残機が9999しか無いのに世界なんて救えるわけないじゃないですか!~強欲の勇者はおっさんになりました~
おっさん冒険録のはじまりはじまり~
舞台の始まりは、よくある程にありきたり、けれどもやっぱり特別な場所で聖女が微笑みこう言った。
「おめでとうございます、あなたには神のご加護が付与されました」
「この力で、どうか世界を救ってください」
そう言われて、10年は経つが齢30過ぎのソラ・マグルスはその力を一向に正しいように活用しなかった。
元々、冒険者として限界を感じていたあの頃から能力は横這いで自身を過大評価しても中の上ぐらいの実力しかない。
「そんなの出来るわけないのに無茶いうよなぁ……」
嘆きながら、横にいる相方をチラリと見ながら同意を求めるが彼女はジトーっとした目で不服そうに見つめ返す。
「……なんだよ、言いたいことがありそうだな、聖女様」
「もう別にあなたにとやかく言うつもりはありませんが、いい加減世界を救う為に腰に差したその剣を使ってくれませんか? それにあなたにはそれを成し得る為に充分な加護があります」
「そんなわけないだろ!」
ソラはそれを聞くと噛みつくように反論する。当たり前の事だ。彼の能力は正直言えば平々凡々。上位種のモンスターに立ち向かえば1分で、逃げ回れば10分で倒される程度には実力がない。最近になって加齢臭が気になり始め、20代の頃は暴飲暴食しても大丈夫だったのに、今では少しでもトレーニングを怠ると腹が出てくる中年に差し掛かっていた。別に心が清らかな方でもなく、身内以外が危機に晒されても平然としているそんな普通の人間。謙虚に堅実に冷静に穏やかに安穏を求め生活したいと願う、そんな彼――
「残機が9999しか無いのに、世界なんて救えるわけないだろ!」
残機が9999しかない彼が、世界を救うなんて大それたこと出来るわけがないのである!
「いや、9999もあれば救えます、だいじょぶ、ダイジョブー」
「心にも無いこと言いやがって! あ、アタイは騙されないんだからね!」
「30過ぎにもなってその口調止めてください、寒気がします」
彼女は冷たく言い放つと、地図を見返す。目的地はもちろん魔王城、彼らはこうしてえっちらおっちら冒険をしている最中なのである。
というよりも魔王城に行くのに10年も掛からない、半年もあれば辿り着ける距離なのだ。そこに行くまでに立ちはだかる障害は、聖女の力を持ってすれば容易にとは行かないが突破することは可能なのである。
問題なのはこの男が、行く先々で道に迷い、詐欺に遭い、酒に溺れ、女に酔い、博打を打ち、そういったように好き勝手生きるからである。おかげで、彼女は地図が読めるようになったし財産を管理することになってしまった。今ではモンスターの剥ぎ取り方も食べられる野草の知識も、男物の下着を洗濯をする事も得意になってしまった。
「ひとまず、この先の村で一度休息を取りましょうか」
「ホントか! よしじゃあしっかり休憩してから世界救いに行こう、そうしよう」
そういって荷物をゆさゆさと揺らしながら、走り始めるソラの後ろでため息を吐きながら付いていく彼女ははすっかりと疲れ切っていた。
「これは、これは勇者様、聖女様よく来てくださいました」
「あ、イヤ人違いです。タダの冒険者ですので」
出迎える村長に素知らぬ顔で嘘を付きそそくさとその場を後にしようとするソラの両肩を聖女と村長ががっしりとホールドする。
「その腰に付けた聖剣」
「鍛冶屋で一番安かった銅の剣です」
「勇者しか装備出来ぬといわれている伝説の盾」
「呪われて外せなくなっただけです」
「神々しい聖女様と共によく来てくださいました」
「こいつこの前、高く売れるからってモンスターの糞集めてましたよ」
無言で鳩尾をぶん殴られ悶絶するソラ。
――。
「勇者達に、頼みごとあるのです」
「話聞いてました?」
どこか遠い方を見つめながら、村長は話を続ける。その話は単純に言えば、この先の森に現れたワイバーンが暴れこの村に襲ってくるかもしれないから退治をお願いしたいというものだった。家畜は荒らされこの村の要となる木材の伐採ができなくなっている。このままでは村の存続は絶望的になってしまうといっていた。
村長は小さな体で頭を下げる。
「どうか、お願いします。勇者様、聖女様」
