106:スフィプールホテル
「えーと、許可証よし、カメラよし、と」
本日の俺たちはスフィプールホテルにお邪魔している。
ただ、ホテル部分については一流だと分かっているので取材は無しで、俺たちが見て回るのはレジャー施設部分だけだ。
と言うわけで、俺は『パンプキンウィッチ』内で提供してもらったモデルを元に生産したトランクス型の海パン、耳に掛けるタイプの常時撮影型カメラ兼無線通信機、スフィプールホテルから許可を貰っている証拠のカードを身に着けて、レジャー施設部分に入る。
「人の入りは……まあ、シーズン外だからか、そこまで多くはない感じだな」
人影は多くもなく少なくもなくと言う感じだな。
普通に泳げるが、寂しいと言う感じはない。
で、普段の観光ならここでヴィリジアニラたちが来て、合流するわけだが……。
『サタ様。ヴィー様がパブリックな範囲に入ると確実に騒ぎになりますので、そちらはサタ様お一人でお願いします』
『すみません、サタ。代わりにプライベートエリアの取材はしっかりとやりますから』
『スライムは不特定多数が入るプールに入らない方がお互いの為にいいっす。と言うわけで、ウチもこっちっすね』
『分かった。じゃ、俺は適当に普通のプールを楽しんでくる。何かあったら、無線機か髪飾りで連絡してくれ』
と言う感じの経緯で以って、本日は別行動である。
うん、スフィプールホテルには、貴族や富裕層向けに、許可を得た者しか入れないプライベートエリアと言うものが複数存在しているのだ。
なので、そちらの取材はヴィリジアニラに任せて、一般層向けのパブリックエリアの取材は俺の担当となったわけだ。
まあ、パブリックエリアの方が焼きそばとかアイスクリームとか、食べ物を買いやすいからな。
俺としてはよかったかもしれない。
護衛についてもホテル側の警備だけでなく、メモクシ、ジョハリス、俺の本体と揃っているしな。
『サタ、着いたんですね』
「ああ、着いた。ま、こっちは一部を除いて普通のプールだな」
さて、パブリックエリアのプールだが……フラレタンボ星系のSwの影響を受けないように厳密に水量がコントロールされているっぽいプールが幾つかあるな。
用途的には幼児、子供、未経験者の遊泳練習用っぽい感じだ。
事故やトラブル防止用の警備員及びカメラも複数設置されているようなので、これならば不幸な事故が起きる可能性はだいぶ低いだろう。
この辺りは……まあ、これ以上はわざわざ見なくてもいいだろう。
「変わっているのは……やっぱりこれだな」
と言うわけで、他の星系にはないプール……フラレタンボ星系のSwによって、水球の形になっているプールへと近づく。
どうやら床にくぼみを作って、そこへ水球の底から1メートルくらいを埋める事で位置を固定しているようだ。
そして、そんな水球を幾つも隣接させる事で、巨大で凹凸のあるプールを作り出しているらしい。
「よっと」
柵も窓もないので、プールの中へ入る事は容易だ。
なので俺はプールの中へと一気に入り、頭から足先まで水の冷たさを感じる。
で、浮遊感に従って体を浮かばせつつ、ゆっくりと脚を動かして泳ぎ、水球の頂点で顔を出す。
ここまでは普通の深いプールと同じ感じだな。
Swの影響で球形になっているだけで、水そのものは普通なので当然だが。
「ふむふむ」
と言うわけで、変わっている部分を楽しむべく、水球の端から体を軽く出しつつ降下。
これは……なんと言うか不思議な感覚だな。
気を付けないと重力と浮力の都合で回転が始まってしまいそうだし、慣れていないと危ないかもしれない。
ああでも、よく見てみれば、プールの周囲には安全の為に重力制御関係のmodが展開されているようだ。
水球と水球の間にもクッションや新鮮な空気を供給するための仕掛けが施されている。
そして、万が一に備えるように、各水球の底に何かフロートになりそうな仕掛けもあるし……対策は万全か。
「うーん。でもこれだけだと物足りないと言うか、もう一押し欲しいところだな。今の状態だと安全対策万全のちょっと変わったプールでしかないし……」
『あ、サタ。こちらはトロピカルジュースやマッサージをいただいています。気持ちいいですよ』
「うん、見えてるし知ってる」
うーん、もう少し何か欲しいところ。
とは言え、フラレタンボ星系のSwを考えると、よくある流水プールやウォータースライダーの類は難しいんだろうな。
直径10メートル前後の水球に流れを生じさせてしまうと普通に危険だし、ウォータースライダーは流れている水がまとまって機能停止になりかねないから。
「いっその事、もう少し水球を大きくして、完全に浮かせて、水中呼吸関係のmodを取り揃えて、その水球の中で何かしらの競技を行うとかになれば、そういう競技として見世物になりそうな感じもあるし、人も呼べそうな感じもあるが……」
『サタ様の仰るような競技はmodをフル活用する事で他の星系で行われていますね。そして、フラレタンボ星系では頓挫した企画です』
『メモ、フラレタンボ星系で行われていない理由は?』
『フラレタンボ星系のSwが難解で解析が進んでいないためですね。範囲の制御が出来るようになれば、だいぶ変わるのでしょうが……』
「まあ、何年も先の話になりそうだな」
うん、俺が考えている程度の事をフラレタンボ星系の人たちが考えていない訳がない。
俺に出来る事はありのままに楽しみ、記事を書く事だけだな。
と言うわけで、売店で焼きそばとジュースを購入して食べた。
うーん、濃い目のソースにもちもちとした食感の焼きそばが泳ぎで消耗した塩分とエネルギーを、甘くて酸っぱい味のジュースが水分とビタミンを補給してくれている。
これだけでも今日はもう満足が行くレベルだな!
『ところでサタ様』
「なんだ?」
昼食を食べ終わった俺は再び水球のプールに戻ると、周囲の関心を引かないように普通に泳ぎ始める。
するとそこへメモクシから無線が飛んでくる。
『今更なのですが、サタ様の本体の性別はどうなっているのですか?』
「本当に今更だな……」
そして、今更な質問が飛んできた。
水着回ですが、ヴィーたちの水着はキャンセルです。