105:メーグリニア事件の続報
「ふんふふふーん♪ 出来上がりっと」
「サタって料理できたんですね……」
「まあ、物によっては拙いなりにも自分で料理をした方が真価を発揮するというのもあるからな。あ、プロ並みのは期待しないでくれ。俺のはあくまでも家庭料理だ」
「くんくん。いい匂いがするっす」
夜。
今日はまだ『パンプキンウィッチ』内に宿泊である。
と言うわけで、サキヨウオの油漬けをベースとしたスープを作成し、振る舞う。
うん、油によって熱が閉じ込められていて、体が良く温まりそうな感じだな。
サキヨウオの身は当然美味いし、他の具材も素人仕事にしては十分、主食として準備したパンにも合うし、問題はないだろう。
ちなみに現代帝国において住居に住んでいる人間が家庭料理を作る事は珍しくないが、それと同じくらいに各種店舗で総菜や弁当を買ったり、飲食店で料理を食べることも普通な事である。
そして、貴族階級などの仕事が忙しい人間になればなるほど、趣味で無ければ、自分で料理をする事は少なくなるのが当然でもある。
なので、ヴィリジアニラが料理をしたことがないのが普通なら、俺が最低限の料理は出来るのも普通である。
「ヴィー様、サタ様、ジョハリス様。食事中に失礼します。帝国軍諜報部隊からメーグリニアの件についての追加情報が来ました」
「追加情報?」
「はい。メーグリニアを討伐してから今に至るまでの捜査で得られた情報のまとめですね」
「よく調べられたな。スペファーナ男爵家はあんな状態だったのに」
「一部のデータがクラウド化されてサーバー上にあった事、メーグリニアの隠し倉庫が見つかったことなどが大きいようですね」
「ふっふっふ。ウチの優秀さなら、犯人さえ割れれば、捜査が進むのはあっという間っす」
と、ここでメモクシが情報を持ってきたので、俺は人形ではなく本体の方で情報を確認していく。
えーとだ。
まず、メーグリニアの隠し倉庫は、下水道に隠されていたらしい。
被害者たちの眼球が保存されていた形跡はあるが、現物は無し。
メーグリニアがスペファーナ男爵家を破壊した後に立ち寄って、持って行ったと言うか取り込んだのだろう。
なお、そこに至るまでの道中含めてカメラが何台も仕掛けられていたそうなので、メーグリニアの能力ならばカメラに接続する情報端末さえあれば、後は念動力によって遠隔で実験などが行えたのではないかとの事。
余談だが、この一件を受けて、惑星フラレタンボ1各地の下水道に捜査のメスが入っているらしく、色々と見つかっているようだ。
犯罪組織のアジトとか、黒い噂のあった議員の隠し財産とか、一部悪徳企業の不正物資とか、そんなのだ。
「念動力の元は先祖からですか」
「みたいっすね」
メーグリニアの先祖に念動力使いは数名居たらしい。
その数名の血がフラレタンボ星系が田舎星系であり、人の行き来の少なさから煮詰まって、メーグリニアは先祖返りと言う形で発現。
発現した念動力が宇宙怪獣の能力によって強化され、結果、あれほどの力になったのではないかと書類には書いてある。
「んー……」
「サタ?」
「いや、先祖返りに近いのは否定しないが、念動力の発現はたぶん宇宙怪獣になってからだぞ。子供の頃に発現して帝国の監視網を抜けられるとは思えない。逆に後天的発現については、宇宙怪獣が独自のOSを持ち、必要ならmodの生成が可能であることを考えれば、欠けているピースを足すように簡単に発現できるだろうしな」
「……。その情報、諜報部隊に送っておいてくださいね」
「分かった」
うん、宇宙怪獣から言わせてもらうなら、強化だけでなく補填や構築もしてると思う。
先祖から受け継いだ欠片があったからこそ、念動力の発現がしやすかっただけで、宇宙怪獣にならなければ、たぶん念動力の発現もなかった。
メーグリニアはたぶんそういうタイプだ。
「宇宙怪獣モドキはギガロク宙賊団の衝突現場で死んでいた。けれど、それを目撃したことでメーグリニアは宇宙怪獣として覚醒した。サタ、これについてはどう思いますか?」
「分からん。本人が表に出せない日記に、その時の感動を忘れたくないからと書いてあるから、嘘はないと思う。だけど、人がどうやったら宇宙怪獣になるのかについては……俺には分からない」
「そうですか」
メーグリニアが宇宙怪獣になった経緯は……本人の日記曰く、ギガロク宙賊団の宇宙船同士での衝突事故がフラレタンボ星系近くで起きた時に、ぶつかり合った宇宙船から出てきた宇宙怪獣モドキを見たことで、自分の中の何かが弾けたらしい。
口にはしないが、きっとこの時にメーグリニアのOSが『バニラOS』から独自のものに書き換わってしまったのだろう。
そして、書き換わっていく過程で、先述のように念動力も発現したのだろう。
まあ、どうすれば人の中のOSを書き換えられるかは俺には分からない。
俺は生まれながらの宇宙怪獣だからな。
それが分かるのは、きっと例の宇宙怪獣モドキを生み出している黒幕だけだ。
なお、メーグリニアが視認した宇宙怪獣モドキについては宇宙空間に適応しきれなかったのか、生存は出来ても移動は出来なかったのか、メーグリニアが見ている間に萎れ、砕け、外宇宙の方向へと流れて行ってしまったそうだ。
なんか、これまでで一番残念な宇宙怪獣っぽいな、うん。
「ヴィー様。今後も知らせは入ってくると思われますが、本件については概ね解決したと見てもよいでしょうか?」
「そうですね。大筋は出揃ったと思います。なので、この件について私たちが関わる事はもうないでしょう」
「被疑者死亡っすから、後は細かいところを一応埋めて……むしろ気になるのは廃棄ガイドコロニーを簡単な操作で使えるように保っていた連中っすよねぇ」
「まあ、フラレタンボ伯爵としても、急いで確認するべきはそっちだろうな。使っていた理由次第じゃ、星系の危機再びだってあり得る」
とりあえずメーグリニア自身についてはもう終わったと考えていいだろう。
今後は『宇宙怪獣教』の中に潜んでいる不穏分子や、廃棄ガイドコロニーを利用していた誰かについてを、メーグリニアとの繋がりから探っていくことになるのだろう。
うーん、とんでもなく時間がかかりそうだし、俺たちが関われるような案件ではなさそうだな。