「いやぁ、無理無理、ワイバーンってドラゴンの上位種じゃん。そもそも毒持ってるかもしれないし、俺なんかが戦ったら1分持たないですよ」
「わかりました、聖女の名の元にそのワイバーンを倒します」
「流石は聖女様です! 本当にありがとうございます。お美しい顔立ちに加えそれ以上に清らかな心を持つ貴方様のような人に生きている内に会えるなんて感動で前が見えません……!」
「話進めんなって、ほら聖女様も久しぶりに褒められて嬉しそうにしないで」
ソラの話には一切聞く耳を持たず、彼女と言えば報酬の方を詳細に村長の家で取り決めようとしていた。こうなるとソラに決定権はなくなり、拒否権もない。いつものように彼女のおせっかいが始まると感じたソラは暇になると感じたのでそそくさとその場を後にした。
そうして、暇つぶしに地面に歩いている蟻を観察ながら餌をあげていると自分の元に誰かがやってくる気配を感じた。
「まぁ、生まれてこの方気配なんて察知出来たことないけど」
「一人で何言ってんだおっさん、気味悪い」
「おっさん!? お兄さんの間違いだろ?」
「黙れ。おっさん、茶化すんじゃねぇよ、さっきの村長との話もどうせホラだろ」
見ると、名も知らない子供がこちらを睨みつけていた。おそらく、村の子供だろう。痩せ細っていないところを見るにこの村はワイバーンが現れるまでは不自由無く栄えていたと考えられる。
「おっさんじゃ無くて、ソラさん。そう呼んでくれ少年」
「アンタなんておっさんで充分だ。いや、『強欲の勇者』と言った方がいいのか? どうなんだ? おっさん」
「人違いです。あとソラさんな」
『強欲の勇者』はソラの蔑称だ。一向に魔王を討伐せず、何年もダラダラと旅する。女、酒、金、望むものをすべて手に入れようとするからついたあだ名。こうして面と向かって言われることは少ないが大きな街で、囁く人々を見ることは少なくない。その場合、聖女様が食って掛かろうとするので止めるのが面倒だ。
「うるせぇ! 勇者の権限使って自堕落にしてる害虫め! どうせ、聖女様もグルで適当に嘘ついて法外な報酬でもふっかけるつもりなんだろ!」
「自堕落だの、害虫だの、法外だの難しい言葉よく知ってんな少年、あれか? 近くにちゃんとした教育者とかいるのか?」
少年はソラの言葉を無視して、喧嘩腰で叫ぶ。
「どうせ、残機なんていう異能で無限に生き返るんだからさっさと魔王を倒しに行きやがれ!」
「いや、無限じゃ無くて9999な」
「ほぼ、一緒じゃねーか!」
「落ち着け、少年。それに今から俺が魔王倒しに行ったら村の人が困るじゃないか、ワイバーンどうすんだよ」
「そんなの、僕が倒してもやる!」
少年はそういうと、黄金に輝く剣を懐から出しソラに突きつける。
「アンタに決闘を申し込む! もし僕が勝ったらこの村から出て行きやがれ!」
ソラはその剣の速度を目で追いながら、少年の実力が幼き頃の自分より圧倒的に高い事を理解する。そして、自分の今の実力を分析、総合的に判断した結果
「……嫌だマジで負けそう」
「はぁ!?」
「いや、お前多分俺より実力高いよ? 本気でやったら10回中8回は負けそうだな!」
えっへんとソラが胸を張ると少年は苛立ちながら
「この腰抜けヤロウ! 明日には村から出てけ!」
そう言って立ち去っていった。流石に勇者とは言え、無抵抗の相手に決闘を挑むのはマズイと思ったのだろう。おっさんだし。
「子供相手に何敗北宣言してるんですか、貴方は」
「どこから聞いてました聖女様」
「あなたの体臭がクサいといわれてる辺りから」
「そんな場面はねぇよ? え? マジで匂うの? ねぇ!?」
彼女はソラの質問には敢えて答えなかった。少し満足げな表情なのだから、村長の懐は絞れるだけ絞って来たのだろう。体臭の件ではないことを願いたい。
「仮にも10年も旅してるんですから、村の子供相手に負けるなんて言わないでください」
「しょうがねぇだろ、本気で戦って負けそうなんだもん」
そういうと、しゃがみ込んでいるのをやめて、立ち上がる。準備運動をする為に腰に差していた銅の剣を地面にぶっ刺してアキレス腱を伸ばす。剣が泣いている。
そのまま、全身伸ばし終えたら一息ついて聖女に言う。
「じゃあ、まぁ明日には出て行けって言われたし頑張りますか」
「……お人好し」
「アンタ程じゃないさ」
そうして彼らは森の方にえっちらおっちら向かっていった。
※※※※※※※※※※※
(なんなんだアイツは!)
