112:ニリアニポッツへ移動開始
『船名の変更を完了。本船は今から『セクシーミアズマ』を名乗るっす。各員、気を付けて欲しいっす』
『船名の変更を確認しました。データの修正も完了。関係各位への秘匿通達も完了。問題ありません』
『では、ただいまより、改めてニリアニポッツ星系への移動を始めるっす』
ニリアニポッツ星系についての話をしてから数日後。
『パンプキンウィッチ』はフラレタンボ星系のプライマルコロニーを出発。
小惑星帯の目立たない場所で、搭載された機能を用いて、船名と外装を変更した。
これで宇宙怪獣メーグリニア討伐に当たって大きな活躍をし、様々な方面から多大な評価を受けた『パンプキンウィッチ』の足取りは途絶える事になり、乗員である俺たちの足取りも一時的にだが途絶えることになる。
とは言え、帝国軍の諜報部隊をはじめとして、関係者、アンテナを張り巡らせているもの、罠に掛けたい相手には『パンプキンウィッチ』と『セクシーミアズマ』が同じ船である事は伝わっているため、ヴィリジアニラの役目を果たす支障にはならない。
ちなみにガイドコロニーでの検査などは当然のようにすり抜けられるらしい。
権力と技術力が合わさるととんでもないな、うん。
「ヴィー。移動が始まったから改めて二点ほど聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「構いませんよ。サタ」
まあ、それはそれとしてだ。
移動が始まったなら、俺がやる事は本体での先行偵察か緊急対応くらいであり、こっちの人間の体は割と暇になる。
レポートの類はまだまだ溜まっているが、暇である。
暇なので、確認するべきことを確認しておこう。
「じゃあ一つ目。現時点からニリアニポッツ星系に着くまでの間に脅威は感じるか?」
「現時点では感じませんね。ただ、最低限の注意はお願いします」
「分かってる。脅威を感じないのは、油断をしていい理由にはならないからな」
と言うわけで、感知できる範囲と言う意味では俺とは比べ物にならないほどの力を持つヴィリジアニラに質問。
答えからして、とりあえず宇宙怪獣ブラックフォールシャークのような存在に突然襲われる可能性は低いようだ。
「ニリアニポッツ星系での脅威は?」
「そちらも現時点では感じませんね。一通りの情報収集はしてみましたが、特に引っかかるものはありませんでした。ただ、フラレタンボ星系に入ってくるニリアニポッツ星系の情報は限られていますし、伝達スピードの関係上、タイムラグもあります。なので、脅威の有無を確定するのは、最低でもハイパースペースを出てからになるでしょう」
「分かった」
現地に脅威があるかは現状では未確定。
まあ、これについては仕方がないな。
ただ、現地で情報収集をしてなおヴィリジアニラが脅威を感じなかった場合、俺たちの仕事はだいぶ楽になるだろうな。
その場合はたぶん、囮は囮でも被害者となる囮ではなく、目立つことで目標の注意を逸らすための囮になるだろうから。
つまり、俺たち以外でも十分に解決可能で、俺たちが居ればもっと楽になる程度のお仕事という事でもある。
うーん、出来ればそうなってほしいものだな。
メーグリニアとの戦闘みたいな、色々と削られる仕事はそう頻繁にやりたいものじゃない。
「じゃあもう一つ。航行中の食事については昨日決めた通りでいいんだよな?」
「はい、それで構いません」
では確認事項の二つ目、食事についてだ。
これまで俺たちは『ツメバケイ号』などの貨客船に乗っていた。
貨客船では乗務員が何十人と居た上に、経費を削減すると言う名目もあったので、食堂を設け、専門の人間が食事の準備に携わっていた。
そちらの方が何かと楽と言うのもあるが、美味しい食事は乗務員の士気に直結しているので、当然の事とも言えるだろう。
客船ならば、レストランの類が船内に用意されており、専門の人間が作った食事を、お金を払って食べる事になるのが普通の事だろう。
食事が美味しいならば、それこそレストラン単体で客を招くことも出来るので、商売のタネになる事は間違いない。
では、今俺たちが乗っているような少人数で航行している私有の宇宙船では?
こうなるともう趣味の問題だ。
水も材料も自分で持ち込めばいいし、手間もかけたければ幾らでもかけられるので、千差万別となる。
「サタが何かを作りたいと言うのなら、事前に私とジョハリスに伝えた上で、三人前を用意してくれれば何も問題はありません」
「分かった。じゃあ、時間とやる気が湧いた時はそうさせてもらう」
ただまあ、水も食料も無駄遣いできない事は間違いないし、modによる保存だってエネルギー消費なしとはいかない。
なので、色々と相談をする必要はあるだろう。
そして、これは料理が出来る人間だけの選択肢でもある。
「では今日は?」
「今日はせっかく買ったレーションがあるのだから、そっちを食べてみたい」
「そうですか。ではそうしましょうか」
では、料理が出来るメンバーが居ない時の宇宙船内での食事とはどのようなものになるのだろうか?
それが今日のメニュー……レーションである。
時間を確認。
うん、そろそろ飯時ではあるな。
そんなわけで、俺とヴィリジアニラは『エニウェアツー』所有の服を降ろした分だけ空いたスペースに積まれた、フラレタンボ星系で作られた、お手頃価格のレーションをそれぞれ一つ手に取った。
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