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第14話2-3

ジュンが外に出て、入ってきた門の前に来るとダインがいました。

「久しぶりね。この街を出るの?」

 ダインは相変わらず興味なさげに話しかけてきました。その代わり映えのなさは、10年後も変わらなそうなものでした。一方のジュンは変わり果てたように意気揚々とした姿から絶望に打ちひしがれた姿へと変貌していました。

「やってしまった。僕はやってしまった」

「何をやってしまったの?」

「僕のせいでこの街で争いが起きたんだ」

――ジュンは事情を説明しました。

「――なるほどね。わかったわ。それで、登樹の準備は出来ているの?」

 ジュンは聞き間違えたのではないかとダインの方向をゆっくりと絶望した驚きで見ました。ダインは門だけを見て、もう気持ちは外に向かっていました。

「それで、って、この街はどうでもいいのか?」

「どうでもいいわよ。その街のことはその街の人たちが決めるの。私たち部外者には関係ないわ。そうでしょ?」

 その言葉はジュンの心に槍を刺しました。少しは自分の気持ちに同情してくれるだとか手伝ってくれるとかを期待したのに、その素振りが、全くありませんでした。そして、それは初めて聞く言葉ではありませんでした。

「部外者……か。さっきザーにも同じことを言われた」

「そうなの? 街の人からお墨付きなら、堂々と外に出られるわね」

「しかし、僕は共鳴の修行をしてしまったんだ。それのせいで争いが起きて……」

「だから関わるなと言ったのよ。これに懲りたら、もう街には関わらないことね」

 水平線をたどる2人の会話中、そこに、セミのような大きな化物虫がジュンを襲ってきました。軽く避けるダインと不器用に頭にたんこぶを作りながら避けるジュン。

「なっ!? どうして? 僕たちは襲われないんじゃ?」

「体臭がきつすぎて消毒が効果なくなったの?」

「そんな理由!? というか、その程度で効果がなくなるならシャワーでもアウトだろ!」

「それもそうね。だったら、どうしてかしら?」

 再び化物虫がジュンを襲う。

「やっぱり僕だけを狙っている。ダインのほうにも行けよ」

「じゃあ、私は先に言っているから」

「嘘だよ、嘘。ごめん、戻ってきて、ダイン様―!」

 さらに化物虫がジュンだけを狙う。

「くっそー、相手してやる」

 ジュンは血のハーケンを飛ばした。それは化物虫の体に当たったが、相手が大きすぎてほとんどダメージがない。

「くそ。効かないのか」

「そういう時は弱点を狙うのよ」

 ダインは先に進みながらも振り向いてヒントをくれました。ジュンはにやりと笑いながらダインに声を返します。

「関わらないんじゃなかったのか?」

「自分の命が関わったら話は別よ。その街の文化より自分の命優先よ」

「ちゃっかりした考え方だな。助かったけどよ」

 ジュンは化物虫の細い部分である足や手や触覚を血のハーケンで潰しました。化物虫は悲鳴を上げていました。

 次に羽にハーケンを打ち付けました。化物虫は飛べなくなり、地に落ちました。

 最後に脳に向かってハーケンを打ち抜きました。化物虫は痙攣していました。

「これで危機が去ったか」

――そこに何十もの化物虫が集まってきました。仲間の危機に集まってきたのでそうか? そのでかい目をジリジリと2人に向けます。

 2人はそれを見て血の気が引けました――あの感情表現に乏しいダインまでも――

「「……」」

 2人は全力で逃げました。


「あんな大群の化物、どうしろっていうんだ?」

 ジュンは汗だらけで息が上がって逃げることに精一杯でした。

「そうね。さすがにあれは逃げられただけ御の字ね」

 ダインは顔色1つ変えずに化物虫を難なく5体倒していました。

「――ダインが言っても説得力がないんですけど……」

 ジュンは自分とダインとの力の差を痛感しました。体力の差・討伐力の差・精神的な差、どうして追いつけそうにありませんでした。

「さて、か弱い私はそろそろ街から出よう思うけど、ジュンはどうする? 一緒に出る? それともこの街で出来ることをするの?」

「この街でできることと言っても……」

 街は化物虫たちに破壊されていました。変にか弱いアピールをしてくるダインのことはスルーするとして、この街の地獄絵図は見逃せるものではありませんでした。ジュンは壊れた機械のようにヒクヒク震えながら、煙巻く瓦礫の山が崩れていき人々がブラックホールのように化物虫たちの口に吸い込まれていく様子を眺めるのみでした。

「……この状況で何をしたらいいんだ? 種類に関係なく全ての人種や建物が襲われている。もう、祭りのルールに則っていない」

「それはおそらく、私たちが先にルールを破ったからね。襲われた人を助け、化物虫を撃退し、共鳴の能力を教え、人同士が争い、祭りが変わろうとしているからね」

「つまり、僕のせい?」

「そうね。だから言ったでしょ? その街の文化に首を突っ込んだらダメだと」

「……そうだな」

 見境なくなった街の様子を見ながら、ジュンは現実と理想の境目がはっきり見えてきました。理想はこの街に来たばかりの明るくて楽しい世界であり、現実は今の淡々と死を待つのみの世界でした。ジュンは少しずつ目を閉じて現実から目を背けようとしました。

「きちんと見ないとダメよ、現実は」

 ダインは閉じようとするジュンのまぶたを強制的に指で開けました。少し眼球に指が入った痛みをジュンは感じましたが、心の痛みに比べたらたいしたことがありません。むしろ、心の痛みを忘れさせてくれる鎮痛剤としてありがたく感じていました。


 そこに血だらけのザーとその仲間の反対派10人程の人たちが来ました。その顔は人が変わったように、人の皮をかぶった化物虫のように、人殺しの狂気がありました。足取りは少し重く、負傷している者もいるようでした。

「おい、ジュン、どういうことだ!?」

「何がだよ、ジー?」

「どうして街がメチャクチャになっているんだよ!?」

 ザーは街を指差し叫びました。ジュンは気落ちしながらもチキンと伝えます。ダインの指はザーたちが来た時にはまぶたから離していました。

「は? それは、多分、祭りを妨害して変えようとしたからだろ?」

「そうだ。これは祭りを妨害して変えようとしたお前のせいだ、ジュン!」

 ザーは怒鳴り散らしました。予想外の責任転嫁にジュンは驚きを隠せません。心の傷が火の炙りによって塞がれたみたいに、謎のハイテンションになりました。

「はぁ!? どうして俺が? いや、俺も原因かもしれないけど、お前たちだって祭りを変えようとしていたじゃないか?」

「そんなことは知らん! お前さえいなければ今までのまま我慢していた。お前が祭りをメチャクチャにしたからそれに俺たちが騙されたんだ!」

「なんだ、その責任転嫁は? お前たちも悪いだろ?」

「うるさい! 街がこんなふうになったのは、全てはお前のせいだ!」

「そんな、横暴な」

 岩に頭を砕かれたようによろけたジュンの体をダインが支えました。しっかりと両手で両肩を支えて、次のことを言いました。

「こうなったらもう何を言っても無理よ。諦めなさい」

 ダインは冷静にジュンを諭しました。


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