少年はやり場の無い鬱憤を晴らすように剣を振っていた。あんな適当な勇者はみたことが無い、おとぎ話の勇者はみんなカッコよかった。だが現実問題、彼は冴えないおっさんだった。彼の言うことは真実であり、実際のところ本当に少年の剣筋を避け切れていなかったことが分かっている、分かってしまった。
この目にするまでは憧れの勇者の良くない噂なんて信じたくなかった。でもそれが本当だと気付くとひどく落胆した。
(俺なら、もっと、もっと上手くやれるのに!)
神様はどうして、あんなさえないおっさんに加護を渡したのだろうか、もっとふさわしい人だっていたはずだと思った。自分で無くとも実力がある騎士などにあの異能を渡せば、死なないのならば世界を救うことなんて簡単なのにと思った。
そうやって素振りをしているとイライラした気持ちも少しは収まった。だが、収まった所で現実は何も変わらない。
ああは言ったがワイバーンなど倒せるわけがなかった。ただ勇者に難癖をつけられて村の財産を毟り取られるのだけはいやだったので、追っ払おうと思って行動したのだ。
聞くところによれば、おっさん達はそそくさと村を出て行ったらしい。ワイバーンを倒してくるといったのだが、それもどうせ嘘であると思っている。
適当に理由をでっちあげて報酬と取ろうとするか、逃げ出したかの二択だろう。
そうして、一息入れ思考をしていると森の方から何かが現れた。
対の翼を広げ、叫び、周囲を威圧する。
モンスターの中でも上位種として名を馳せる。
――ワイバーンが村を襲った――
どこからともなく聞こえてくる悲鳴、逃げ出す村人。住んでいた家は吹き飛び、荒れ狂う飛竜をただ見ていることしか出来なかった。
周囲で勇者と聖女の助けを求める声がする。でも少年はそれが意味の無い叫びだと知る。彼らはどうせ紛い物なのだから。
少年はなんとかしなければいけないと思った。今こそ勇者の様におとぎ話の英雄のように動くのだ、戦うのだ。この場で時間を稼げるのは自分しかいないのだから
そう思った少年に体にたまたまワイバーンの尻尾が掠める。
それと同時に感じる痛み、骨折したわけでもなく腕を失ったわけでもないのに、それが脳に刻まれ、開戦の合図だと判断する。戦うと決意する。
—―決意したのに
「はっ……はぁ! はぁ!」
その考えとは別に彼は逃げ出していた。
(こ、怖い! 勝てるわけがない!)
