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12話 訪問2

「この間は有難う御座いました、これつまらない物ですが」


 午前の授業と昼食を終えリビングでお茶を飲みながらくつろいで居ると、隆一(りゅういち)が菓子折り片手にヒョッコリ現れる。

 どうやら土砂災害の時仕事を引き受けた事に対する礼を言いに来たらしい、まあ多分イザベラに会うための口実だろう。

 立ち話も何だからと言う事で隆一もお茶に誘い、テーブルの上には彼の持って来た手土産の苺大福が早速並べられた。

 きちんとした和菓子屋で買って来たと思われる苺大福は、薄皮で甘さ控えめの餡を包みその上に皮からはみ出す程立派な苺が乗っかった物で、隆一にしては良いチョイスをしたなと感心した。

 因みにとても美味だった。


「わざわざ良かったのに、私は仕事をこなしただけよ」

「いえ、ほんの気持ちですから。それとあの時連絡が取れなくなっていたライダーですが、どうやら風邪で寝込んでいただけの様です。ライダー仲間の方が連絡して来てくれました」


 どうも風雨に晒されたせいで風邪を引き、電話に出られなかっただけの様だった。

 何とも人騒がせな話である。


「そう、安否が確認出来たなら良かったわ」


 隆一の話を聞き心底安心した表情を漏らすイザベラ。

 あの土砂の中からは発見出来なかったが、実際どうなっていたのかは分からずじまいだったからだ。

 その人騒がせライダーに付いてはイザベラに何の責任も無いが、気にして居なかったと言えば嘘になる。

 これでやっと肩の荷が降りた気分だろう。


「ええと……それで、も、もし宜しければなのですが、お礼も兼ねて今度食……」


 ピンポ〜ン


「あら、今日は来客が多いのね。ちょっと待っててねリュウ君」


 勇気を振り絞った隆一がかなり大切な事を言おうとした矢先、突然鳴り響いたチャイムに中断されイザベラは席を立ってしまう。

 彼女がリビングから姿を消した直後、テーブルに突っ伏してしまった哀れな隆一の頭に俺はポンっと手を置く。


(ツイて無かったな。うん、まあ頑張れ)


✳︎


 イザベラがドアを開けるとそこには、パンツスーツをビシッと身に纏った年の頃は二十歳そこそこ、派手になり過ぎない程度に抑えたメイクを施し、美人と言うよりかはまだ可愛いと言える顔立ちの女性が、やや緊張の面持ちで立っていた。


「突然の訪問申し訳ありません。わたくしこう言うものです!」


 少し上ずりながらもハキハキとした、と言うかやたら元気な声でそう言いながら身体をくの字に曲げ名刺を差し出す。

 その名刺には『テレビ関東 報道部 沢井(さわい) (みちる)』と書かれていた。


「……テレビ局の方がどんなご用?」


 名刺を見た途端あからさまに険しい表情をしたイザベラだったが、沢井はそれに気が付いていないか若しくは気が付いていてあえて無視したのか分からないが、そのまま用件を切り出す。


