109:平穏に業務進行中
「お、先日の一件は無事に解決か」
「先日の……ああ、私たちの視察中に死体を見つけたメーグリニアの模倣犯ですね」
「そうそう。まあ、猿真似にすらなってなかったから、あっさり捕まって当然なんだけどな」
メーグリニアの一件から一週間ちょっと経った。
この間、俺たち……と言うより、ヴィリジアニラは各所を視察すると共に、囮としてフラレタンボ星系の各所を動き回った。
まあ、先述のように視察中に死体を見つけてしまっただとか。
移動中に不法投棄の業者を見つけて通報する事になったりだとか。
たまたま近くで起きたひったくりを捕まえたりだとか。
そう言う事はあったが……中には厄介なことになりそうな気配の事件もあったが、大きな脅威になる事はなく、無事に解決されて行っているので問題はないな。
ヨシッ!
「ふーん、フリーライターって結構売れるものなんすね」
「ジョハリス様も執筆してみますか? ヴィー様が表向き勤めている出版社に寄稿する形ならば行けると思いますが」
「遠慮しておくっす。ウチの文才はそこまでないっすから」
並行して、俺とヴィリジアニラはそれぞれの記事を上げてもいる。
メーグリニア関係は書けないが、フラレタンボ伯爵が推している菓子店の記事に始まり、イワーニ自然保護公園、フィーカンド社の缶詰、スフィプールホテル、フラレスーデン社の米菓などなど、フラレタンボ星系の目玉や美味しいものは色々と紹介出来ている。
テヒローカクオー社は……残念ながら、客を迎えられるような状況ではなくなってしまったらしいので、行けなくなった。
まあ、これについては仕方がないで流そう。
記事の売り上げは……初動同士を比べるなら、グログロベータ星系の時よりも少しいいか?
観光地として有名で無かった分だけ、今回初めて知ったという事で、読んでくれている人が多いのだろうか?
だとしたら嬉しい話ではあるな。
「サタ、『宇宙怪獣教』の拠点に捜査の手が入ったそうですが、何かありますか?」
「あるはずもない。勝手に信仰されているだけだからな。ああいや、メーグリニアの件と関係があるかについては聞きたいところか」
「私はそういうつもりで訊いたのですけど……そうですね、抵抗は無し、情報の開示もスムーズ、隠蔽の類も見られない、と言う報告が上がって来てますね」
「ふうん。まあ、『宇宙怪獣教』は元々個人臭が強そうだし、寄り合いの場所も情報交換がメイン。そう考えれば、クリティカルな情報が出てこないのは当然か」
ヴィリジアニラの情報端末に映っているのは、フラレタンボ星系内にある『宇宙怪獣教』の拠点に捜査機関が入った時の映像だ。
とは言え、『宇宙怪獣教』は元がアニミズムに近い信仰であるし、信徒の大半は遠くから宇宙怪獣を観察し、共存……言い換えれば襲われずに済むように情報が集まれば、それで十分と言う考えだったようだからな。
メーグリニアのように自らが宇宙怪獣になる事を目指しているような奴は異端も異端で、そんな奴が多数派の下に情報を残しているわけもない、と。
むしろ、今後の事を考えれば、フラレタンボ星系の『宇宙怪獣教』はフラレタンボ伯爵家とタッグを組んで、宇宙怪獣研究を進めるパートナーになった方がいいまであるよな。
現状だけを見るなら、そっちの方がお互いにとって都合がいい。
「サタ様。フラレタンボ伯爵から、セイリョー社の社員を招聘するために協力してもらえないかと言う要請が届きました。どうされますか?」
「内容次第だな。こっちに回してくれ」
と、ここでメモクシがフラレタンボ伯爵からのメッセージを受信したので、こちらに転送してもらう。
えーと何々……なるほど。
フラレタンボ星系のSwの解析と改良、およびそれを利用した宇宙怪獣避けの開発、それから『異水鏡』についてのお問い合わせって感じだな。
確かにどれもセイリョー社の力を借りられるなら、借りたい案件ではあるか、
だが、フラレタンボ伯爵にはセイリョー社に対する伝手がない。
正規の窓口からの相談もするが、招聘が上手くいく可能性は1%でも上げたい。
だから、俺に協力要請と言うか、紹介状を一筆したためて欲しい、と。
「受けますか?」
「結果の保証は出来ないが、それでも良ければって感じだな。紹介以上は俺じゃ出来ない」
謝礼としてそれなりの金額がもらえるようだし、フラレタンボ星系に悪いイメージもない。
だったら、紹介状を書くくらいはなんてこともないな。
と言うか……セイリョー社の社員の何人かは、今か今かと手ぐすね引いて待っていそうな予感があるんだよな。
Swの解析と改良とか、そう機会がある事でもないし。
アイツとかアイツとかアイツとかアイツとか……まあ、うん、顔が思い浮かぶな。
むしろ、手綱を手放すことが無いように気を付けてくださいと、フラレタンボ伯爵に注意喚起をしておくか。
大丈夫だとは思うが、念のためと言う奴だ。
「百面相してるっす」
「セイリョー社の社員が優秀なのは間違いないみたいですが、それはそれとして、色々とあるようですね」
「なんかウチも微妙に不安になってきたっす」
「サタに対しての教育を考えれば、大きな問題はないはずですけど……」
これでよし。
俺はメモクシに紹介状のメッセージを渡し、フラレタンボ伯爵にそれを送ってもらう。
これで……まあ、一日か二日くらいでセイリョー社にメッセージが届くのではないだろうか。
その後のやり取りはフラレタンボ伯爵とその周りの人たちに頑張ってもらうしかないな。
まあ、何とかはなるだろう、たぶん。
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