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宗教狂いを殺して笑う男

「どういう言い訳だ!」


 三村元親との戦いで傍観を決め込んでいた松田親子の重臣が宇喜多直家の家臣に射殺されたのはその直後の事であった。

 直家は狩りの獲物と間違えましてと言いのけていたが、松田家がそれを真に受ける訳はなかった。


「で、それが言い訳でない事をどう証明なさるのです?」


 松田元賢の絶叫を重臣の伊賀久隆は聞き流していた。


「お前は何だ、重臣が殺されたのにボーっとしてろとでも言うのか?」

「証明できるのであれば証拠を突き付けます、できるのであれば……」

「いくら義理の叔父だからって調子に乗るなよ」

「その様な事は……」


 確かに直家が間違えたのではなく本気で射殺したとなれば大問題だが、それを証明する手段はこちらにはない。


 久隆の物言いは道理なのだ、まごう事なき道理なのだ。





 それから数日後、元賢の父元輝が城外から帰城すると城門が閉められていた。


「日蓮上人にでも祈ったらいかがです?」


 伊賀久隆が宇喜多に走り、城を包囲していた。


 実際問題元輝・元賢親子は最近領国統治そっちのけで日蓮宗への信仰に熱を上げており、そのせいで領内は乱れていたのだ。

 その状況を憂う久隆に直家が目を付け、そして久隆がその誘いに応じて宇喜多に走ったのも道理と言う物である。

 裏切り者と自分を謗る元輝に対し久隆は冷たくそう言い放ち、そして部下に命じて鉛玉を元輝の胸にめり込ませた。そして翌日には元賢も城を捨てざるを得なくなり、翌々日には伊賀軍の手にかかって果てた。







「あれほどまでに仏を厚く進行していた夫と義父だ。その二人の御魂も、お前の御魂も天界へ行けよう。お前の義父と夫の罪は全部私が負ってやる……」


 直家は笑いこそしないにせよ泣きはしなかった。元賢の妻、つまり自分の娘が夫の後を追ったと言うのにだ。


「殉死してくれる程度には娘の事を愛してくれていたらしいな…それだけは感謝するぞ」


 直家が義理の息子である元賢に対して残した言葉はそれで終わりだった。

 もう四十も近く跡継ぎも未だいないはずなのに、途方もなく直家は冷たかった。




「何とでも言え」




 直家の頭の中にあったのはその一言だけだった。口でそうやって開き直る事は平易でも、実際にそう割り切って開き直る事がどれだけ困難かお前たちにはわかるまい。


 直家のそういう自信が、彼を強くしていた。

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