108:フラレスーデン社
「着きましたね」
「はい、此処がフラレスーデン社です」
本日はフラレスーデン社の視察である。
フラレスーデン社はフィーカンド社ほど大規模な会社ではないらしく、普通に街の内と外の境界に工場や本社ビル、倉庫などが建てられている。
街の外に広がっている光景はフラレタンボ星系だからこその光景になっているが……まあ、基本的には普通の米菓会社だな。
「異常も無ければ、変わった点も特になし。普通の米菓会社って感じだな」
「そりゃあそうっす。オーソドックス、スタンダード、レギュラーな感じの米菓がフラレスーデン社の商品っすから」
と言うわけで、普通に視察して、普通にお土産店と言うか自社製品売り場で商品を買って、休憩場で休むことにした。
うん、本当に普通の会社なのだ。
法令違反はなく、ハラスメント行為もなく、普通に商品を作って、普通に商品を売って、何と言うか……すごく長閑な空気が流れている。
「んー、個人的には海老粉を付けた煎餅が好きだな」
「色々なフレーバーを付けたおかきも美味しいですよ」
「甘いポン菓子美味しいっす」
「米菓という事で緑茶をご用意しました。ヴィー様、サタ様、ジョハリス様、どうぞ」
うん、本当に長閑だ。
海老の風味と適度な塩気が感じられる煎餅に、微かに苦い熱め緑茶と言う組み合わせが実に美味しい。
「こう言う長閑なところだと、そう言う空気を求めてやってきました、と言う需要もありそうだよなぁ……」
「実際あると思います。宇宙怪獣ブラックフォールシャークの一件から色々とあって方針転換が図られる可能性もありますが、此処のように喧噪とは無縁に思えるような土地は貴重なので、生かしてほしいところですね」
「そもそもとして、人がひしめき合ってない、けれど生活に不自由しないだけのものは揃っている、と言う環境自体が宇宙だと貴重だと思うっすよ」
「そうですね。ただ、こういう場は客と住民では求められるものが違いますので、いざ住むとなったら、事前に色々と調べるべきだとメモは思います」
ゆったりと時間が流れている。
なお、こんな会話をしている俺たちの視線の先では、水球になった泥水が宙に浮かんで回転し、表面を覆うように生えている稲に日光を当てている。
遠目にはマリモのようにも見えるその物体の正体は、フラレタンボ星系名物でもある、田んぼ玉、との事。
フラレタンボ星系のSwの影響を考えつつ、主食である米を作るには、これが一番適切な形であったらしい。
「住むとなったら色々と考えないといけないのは何処も同じだと思うぞ。俺にはあまり関係なかったが、ゴミ関係はよく調べた方がいい」
「そうなんですか?」
「一般論として、ゴミ捨て場の状態が良くないエリアは治安が悪いとは言われますね。落伍者が多いのか、犯罪組織が巣くっているのか、はたまた別の要因なのか、理由は様々ですが」
「あー、何か分かるっす。確かに成人資格証も取れないヤバい連中が多い辺りは、全体的に汚れているんすよね。そういう環境で育つから取れないのか、そういう環境に集まってくるのかは分からないっすけど」
「なるほど」
今更な話になるが、成人資格証は、一般的には、その種族において子供を作れるだけの生殖能力を得たら、取得できるようになる資格である。
取得に当たって必要な試験は特にこれと言ってなく、多少の手続きと待ち時間、極めて簡単な質問に幾つか答えるだけで取る事が出来る。
勿論、俺のような特殊事例や、病気の類で子供を作れない人にも対応している。
なので、明らかに外見が大人ならば、持っていない方がおかしいレベルであり、だからこそ見た目が大人なのに持っていない人間は落伍者扱いされるのである。
それこそ、宙賊ですら持っている方が普通の資格と言う時点で、どれだけ楽に取れるかを察していただきたい。
そんな、ほぼ誰でも取れるような資格に意味があるのかって?
偽造が出来ない身分証明書なので、それだけでも意味はある。
そして、この資格を取れない人間は俺の過去の経験から考えて、ほぼほぼヤバい人間なので、そういう人間を身内にしないとか、徒党を組ませないだとか、宇宙船と言う現代でも変なのをあまり乗せたくない環境に入れさせないだとかで、役に立っているため、ちゃんと意味はあるのだ。
与太話に近いが、末端あるいは新興の宙賊でもなければ、この資格を持っていない奴は宙賊でも仲間にしないと言われる事からも、色々と察していただきたい。
ちなみにだが。
成人資格証の発行機関は帝国の政治経済からほぼ独立しており、過去に成人資格証の発行に当たって帝国や皇帝への忠誠を誓う事を義務付けようと一部の貴族とその取り巻きが動いた時には、当時の皇帝まで協力させて、そういう人間を資格検査の内容を決める場から退かせた逸話がある。
なので、現代の帝国では、成人資格証の発行機関は一つのアンタッチャブルな存在と化している。
まあ、皇帝陛下が排除しようとしていない辺り、裏では協力しているし、表部分に異常も見られないのだろうけど。
「さて、明日からはメーグリニアの件で後回しにした場所を見ていく感じか?」
「そうなりますね。後は記事の作成や書類整理、それから次に向かうニリアニポッツ星系についてもそろそろ情報を入れ始めましょうか」
「かしこまりました、ヴィー様」
「明日以降も安全運転で送迎するっす」
閑話休題。
本日も何事もなく業務終了となった。