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7話 訪問

 ピンポ〜ン


 午前の座学が(眠気と言う)佳境を迎えた頃、玄関チャイムが呑気な音を奏で訪問者が訪れた事を伝えてくる。


「あら、誰かし……」

「お母さま私が出る!」


 マーリンはイザベラの声に対し食い気味に言うと、返事も待たず部屋から飛び出して行った。

 マーリンにとってこのタイミングで客が訪れた事は、座学をサボいや眠気を覚ます恰好のチャンスなのだ。


「全くあの子ったら……ファウストあなたはマーリンに付いていて、私はお茶の支度をして来ます」


 チラリとカレンダーに目をやったイザベラの顔を見る限り、誰が来たのか見当が付いた様子で、そう言い残すと部屋を出てリビングの方に歩いて行く。

 俺もイザベラの後を追う様に部屋から出ると、スタスタと遠ざかる足音に背を向け反対方向の玄関へ歩を進める。

 訪問者の正体は俺にも心当たりが有る。

 月に一度必ず訪れる訪問者、その正体はアイツ(・・・)で間違い無いだろう。

 玄関に到着すると、丁度マーリンが内鍵を外しドアを開ける所だった。

 少し不用心かとも思うが、マーリンもドアの向こうに誰が立っているのか分かっている様子。

 と、言うか俺がここで暮らし始めて数ヶ月経つが、来客らしい来客はアイツ位しかお目に掛かった事が無いのだ。

 仕事の依頼は基本電話でのみ、周辺には民家も無くご近所付き合い等も無い。

 それに加え今現在のイザベラは、弟子(マーリン)の修行に集中したいと言う理由で仕事は暫くの間休みにすると言っていた。

 そんな訳なので、この家を訪れる人物は自ずと限定されるのだ。

 毎月決まったタイミング、第二週の金曜日に訪れるアイツ……


「おはよう御座います。やあ今日のお出迎えはマーリンちゃんかい?」

「あー! やっぱり、おっぱいのおじさん!」

「ちょっ! おっぱ……んんっ! 何、僕そんな不名誉な呼ばれ方してるんですか!?」


 開け放たれたドアの外に立っていたのは、温和を絵に描いた様な顔に苦笑を浮かべた、おじさんと言うには若過ぎる男だった。

 彼の名は『萬屋隆一(よろずやりゅういち)

 俺達が暮らす、ここ棉白野町(わたしらのまち)の役場職員である。

 棉白川町は関東は埼玉の山間に位置する、人口3千人に満たない小さな町で有る。

 はっきり言ってかなりのど田舎で、名物と呼ばれる物も特に無く、売りは人が少ない事と人口に対して敷地面積が広く土地が異常に余っている事位だろう。

 もう少し山を登ればライダー達が良く集まるツーリングスポットも有るが、そんな彼等にもここは良いとこ途中に存在する休憩兼給油ポイント程度の認識だろうし、大半は素通りして行く様な場所だった。

 そんな小さな町にも当たり前だが町役場が存在し、そこの生活安全課に勤めるのが隆一だ。

 隆一はまだ20代と言う若さで課長職に就いてはいるが、職員自体が少なく課長とは名ばかりの部下無し課長である。

 事務員は何人か居るが、実質業務はほぼ隆一1人で担う事になる。

 そう言った理由で、月に一度のお宅訪問も課長直々に足を運ぶ事になるのだ。

 まあ隆一自身「良い息抜きになる」と言っているので苦にはなって居ない、それどころか喜んでここに赴いている節すらある。

 俺達が住む家は寂れた町の更に端、周りにはコンビニどころか民家すら存在しない場所にポツンと建っているのだ。

 もう少し町の中心近くに住んでいれば、隆一の負担も多少は軽減できたろうに。

 大体イザベラ程の魔法使いが、何故こんな辺鄙な場所に居を構えているのか?

 元々はイザベラの師である人物の家だったのだが、それをそのまま貰い受けここに住み続けている、そしてその師匠もかなりの使い手だったとの事だ。

 やはり魔法使いと言うのは人目をはばかって生活するものなのだろうか?


「ご苦労様リュウ君。……どうしたの? 変な顔して」


 お茶の支度をすると言っていたイザベラが玄関までやって来て隆一の姿を認めると、エプロンを外しながらそう声を掛ける。


「あ……イザベラさん。月一の定期訪問に来ました。

 お変わり有りませんか?」

「やあねぇそんな他人行儀な。さあ上がってお茶の支度が出来てるわ」


 何の変哲もない会話であったが俺は見逃さなかった、現れたイザベラに対し隆一の視線が一瞬胸元に行き、直ぐに目を逸らしたのを。

 そしてその不自然な視線の動きには、当然マーリンも気が付いている訳で……

 

「あーやっぱり! お母さまのおっぱいみてるー」

「クっ……」


(言ってやるなご主人、俺も男だから分かるが正直イザベラの胸を意識しないヤツは居ないと思うぞ? それに季節柄薄着な上ラフな部屋着姿なんだから、そりゃあ見るなって方が酷だぞ)


 赤くなって押し黙る隆一と、そんな隆一を囃し立てるマーリン。イザベラは2人のやり取りを見ながら、キョトンとした顔をしている。


「なーに? リュウ君、そんなに見たいなら遠慮しなくて良いのよ? 減るもんじゃ無いし」


 そう言うと隆一の鼻先に、はちきれんばかりにたわわに実った二つの塊が迫る。

 Tシャツの薄い布地を内側からこれでもかと押し上げている自らの胸を、押し付けんばかりに近付けて見せるイザベラ。

 天然なのかわざとなのかは分からないが、彼女にとって隆一はこの程度の事なら何とも無い間柄と思っているのだろうが、当の隆一にとっては色々堪らないだろう。

 その証拠に顔は真っ赤、目も白黒させ動揺が全く隠せていない。


「早くしないとお茶が冷めちゃうわ、さあ皆んなリビングに集合よ」


 身体を離し奥へ向かうイザベラの後ろ姿を、ボーッと見つめる隆一。

 その表情は離れてしまったイザベラの胸に未練を残している顔では無く、もっと違う感情が色濃く現れていた。

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