少年の理性は戦えと言っていても、本能が恐怖し、逃亡を選択していた。
逃げ遅れた村人や足の悪い老人に目もくれず、彼は逃げ出す。
――逃げ出す、ニゲル、逃亡、敗走、にげだす。
そう思いながら、そうやって体を動かしながら
(おっさんのこと笑えないな)
そうやって現実逃避をしていた。
だから
「いやぁぁぁぁ死にたくない!!誰か! 助けて!!」
自分が見捨てた知り合いがワイバーンに噛みつかれるその直前、泣き叫ぶ声と同じくらい情けない
「あああああああああああああああ!!!!」
涙を流しながらよれよれの冴えない勇者のおっさんが身代わりになって食われるのが理解できなかった。
彼女はため息をついて独り言つ。
「そうやって、あなたはまた無駄に命を減らす。有限の命を見ず知らずの人に捧げる」
ワイバーンがソラの全身を咀嚼するのを見ながら、悲しそうに目を伏せる。
「行く先々で体をボロボロにして、報酬も受け取らず、人に騙されて何にも食べれなくなっても、陰口を言われても、石を投げられても、逆恨みで殺されても、牢にぶち込まれても、拷問をされても」
まるで、明日の天気を占うように次の残機はいいことあるかななんて。
「世界を救う事なんて、世界中の全員を救う事なんて、魔王まで救おうなんて、そんなこと、そんな過酷な使命を背負わなくていいんですよ」
「ねぇ――強欲の――」
刹那、どこからともなく戻って来る祝福という、加護という、呪いと共にワイバーンが爆発する。
そうして、戻ってきた冴えない、最愛の彼に
「おっさん」
「そこは嘘でも勇者様でいいんじゃないかなぁ!?」
残機9998になった彼がそういうと、彼女は彼に気づかれないように微笑んだ。
※※※※※※※※※※※※※※
「せ、聖女様、これ以上はちょっと……」
「確かに、先ほど話した額とは違いますが状況が状況です。作戦を練っていたのに行き当たりばったりになりそれに被害もほとんど出さなかった。別に払えない額ではないでしょう?」
村長とお話ししている後ろからゴゴゴというオーラが出ている聖女様の顔を見ないようにソラはまた地面に座ってしばらく蟻を観察していた。
村を救った英雄なのだから感謝されてもいいと自惚れ声をかけられるのを待っていた。だが、ワイバーンに食われた際の匂いが取れず村人たちが近寄りがたくなっている。決して彼の体臭がキツイからとかそういうわけではないのだ。でもちょっとだけ傷ついたのでその場を後にして森の川で体と衣服を洗った。
そんな最中、ガサガサと物音がするので聖女かと思って振り返ってみれば、またしてもそれは少年だった。
「キャー! 少年のエッチィ!」
「クサいんだけど」
「村を救った恩人に最初に言う言葉がそれ!?」
ごめん、ごめんと言いながら少年は真剣な表情でソラに謝る。
「本当に感謝してる。僕はあの時逃げ出した。死ぬのが怖くて……ソラのおっさんにあんだけ啖呵切ったのに」
「それは別にいいけどおっさんは止めような、マジで」
「ソラのおっさんどうやってあのワイバーンを倒したんだ? ぶっちゃけ僕より弱いのに」
「この村の住人は話を聞かねぇのか?」
そう言いながらもソラは手に憑いている盾を見せる。
「この盾、マジで呪われてて外せねぇんだ。それは残機が減っても一生一緒。一蓮托生。捨てても絶対戻って来る。普通外せすらしねぇけど」
「それと、なんの関係が……」
「だから、腕ごとぶった切ってその後遠くで俺が死ねばブーメランみたいに活用できる。」
そうして聞かされた。正気とは思えない方法に絶句する。残機があるとは言えソラにも痛みはあるはず、でなければワイバーンに食われる際にあんなに泣いたりしない。
そして、理解が出来ず恐怖する。なぜ、そこまでして見ず知らずの村人にそこまでできるのだろうか
そんな少年の表情を読み取ったのか、言葉を選びながら話す。
「昔、恩人に命を救ってもらってな。この力もその時譲り受けたんだが。まぁそん時に決意したわけよ、この人みたいになりてぇなって」
初耳だった。元々から持っている能力だと思っていたのだが、まさかそんな過去があるとは。
「その人は……」
「死んだよ、俺の為に。バカだよなぁ? 出会って数時間しか経ってなかったんだぜ?」
ソラは懐かしむように、慈しむように、決して忘れないように想起する。
「そん時の俺もロクデナシだったんだが、それをきっかけに目の前で困ってる人がいたら残機が1個になるまではとりあえず全部助けていこうと思ったんだ」
彼は本来そんな聖人ではないし、そんなことはしようとも思わない。
元々、身内以外が苦しもうがなんとも思わないのだ。
でも
彼の身内の範囲が、すでに世界中の人間たちだとするならば
