未知なる魔物と未知なる少女
「っ…!」
ダメだ…今のアリアは戦えない。その分僕が闘うしか、皆を救えない。僕は、鎌を持つ。
この世のものとは思えない程禍々しい雰囲気を放った、犬の様なあいつらは、触角を伸ばしてきた。…遅い。確かに触角は伸びている。なのに、さっきから全く近づいてこない。今なら、相手の弱点を狙えるかもしれない。
…見当は付いている。右前足だけ色が違うのだ。紫色に腫れていて、痛々しい。でも、誰が弱点を?
僕は触角に触れないよう、避けながら、確実に相手に近づく。周囲に居るのは10匹ぐらいだろうか?上手くいけば一度に倒せる…!右前足に向かって鎌を…
「え…何で…」
何故?という疑問と痛みで僕の頭は埋め尽くされた。痛い。痛い?痛い。何故?何故。何故?何が。何が?
何が。
痛みを感じる左腕に目を向ける。…シャツが、赤黒く、染まっていた。それに気づくと同時に、痛みが加速する。痛い。痛い。痛い。
「-ふん、莫迦者め。」
「?貴方は、誰?」
僕に見えたのは、ツインテールになっている黒い髪とフリルの沢山付いた服。ろりーた?と言うのだろうか。
「妾はマリィ・カーマンド・スピライト。ところでお主、妾と話す時間など残っておるか?残っていないであろう?」
そこで、その子は拷問器具のようなハサミを取り出した、気がした。僕の意識は、これ以上、持たな、かった。
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次に目を覚ますと、其処は、天蓋付きベッドの上だった。隣に何か、温もりを感じる。こ、これは…
「ええっと、ア、アリアさーん?」
『隣に居る』という事に緊張してしまい、上手く喋ることが出来ない。
「…。ようやく起きたと思っておったら第一声がそれであるか?」
「………………………。な、何故貴方が!?」
「ふん、救ってやったというのにその態度か?」
「…………」
「まぁよい。せいぜい妾に感謝しておるがいい」
「…………」
「…あからさまに嫌そうな顔をするでない。後、そっちの奴も起きたら廊下の突き当たりにある部屋に来るが良い。食堂になっているからの。」
そう言い残し、マリィ?さんは出て行った。
「おーい、アリア〜?」
「う~ん?」
「ご飯だよ!」
「えっ、ご飯!?」
ガバッと布団から起きたアリアは、元気そうにご飯を求める。
「廊下の突き当たり」
「はーい♪」
駆け足で食堂に向かうアリア。寝ぼけ気味なのか周りのことに気付かない。よし、僕も…♪
「痛っ!?」
そうだ、僕、左腕怪我してたんだっけ。丁寧に包帯まで巻かれている。思いっきり振り上げちゃった…。今度は、出来るだけ刺激を与えないようゆっくり歩く。
「よいしょ、と」
食堂に繋がる大きな扉を開くと、お皿の上にたっぷりと盛り付けられたご飯を頬張るアリアの姿が。
「揃ったか」
「ええ、お嬢様」
マリィ?さんの隣には若そうな執事さんが立っている。
「改めて自己紹介をしよう。妾はマリィ・カーマンド・スピライト。スピライト財閥の68代目当主であり、其方らと同じく、『生贄』じゃ」
ここで、その言葉を聞くなんて夢にも思わなかった。