113:どこでも美味しい食事を
「さて」
レーションとは広義には配給された食料品となるが、一般的には軍などが携行する簡単に食べられる食品と認識されることが多いだろう。
その中身は文字通りの千差万別。
ただ、此処で言う中身とは、献立だけを指す言葉ではない。
「周囲に可燃物及び、熱に弱いものはなし、と」
「注意が必要なんですか? サタ」
「一応な。レーションの注意事項にも一応注意してくれと書いてあるし」
「ああ本当ですね。油や乾燥物からは離した方がいいと書いてありますね」
例えば調理方法。
最も一般的なレーションだと、現代の帝国の一般家庭ならばほぼ確実にある電子レンジでチンすればいいだけだったりするが、他にもパターンがある。
例えば鮮度保持modと機密処理を徹底する事によって、パッケージングを開けてすぐ食べれるようにしたもの……具体例で言えばトリティカムファクトリーのショートブレッドだな。
あるいはパッケージごと湯煎するだけで食べられるようにしたもの。
レーションと名乗ってはいるが、ある程度の技術を以って調理する必要があるもの。
と言った具合に実に様々だ。
ではここで、今回俺が選んだレーションについて。
このレーションは食べるために特別な調理器具は必要ない。
パッケージ側面に付いている紐を引っ張る事で容器全体が加熱されて、レーション全体が温められると言う仕組みになっているからだ。
結構な熱が発生するので、油や乾燥したものに触れさせないように気を付ける必要はあるが、どこでも温かい食事が取れるレーションと言う事でもある。
また、食べるための先割れスプーンも内蔵しているので、食器の準備や食後の洗浄も不要。
オールインワンと言ってもいいかもしれないな。
「おっ、いい匂いがしているな」
「そうですね。美味しそうです」
と、此処で加熱が完了したので、開封。
すると開封に合わせて、湯気が上がると共に、炊き立ての白米の匂いやつみれにかかったソースの良い匂いが鼻に届いて、食欲を沸き立たせてくれる。
さて、改めてメニューを確認。
主食はゴマが散らされた白米。
主菜は複数種の魚をミンチにして作られたつみれのハンバーグであり、上部のくぼませた部分に少量だがソースが収まっている。
その他副菜として、数種類の野菜による漬物、卵焼き、少量の揚げ物が入っているな。
「ではいただきます」
肝心の味は……うん、美味いな。
俺の舌だと多少の鮮度保持modや調味modをついつい感じてしまうが、味は普通に美味しい部類だ。
白米は炊き立てのような温かさと甘味を持っている。
つみれのハンバーグは噛むほどに様々な魚の味とうま味を感じられるし、塩気が強めのソースに絡めるとなお美味くなる。
漬物は程よい塩気と甘みを併せ持つ以上に、漬物特有の匂いがしていて食欲をそそる。
甘い卵焼きは黄色と白の輝きでこちらの目を楽しませつつ、デザートのように俺の舌を楽しませてくれた。
揚げ物は……どうやら大きめの魚の軟骨を揚げたものだったらしいが、コリコリカリカリとした食感が面白く、美味しいな。
総評するならば、多少塩気が強めかもしれないが、食が進む美味しくて暖かい食事と言うところだろうか。
なお、一番に驚くべきは、これが電子レンジと食器すら不要で、美味しく食べられていると言う点だろう。
先述の通り、食べる前に俺がやったのは、付属の紐を引っ張っただけだった。
そして前提知識となるが、白米にしろ、ハンバーグにしろ、食べるに当たって適切な温度と言うのはそれぞれに異なるのだ。
なのに、どの食べ物も適切な温度に加熱され、美味しく食べられる。
これは地味に凄いと言うか、かなりの技術が使われている点と言ってもいい。
「凄いなぁ。レーション」
「本当ですよね。私も何度か食べたことはありますが、お手軽にこの味が出せるのは凄いと思います」
ちなみに俺はつみれハンバーグ弁当のレーションを食べているが、ヴィリジアニラは親子丼に少量のスープを付けたレーションを食べている。
スープについては流石に外部から予め綺麗な水を入れておく必要があるものの、他に必要な手間は俺が食べたものと同様であり、お手軽に食べられるものになっている。
「ごちそうさまでした。一応、正規の作戦中だと、直ぐに接敵する事はないが、きちんとした野営をするだけの暇がない場合に食べるものとして、こう言う商品が開発されているんだったか」
「ごちそうさまでした。そうなります。ただ、本当に軍が野外で食べているものだと、野生動物を寄せないように香りなどにも注意を払ったものになるそうです」
「ああそうか。そう言うところにも気を付けないといけないんだな。そう考えると、開発担当者は大変そうだ」
「そうですね。細部に至るまで気を使っていて……職人芸の一つだと思います」
と言うわけで美味しく完食。
後で何処が凄いと感じたのかまで含めて、きちんと記事を書いてまとめておかないとな。
『食事が終わったのなら、一時的に操縦席を代わってほしいっす。自動航行で大丈夫っすけど、人が居た方が安心っすから』
「あ、はい」
『サタ様もお願いします。メモもエネルギーの補給をしたいので』
「分かった。今そっちに行く」
と、ここでジョハリスたちから交代要請が来たので、俺たちは操縦席の方へと向かう。
なお、当たり前と言えば当たり前なのだが、『セクシーミアズマ』は乗員が少ないので、食事も休憩も交代制である。
まあそれでも、俺とメモクシと言うその気になれば休息不要な面子が居るし、船体制御用のAIも高水準なので、問題なく運用は出来るのだが……今後は多少忙しくはなるだろう。
12/02誤字訂正