泣く少年
新年あけましておめでとうございます。
……こんな作品です。
彼は泣いていた。
「やむを得ない事だ、今の我らの力とはこんな物だ」
「悔しくないのですか!」
父親に付き添われながら泣いていた、そして吠えた。
「ああ悔しい。でも今の我々ではその悔しさを晴らす事はできない」
「でも……!」
そう言われても彼は泣く事を止めなかった。
「いいか、今の我々では小指で吹き飛ばされるだろう。そうならないように強くなるしか本懐を果たす道はないんだ」
その少年に、その言葉の意味がどれだけわかっていただろうか。その六歳の少年が分かった事、それは今の自分たちには何もできないと言う事だけである。
「それはわからん」
少年は涙声でいつまでと父親に聞いた。そしてその返答に納得する事なく泣き喚き続けた。
「勝手な事?実際問題、六つのお前に敵が斬れたか?」
親子は今、根無し草であった。ほんの数日前まで城の主であったとはとても思えない。
しかし時代は余りにも残酷だった。昨日まで城主であった人間がこうして根無し草になった所で誰も驚かない。そして逆が起こった所でやはり誰も驚かない。
少年の祖父は能臣として名を馳せた。その祖父の孫として生まれた少年は、平和な時代ならばその能臣の孫としてぬくぬくと過ごしただろう。
だが今その祖父は敵の刃にかかってこの世を去り、父も自分もその祖父の無念を晴らす力を持っていない。
「いいか、泣き呆けている事を許してくれるほど世の中甘くはない。何をやってでも祖父の無念を晴らすのだ」
その時の父の言葉は、確かに少年に刻み込まれた。
そして少年は六年後、父をも失った。だが少年は泣かなかった。
泣き喚く弟を泣いた所で父は帰って来ないと諌めるだけで、己が双眸からは一滴の液体も落とさなかった。
彼は既に一生分悲しみ、一生分泣いていたのかもしれない。
その十二歳の少年の名こそ、宇喜多直家であった。