アホなことだと理解しているのだろうか、自嘲気味に笑う。
身の丈に合っていない望みを理解し、それでもなお愚者として全員を救おうとする。彼の望むものは会得する事は不可能であり、実行することは無謀であり、願いは偽善であり、それが分かっていても納得できず。
全人類を助けたいなんて
その姿はまるで、例えるとするならば
まさに、『強欲の勇者』
少年はそれを聞くと呆気にとられていたがしばらくすると咳ばらいをして、再び謝罪する。
「ごめん、やっぱりソラのおっさんは勇者だよ」
「だから、タダの冒険者だって」
少年は咳をする。そうして、笑って
――大量に、吐血した。
「おい!? 少年大丈夫か!?」
ソラが慌てている。その呼びかけに応じる余裕などなく、少年はまとまらない頭でどうして自分の体調が悪くなったのか考える。
――『そもそも毒持ってるかもしれないし』――
「――ぁ、尻尾」
あの時に、毒が回ったのだろうか。
少年は本当に自分が死ぬんだなぁと理解する。これはあの時逃げた罰であり、因果なのだ。
だから諦めて、納得して、でもそれでも
「死にたくないよ……」
「嫌だ! 生きていたいよ! やだよ、誰か、助けてよ!」
叫ぶ、泣く、鳴く、亡くなる前にみっともなく足掻くそうしてそんな自分を恥ずかしいと恥じる。
――こんな時だけ、自分に残機があったらいいななんて思う。都合のいい自分に嫌気が差しながら
少年は絶命した。
※※※※※※※※※※※※※※
「ざけんじゃねぇぞ! 俺の前で死んでんじゃねぇ! あー、あとで絶対怒られるなぁ!? チクショウ!!」
そうして、ソラは手をかざす。
借り物である、紛い物である、本来の異能を執行させるために
「聖女の名の元に命じる。この者の残機を増やせ」
そうして、光と共に祈りの下に本当の祝福を降り注がせる。
「あ、あれ? どうして僕生きて……ワイバーンの毒は?」
「え? 何言ってんだ少年? 幻覚のある毒キノコでも食ったか?」
残機9997になった聖女の紛い物はそうやって何でもないように笑った。
「あなたはバカなんですね。いつも言ってますけど」
「だーかーらー悪かったって! しょうがねぇだろ!? あんなに生きたがってる奴見殺しにしたらおちおち寝られねえよ!」
「だったら、はやく私を殺せば解決するのに」
ソラはプリプリと怒る聖女様に
――現、魔王に謝る。
「齢16歳になる美少女(笑)を殺すなんて大それた事あっしのようなチンケな男には出来はしませんてぇ!」
ソラがそういうと、魔王はまた無言で鳩尾を殴り悶絶。
「すいません、美少女の辺りで何か名状しがたい侮蔑を感じたので」
「理不尽!」
ソラはそういうと、荷物をゆさゆさと揺らしながら魔王に尋ねる。
「そんで、この辺りは封印できたのか?」
「そうですね、少なくとも1000年はモンスターが出ないようにしています」
「充分だわ、1000年後の事まで流石に面倒見切れん」
そういってモンスターの封印を施す魔王に了承すると、笑う。
魔王はそれを反省していないと思ったのか、過去の出来事を振り返る。
「そんなこと言って、どうせ1000年後もモンスターが出ない方法が分かったら最善を尽くすくせに」
「い、いや、ほんと、さすがにそこまではしないって! うん……多分」
それを聞いて何度目になるか分からない、ため息を吐く。
「大体、私と初めて会ったとき残機覚えています?」
それを聞くとソラはまたお説教がはじまると思いしどろもどろになる。
「いやぁ~おっさんちょおおっと最近物忘れが激しくてわかんないかなぁ?」
「残機だいたい99万ありましたよね。それが10年でどうして9997になるんですか」
「さぁぐずぐずせずに行こうぜ! こうしている間にも苦しんでいる人がいるかもしれないのだから! とぅ!!」
そういって駆け出していく、勇者の紛い物を聖女の紛い物はジトーっとした目で見つめる。
「いい加減、世界救う為に力使ってくれませんか?」
齢30過ぎのソラ・マグルスはその力を一向に正しいように活用しなかった。
「バカ言うんじゃない!」
「残機が9996しか無いのに、世界なんて救えるわけないだろ!」
残機が9996しかない彼が、世界を救うなんて大それたこと出来るわけがないのである!
「……なんでまた一つ減ってるんですか」
「――ぁ、えーとちょっとお腹すいて毒キノコ食べたらその……」
「やっぱり手足ちょん切って胴体だけで冒険させてあげます」
「うぉぉぉぉぉ! 目が! 目がマジ!」
ご視聴ありがとうございました!
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