「はい、実はこの間の土砂災害の折り、取り残された方々を助ける為にご尽力頂いた魔法使いの方がいらっしゃると聞き、ぜひインタビューさせて頂けないかと……」

「お帰りください」

「え、あ、そのお時間は取らせませんので、ほんの少しだけでも……」

「弟子に修行を付ける時間です。お引き取り下さい」

「そこを何とか!」


『なんか騒がしいね』

『そうだな、何か言い争いしてるみたいだが』


 賑やかな玄関先が気になり相互共有(リンク)で話しかけて来るマーリン。


『行ってみるか?』

『うん〜そうだね、隆一おじさんも動かなくなっちゃったし。行こっか』


 テーブルに突っ伏して動かないままの隆一は放って置きマーリンと共に玄関へ向かうと、イザベラと沢井が押し問答を繰り広げている真っ最中だった。


「お願いします! この通りです、勿論謝礼はお支払いしますので」

「お金の問題では有りません、どうぞお帰り下さい」

「テレビに出れば有名になって仕事も増えますよ!」

「大きなお世話です。顔も売りたく有りませんし、第一今は仕事を休んでます」


『なんだありゃ……』

『お母様が知らない人に……どうしようお母様凄い怒ってる』


 マーリンは青ざめた顔でガタガタと身体を震わせながら、これ以上イザベラに近寄れないでいた。

 声を荒らげている訳でも無く、寧ろ口調自体はいつも以上に丁寧なのだが、イザベラからの静かな怒りはこちらにもビシバシ伝わって来ていた。

 それを前にして全く怯む事なく食い下がる沢井は、恐ろしく根性が据わっているかそれとも余程鈍感かのどちらかだろう。


『ん〜? あの人どっかで見た事あるな〜何処だっけか』

『ファウスト知ってるの?』

『何処だっけな〜割と最近見た様な……あっ!』


(思い出した、土砂崩れ現場に行く途中で見たレポーターだ)


『思い出したの?』

『ああ、あれはテレビ局の人間だ。土砂崩れの時も現地レポートに来てたぞ』


 マーリンとの会話中も二人の言い争いは続く。


「入社して初めて任された大きな仕事何です、お願いします!」

「私には関係無い事です、大体私の事を何処で聞いたんですか? 住所は公開していないんですよ?」

「あの日道路が開通した直後に山を降りて来たライダーの皆さんからお話を伺いました。何でもとてもお綺麗な魔法使いの方に助けて頂いたと、皆さん大変感謝していましたよ? 後は役所の方に問い合わせしまして、確か生活安全課の萬屋さんと言う方が丁寧に教えて……」

「リュウ君!!!」


『あちゃー』

『あちゃー』


 隆一の名を聞き、俺とマーリンは同時に頭を抱える。

 理由は分からないがイザベラは痛くメディアを嫌っている様子、なのに住所を教えてしまうとか……

 イザベラの隆一に対する、なけなしの好感度が今正に音を立てて下がった気がした。


「どうしたんですかイザベラさん、そんな大声出し……」


 やっと先程のダメージから復活したのか、奥から隆一が姿を表すがイザベラの顔を見て即座に凍り付く。

 それもそうだろう、普段温厚なイザベラが今まで見た事も無いような顔で隆一を睨み付けているのだから。


「リュウ君、私の事をこの人に話したんですってね」

「え、あ、はい。この町に住む魔法使いについて知りたいと問い合わせが有りましたもので……まずかったですか?」

「個人情報を見ず知らずの人に教えるとか、普通有り得ないでしょ!」

「すっすいません! テレビの取材を受けるのなんて人生で初めてだったので、それにこの町に住む美人(・・)魔法使いについて教えて欲しいと言われ、つい嬉しくなって……」

「どうしてリュウ君が喜ぶのよ!」


 どうやらテレビ局と言う肩書きと、好きな人を美人呼ばわりされたおかげですっかり舞い上がってしまった様だ。

 だからと言って個人情報を簡単に漏らすのは如何なものか……

 怒りの矛先がすっかり隆一に向き、ポツンと取り残される形になった沢井が恐る恐る声を掛ける。


「あ、あの〜それで取材の件なのですが……」

「お引き取り下さい!」

「ヒィ……」


 隆一に向けていた表情のまま振り返り叫ぶと、流石の沢井にもイザベラの怒りが伝わったのか「日を改めてまた参ります!」と言い残し逃げる様に帰って行った。

 それを見送った後再び隆一の方へ顔を向けるイザベラ。

 先程までの怒りを露わにした表情からは一転、薄らと笑みさえ湛えているのだがどうやら怒りが鎮まった訳では無さそうだ。


(うわ〜目が笑ってね〜)

 

「じゃあリュウ君、ちょっと向こうでお話ししましょうか」

「は、はぃ……」


 イザベラの私室へと連行されて行く隆一、一瞬こちらを振り返った時に覗かせた目が「助けて」と言って居たが、俺達に何が出来る訳も無くそのまま手を振って見送る。


『おじさんかわいそ〜』

『いやあれは自業自得だろ』

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