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6話 使い魔

「今日の授業では、使い魔召喚魔法について説明します」

「はい! ししょー」


 マーリンの実技練習も結構な数をこなし、そこそこ様になって来た頃。

 季節は初夏を迎え、俺がこっちに来てから早3ヶ月程が過ぎようとしてた。

 こちらの世界には梅雨と呼ばれる季節が無く、あの季節特有のジメジメした感じの無いおかげか、なかなか快適に生活出来ている。

 さて基礎的な魔法知識の授業も一段落して、今日は少し高度な魔法について勉強するらしい。

 その第一回目のテーマが使い魔召喚魔法なのだから、当人で有る俺も結構気になる内容となっていた。

 イザベラは自分が座っている席の後ろに備え付けられたホワイトボードに、なにやらキュッキュッと絵や文字を書き込みながら説明を始める。


「まず使い魔とは何か、使い魔は一般的に何かしらの生き物を模した形で形成されます。ではそれは何故か、役割を考えれば生き物の形をしている必要は実は有りません」


 イザベラはそこまで説明すると、ホワイトボードが俺達に見える様一歩横に体をずらしなが振り返る。

 そこには使い魔と思しきネコの簡単なイラストと、それに並ぶ様に球形の物体が描かれていた。


「この様に極端な話し、水晶玉でも何でも構わないのです。

 実際に魔法使いの中には、無生物を使い魔として使っている人も居ます」


(おいおい、生物じゃ無くても良いのかよ……)


 流石にこの内容には驚かされた、今俺はネコとして生活しているが、下手をすればガラス製の球や石ころになっていたかも知れないと言う事だ。

 向かいの席で話を聞いていたマーリンにとっても衝撃的な内容だった様で、目を丸くしてポカーンとして居る。


「魂さえ宿って居れば、姿形は召喚する魔法使いの自由なのです。

 ではここでマーリンに質問です、現代社会で魔法使いがやってはいけない事を答えて下さい」


 そうイザベラに突然質問されたマーリンは、最初少し戸惑った様だが何とか答え始める。


「え、えーと……人をきずつける事と……あっ! これにはせいしんてきにきずつける事もふくみます。それから、死んだ人をよみがえらせたり、いのちをつくりだす事……です」


 辿々しく答えたマーリンの答えに、イザベラは満足した様に大きく頷く。


「正解です。もし魔法使いがこれら禁忌事項(やってはいけない事)を犯した場合、魔法執行権の一時剥奪や更には魔力封印等の重い罰が課せられます。ではそれを踏まえて、使い魔を創り出すのは禁則事項に接触すると思いませんか?」


 イザベラの更なる質問に、ハッとした顔をするマーリン。

 そう、気が付いてしまったのだ。

 使い魔とは言え命有る生命体を創り出している、つまり今言った魔法使いの禁忌事項にバッチリ抵触すると言う事に。


(と言うか、俺自身も何故今まで疑問に思わなかったんだ? 魔法使いの禁忌事項は当然知識で知ってるってのに、それにも関わらず今の今まで自分の存在に一切疑問を感じた事は無かったぞ……)


「え……でも……じゃあ……」


 あからさまに狼狽え始めるマーリンの頭に手を置き、落ち着かせる為笑顔を浮かべるイザベラ。


「安心して下さい、使い魔はこの禁忌事項に当たりません。今からそれは何故か説明します」


 イザベラが再びホワイトボードへ向き直り、ペンを走らせるとそこには新たなネコのイラストが追加されていた。

 それぞれネコの頭上には“A”“B”とアルファベットが振られ、二匹の間にはイコールマークが書かれるが、最後にイザベラはそのイコールマークを、ご丁寧にも赤ペンを使い大きなバッテン印で上書きする。


「イラスト“A”を使い魔のネコ、イラスト“B”を動物の猫と仮定します。

 先ず大前提として使い魔は動物では無く、魔法生物です」


 そこまで説明しイザベラはマーリンに視線を送ると、マーリンは分かったとばかりに何度も頷き返す。


「では次に、使い魔を創り出す手順を説明します。

 先ず第一に(うつわ)の生成です。これはどんな使い魔にしたいかによって、様々な形状になります。

 マーリンの使い魔ファウストは、本人たっての希望でネコとなりました」


 今度は俺に向かって視線を投げてくるイザベラ。

 俺も先程のマーリンを見習ってこくりと頷き返す。


(そうか、俺がネコになったのはマーリンのお陰か……良かった〜水晶玉とかじゃ無くて)


「肉体は魔法によって生成します、使い魔が魔法生物と言われる所以ですね。

 しかしそれだけではまだ不十分、使い魔は動けません。この状態はただ魔法で創り出した空の器なのです。

 器が使い魔になるには魂が必要、ですが魂を創り出す事は禁忌事項。ならばどうするか……」


 少し勿体ぶった様に一息入れるイザベラと、今まで見たことが無い程真剣に、そして熱心に耳を傾けるマーリン。

 そんな二人を見ながら俺は……


(あ〜俺は何となく分かったわ、まあ当事者だしな〜)


「その答えは『魂のみ他の世界からから召喚する』です」


(うん、だよな……)


 あっちの世界じゃ冴えないサラリーマンやってた俺が、気が付けばこっちの世界でネコになっていた。

 そんな不可思議な出来事も、魂だけ連れて来られたと考えれば辻褄が合う。


「先ず大前提として、この世には私たちが暮らす世界とは別に、様々な世界が並行して無数に存在します。

 その中には私達と同じ様な世界も有れば、人から全くかけ離れた異形の者が住む世界まで、多種多様と言われています。

 そう言った数多の世界から魂を召喚します」


「……じゃあ、しょうかんされた魂の元のもちぬしは、どうなっちゃうんですか?」


 マーリンはやや躊躇いながら、緊張した面持ちでイザベラに質問する。

 その疑問は当然だろう、魂を連れて来れば当然元の持ち主の命は……

 しかし、これの答えも俺には何となく察しが付く。


「もっともな質問ですね。でも安心して下さい、何も無理矢理魂を召喚する訳では有りません。召喚される魂は、元の世界で不慮の事故により命を落とした生物、本来そうなる筈では無くまだまだ生きる予定だった者、その中でも使い魔としての素質を持ち合わせた者に限定されて召喚されます」


(大体思ってた通りだが、誰でも良いって訳じゃ無いのか。俺に使い魔の素質が有ったってのは少し驚いたな)

(……ん? 待てよ? 今の話しでいくと、俺は死ぬ予定じゃ無かったって事になるのか?

 ……案外あの時追い掛けた黒猫の身代わりだったりしてな。

 まあ、だとしてもアイツだって死ぬ予定じゃ無かったって事になるし、俺が脅かしたせいでああなった訳だし、どっちにしろどちらかが召喚される事になってたなら、俺が来れたのはラッキーだったかもな〜)


 イザベラの答えを聞いて、少し緊張が解けた様子のマーリンを眺めながらそんな事を考えると、更にイザベラが説明を続ける。


「ですのでどんな世界からどんな魂が召喚されるか、術者にすら分かりません。

 ファウストを召喚した時『危険なモノが迷い込む事も有る』と貴方に言ったのはそう言う理由からです。

 もちろんそうならない様に、召喚術には幾つもの制限を掛けて慎重に行われますが、必ずしもこちらの思い通りの者が来ると限りません。

 貴方も将来、自分の弟子に使い魔を与える時が来ると思います。

 その時までこの事は忘れない様に、良いですね?」


 イザベラがそう締め括って本日の授業は終了した。

 俺にとってもマーリンにとっても、珍しく実りある充実した授業内容だった。

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