッツ星系のSwはカフェインを含む一部分子が発光するようになると言うもの。
では、この二つを組み合わせるとどうなるのか。
「これは面白いですね。人によってははしたなく思われそうなので、身内しか居ない場所でないと出来ませんけど」
飲んだ飲み物が胃の中で光り、体の一部……特に口の中から虹色の光が発せられるようになるのである。
勿論、余分に用意しておいたコーヒーも同様だ。
輝度はそこまでではないが、奇麗に光っている。
と言うわけで、ヴィリジアニラは奇麗に口の中を光らせて笑っている。
そう、ヴィリジアニラは。
「……。サタ? えーと、飲みましたよね?」
「……。これは、ある意味問題では?」
「……。ああうん、これは問題かもなぁ」
はい、俺の口は全く光っていません。
原因は……まあ、単純だな。
「Swの強度がそこまでではないと言うか、異なるOSに対処できていないと言うか、とにかく無効化してしまった感じだなぁ……」
「甘い匂いすらしないので、本当にただ無効化してしまった感じですね」
「なるほど。そうなると、Swに検知されずに一部の物質が通れてしまう事になるので、確かに問題ですね」
どうやらニリアニポッツ星系のSwは俺の体内どころか口腔内にも干渉できないらしい。
いやまあ、対象としている分子の種類の豊富さやら、様々な種族に悪影響を及ぼさないようにするのやら、この星系の主要産業やらを考えたら、強力なSwよりも今のSwの方が便利なのは確かなのだろうけど……現地の治安維持機関にバレたら、色々と面倒事を発生させることになるぞ、これは。
「サタ、内々で検証をしておき、検証完了と共に諜報部隊へレポートを送っておいてください。ただ、治安維持機関にまで通達するのは、私たちがニリアニポッツ星系を離れた後にするように但し書きを付けておきましょう」
「分かった。やっておく」
『ニリアニポッツ星系のガイドコロニーのスキャンが始まるっすよ』
とりあえずヴィリジアニラの言葉通りに、レポートはしたためておこう。
なお、ガイドコロニーから受けたスキャンは当然ながら、何の問題もなかった。
ニリアニポッツ星系生まれ「エナジードリンクって光るものじゃなかったの!?」
フラレタンボ星系生まれ「海って一塊の水なの!?」
グログロベータ星系生まれ「植物の生長、おっそ!?」
ヒラトラツグミ星系生まれ「え、あれ? 上手く浮かばないな、なんでだ?」
???星系生まれ「人の位置が分からなくて不便だ!」
Swの差を理解していないとこんな事が起きるのが、本作の世界です。