107:それぞれの秘密
『今更ですが、今日のような何もない時間の話題としては適切だと思いませんか?』
「それはそうだな」
俺は水球の一つを選ぶと、そこの頂点で横になって、静かに浮かぶ。
うん、安定したな。
後、無線機からだけでなく、本体が持っている情報端末にもメモクシからのメッセージが来てるな。
はいはい、そう言う事なら、しっかりと協力させてもらおう。
「ただ、本体の性別なぁ……ぶっちゃけ分からないんだよな。なにせこちとら前例がない存在だし」
『やはりそうなりますか』
「そうなるさ。この体も作りものだしな」
流石に宇宙怪獣とは言わない。
誰が何処で聞き耳を立てているかは分からないしな。
「と言うか、今使っている体は確かに男のものだが、その気になれば女の体を作って操ることも出来るんだよ。実のところ」
『え、サタって女性の姿もあるんですか!? 貰った資料には書いてありませんでしたけど』
『それは初耳ですね。詳しくお願いします』
『両性具有って奴っすね! 便利な奴っす!』
「妙に反応良くないか……?」
『いえいえ、そんなことはありません。ありませんので、お話しくださいサタ様』
ん? あれ? なんか、早速脱線した感じがあるな。
まあいいか。
『それでサタの女性の姿と言うのは……』
「それはまあ機会があればで。ただな、見た目が明らかにヒューマンじゃないし、幼いし、どうしてか修正も利きづらいし、余計なものが付いている分だけ身体能力が低いしで、セイリョー社に居た頃の最初の一年……いや、もっと短い期間しか使ってないくらいだな。だから資料にも載せなかった。後、今使うと変なのが寄ってくるのが予測できるから、そういう意味でも出来るだけ使いたくない」
『なるほど……』
『ふむふむ……』
「……」
実際あの姿はなぁ……使いづらいんだよなぁ。
セイリョー社にはそう言うのは居なかった……いや、居てもミゼオン博士辺りによって遠ざけられていたんだろうが、そう言うのが近寄ってこなかったが、セイリョー社から離れて、色々なものに触れた今の俺なら断言できる。
あの姿は変な趣味の連中がダース単位で寄ってくる。
うん、護衛をする側が狙ってもいない変なのを呼び寄せるなんて、業務放棄も良いところだ。
と言うわけで、今時ある事も珍しい男子禁制エリアにヴィリジアニラが用事がある場合でもなければ、使う事はないだろう。
「それで? 俺の性別についてはこんなものだとして、メモクシたちは何かないのか? 話してもいいレベルの秘密とか隠し事とか。でないと俺は聞かれ損なんだが」
『そうですね……。私が話せる事となると、バニラゲンルート子爵家は帝星バニラシドにある皇帝陛下がお住まいになる宮殿。そこで何百人と言うメイドと執事を指揮して、住環境を維持している。とかでしょうか。お母様たちは凄いのですよ。何処かの間諜が仕掛けた盗聴器などをあっさりと見つけた上に逆探知したりしますから』
「へー」
なるほど、バニラゲンルート子爵家は完全に諜報部隊の一族であるし、防諜及びカウンターを専門にしている、と。
しかし、皇帝陛下が住む宮殿に盗聴器なぁ……まあ、帝国民だからと言って皇帝陛下に忠誠を誓っているとは限らないし、別におかしくはないか。
成人資格証の発行要件にだって、陛下や帝国への忠誠なんて求められないし、求めてはいけないと明言しているしな。
「メモクシは?」
『メモには特にありませんね。機械知性ですので』
はい、此処で重要なのは、メモクシが言っているのは、話せるレベルの隠し事はない、です。
逆に言えば、話せないレベルの隠し事はあるとも言えます。
まあ、当然だな。
皇帝の宮殿に関わる一家に十年以上仕えている機械知性なんだ。
むしろ、秘密を持っていない方が怖いまである。
「じゃあ折角だしジョハリスも」
『うーん。ウチの話せる秘密と言えば、第一世代である事ぐらいっすね』
「第一世代?」
『そうっす』
さて本命のジョハリス。
とある事情から、メモクシはジョハリスの情報を集めたかったらしく、そのためにこのような話の流れになっていたのだ。
で、肝心の第一世代と言うのはだ。
『ウチはフラレタンボ星系のプライマルコロニーで自然発生したスライムっす。三年くらいは無知性に近いままボウっと生きていたっすけど、不意に目が覚めたと言うか、視界が晴れたと言うか、そんな感じになったっす。で、それから人とコミュニケーションを始めて、色々と教えてもらって、今ここに居るっす』
両親と言うものを持たず、だが人間と認められるだけの知性を得た、特殊なスライム種に対する呼称であるらしい。
ちなみにジョハリスは第一世代の中でも更に珍しい無核のスライムであるらしく、体の一片でもあれば、後は水分と栄養を取り込むことで復活できるそうだ。
modによって温度変化や酸と塩基にも強くなっているそうだし……まあ、俺やメモクシとは別方向に頑丈と言えるな。
なのでまあ、実は年齢的には俺より少し上、ヴィリジアニラたちよりはだいぶ下であるらしい。
余談だが、スライム種は無性生殖と言うか、分裂によって子供を作る。
ただ、その際、基本的には体の核となるものを用意する必要があるらしい。
なので、無核なのは珍しいとの事。
そして、余談2だが、無核のスライムが他の種族と子供を作るのは……まあ、非常に手間がかかる。
無核のスライムは精神生命体の一種とも言えるらしく、肉体と言うか物理的な部分に子孫を作るための情報が碌にないらしい。
だからなのか、無核のスライムの研究については碌に進んでいないのだとか。
うーん、こう言っては何だが、無核のスライムだと宇宙怪獣よりも不思議生物なのではなかろうか……。
『なるほど』
「ふーん。不思議なんだな、スライムって」
『不思議っす。ウチも自分の事なのによく分からないっす』
『そうなのですか。では、分かるように研究が進むと良いですね』
とまあ、こんな感じの会話をしたことでメモクシは必要な情報を得れたらしい。
そして、この日は平穏なままに終わったのだった。
成長に伴って性別が変化する生物なんて現実にも沢山居るんだから、サタ人形の性別が幾らでも変えられても問題はないな。ヨシッ!