101:ようやく始められる観光
「『ブランクOS』領域の消失を確認しました」
『了解いたしました。今後の監視はこちらが引き継ぎます』
俺が放った事象破綻砲によって生じた『ブランクOS』の領域は無事に消滅した。
俺の本体での知覚、メモクシとジョハリスによる『異水鏡』での知覚、適当な発光modの射出による確認、いずれでも同様の観測結果を得られたので、間違いはないだろう。
「レポートの送信完了……」
「お疲れさまでした。サタ様」
「うわっ、凄いデータ量っすね……」
また、『ブランクOS』領域の消滅を含めた各種データをセイリョー社へ送る事も完了した。
もう少し具体的に言えば、事象破綻砲・500・エラーセピア、その外部制御用modであるサタンの金環、『異水鏡』、宇宙怪獣と化したメーグリニア・スペファーナ、その他諸々のフラレタンボ星系であったあれやこれやに関するレポートの提出は無事に終わった。
「次は俺が昔に送った奴の修正とか、最新のmod研究に目を通さないとな……」
「……。サタ、一度休んでおきましょう。顔の造形が微妙に崩れてます」
「……。セイリョー社はホワイト企業だと聞いていたのですが、これはいずれ監査が必要かもしれませんね」
「……。そうっすね。好きで働き過ぎるとか、実力の限界ギリギリまでとか、そんな感じの言葉が付いてきそうっす」
が、レポート地獄はまだ終わらない。
しかし、ヴィリジアニラにストップをかけられたので、切り上げることにした。
うん、そうだな。
期限も切られていないし、これ以上は夜間やる事が無い間に進めれば、それでいい。
そうしよう。
「ヴィー。これからの予定は?」
と言うわけで、俺は気を取り直すと、ヴィリジアニラにこれからの予定について尋ねる。
「惑星フラレタンボ1に戻り、各地の観光と監査をします。期間は……少なくとも二週間は大丈夫でしょう」
「ふむふむ」
俺たちは今『パンプキンウィッチ』に乗って、廃棄ガイドコロニー跡から惑星フラレタンボ1へと戻っている。
で、惑星フラレタンボ1の周囲に着いたなら、そのまま惑星に降下するようだ。
「ヴィー様。脅威の類は感じられますか?」
「現在は感じていませんね。ただこれは私が脅威だと感じていないか、私に関わらない形で何かが進んでいるか、本当に何も起きていないのか判断できるようなものではないので、最低限の警戒はお願いします」
「分かりました」
現在は脅威を感じない。
それはいい事だな。
ただ、ヴィリジアニラの目の性質上、何も起きない場合と何か起きていても脅威にならない場合との判別は確かに難しそうなので、するべき警戒はしっかりとしておこう。
「二週間は大丈夫と言った理由を教えて欲しいっす。普通はそこに大丈夫なんて言葉は付かないっすよ」
「順を追って説明しますと……今の私たちは帝星バニラシドを目指しています。なので次に向かうのはニリアニポッツ星系となります。そのニリアニポッツ星系に何時向かうべきかを検討したところ、一週間後から二週間後くらいが適切であると判断しました。そういう意味での“大丈夫”ですね」
「……。まあ、そう言う事にしておくっす」
うんまあ、ジョハリスも薄々察しているかもしれないな。
ヴィリジアニラは行く先々でトラブルに巻き込まれる、あるいは突っ込んでいくタイプである、と。
で、もう一歩踏み込むなら、ニリアニポッツ星系でも何かしらのトラブルが存在していて、それへの対処を考えた結果として適切なのが、二週間後と言う数字になるのだろう。
ヴィリジアニラの手元には俺では処理しきれない量の情報が集まっていて、その情報を精査した結果の数字なのだろうから、俺から何かを言うような話ではないな。
ちなみにだが。
今から即座に向かう選択肢が地味に潰されているのも重要事項である。
何がどう影響してそうなるのかは、きっとヴィリジアニラ自身にも分かっていないのだろうけど、今すぐに向かうとそれはそれでマイナスの要因になるのだろう。
ニリアニポッツ星系で何があるのかは知らないが、一応気にしておこう。
「他に何かありますか?」
「具体的に何処へ行くのかをまだ聞いてないな」
「ああ、そう言えば……」
ま、その辺は後回しでもいいな。
俺はヴィリジアニラを守るのが第一なんだし、
だから、ニリアニポッツ星系よりもフラレタンボ星系でのこれからを気にする方が有益だ。
「メモ」
「はい、ヴィー様」
と言うわけで、フラレタンボ星系内でのこれからについて。
降下後の各種証拠引き渡しはサクッと終わらせてしまえば済むとしてだ。
えーと、フラレタンボ伯爵のお茶会で知り合った缶詰会社のフィーカンド社、米菓会社のフラレスーデン社、レジャー施設付きのホテルであるスフィプールホテルには行く。
そういう約束だったからな。
レンズ会社のテヒローカクオー社についても可能なら赴く。
約束はしていないが、あの趣味で宇宙怪獣に関する重要情報を持っていた方との縁もあるしな。
後は……観光名所や地元名物なんかを幾らか……メーグリニアの一件のせいで中々いけなかった部分を少しずつ、と言う感じか。
「これなら記事についても色々と書けそうだな」
「そうですね。色々と書けますし、食べられると思います。なので、此処で一度しっかりと休んでおきましょう」
そうして俺たちは最初の時とはだいぶ違う心持ちで、惑星フラレタンボ1に降下した。