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「セキュリティルーム」

「セキュリティルーム」


 和真の言葉にオルソもノワールも驚いていたが、すぐに了承してくれた。

 二人はお互いに強い信頼関係にあるようだったが、管理部に広くヤァスの影響力が浸透していると分かった以上、同じ目的のために協力できる相手は少しでも多い方がいいと思ったのだろう。


 和真の立候補を聞いて、「それならわたしも! 」「僕もやるよ! 」と、千代とピエトロも立ちあがってくれた。

 だが、この二人については、ノワールは首を左右に振った。


「すまないが、二人の持つチートスキルでは、戦闘に巻き込まれてしまった時に危険すぎる。気持ちは嬉しいが、今の我々の力では守ることもできない。それに、せっかく捕えたシマリスのことを保護し、監視する役割も必要だ」


 何しろ、千代とピエトロのチートスキルは、手から美味しい鶏のからあげを無限に出せる、というものと、どんな小麦粉からでも最高のピザ生地を作れる、というものに過ぎない。

 チータープリズンで起こっている囚人チーターたちの暴動はまだ激しく続いているし、ヤァスが強い影響力を持つと分かった今、強力なチートスキルを持った危険なチーターと戦いになる可能性は大きかった。


 千代もピエトロも不満そうではあったものの、「今は従ってくれ」というノワールの言葉に、引き下がってくれた。


「話は決まった。それでは、和真くんは私についてきてくれ。千代さんとピエトロさんは、ノワールの誘導で移動を」


 オルソがそう告げると、もしかするとこのチータープリズンでヤァスの目論見を阻止するために動いているほぼ全員かもしれない和真たちは、それぞれの行動を開始した。


────────────────────────────────────────


 ノワール、千代、ピエトロと別行動し、オルソと和真が向かったのは、管理棟の内部の監視カメラなどを制御しているセキュリティルームだった。

 ただ、こちらは普段使われている場所ではなく、メインとして使われているセキュリティルームが点検やトラブルなどで機能を停止してしまった場合に使われる、サブの方であるらしかった。


 それでも、設備はメインとほぼ同じものが備えつけられ、同時に何人もの監視員が配置につくことができるイスと机、操作端末、無数に並べられた監視カメラからの映像を表示するモニターが、壮観そうかんな印象だった。


 備えつけられたモニターは、管理棟の内部だけではなく、チータープリズンに配置されているすべての監視カメラの映像を表示してくれるようだった。

 監視カメラからの映像は数秒ごとに切り替わり、次々と様々な場所を映し出していく。

 その映像から、チータープリズンで起こっている囚人チーターたちの暴動は今でも続き、その範囲も監獄棟の周囲にまで拡大しているということが分かった。


 囚人チーターたちの目標は、早期出所の権利と引き換えとなる和真の命であるはずだったが、どうやら、すでにそんな目的はどうでもよくなっているらしかった。

 囚人チーターたちは今はただ日頃の鬱憤うっぷんを吹き飛ばすために暴れているような状態であり、プリズンガードやプリズントルーパーとの戦いをくり広げ、チータープリズンの設備まで破壊し始めているようだった。


 死傷者も、数多く出てしまっている。


 和真はこれまで、様々な事件の現場などを、モニター越しに眺めてきた。

 それは和真の日常とは関係のない遠い出来事に過ぎず、人々が傷つくような場面を見ても(大変だなぁ~)と他人ひとごとのように思うだけだった。


 だが、この映像は、和真がいるこの場所で起こっているものだった。

 その事実と、すべてヤァスが仕組んだことなのだという重大さに、和真は緊張して手に汗をにじませる。


 自分たちの行動次第で、この騒動の結末が決まるのだと思うと、和真には大きなプレッシャーだーった。

 和真はこれまでただの一人の少年に過ぎず、それどころか、ヤァスにいいように使われるだけの存在だった。


 それが、今、和真も気づかないうちに、自分の意志で動こうとしている。

 すべてが和真にとっては初めてのことだった。


「まずは、長野さんが捕らえられている場所を探さなければ」


 和真が映画やゲームなどの中でしか見たことのない充実した設備を目にして立ちすくんでいると、オルソは慣れた手つきで操作端末から機器を操作し始める。

 どうやらオルソはここで、和真たちが無事に逃げることができるように支援してくれたらしい。


 和真からすれば、異世界からやってきた獣人であるとは分かっていても熊にしか見えない見た目のオルソは、意外にも器用なようだった。

 その手には太くて鋭い鉤爪かぎづめがあり、機械の操作などもできないだろうと思っていたのだが、オルソは一本打ちの要領でキーボードをたたき、スイッチを操作して、モニターに表示させる画像を次々と変化させていく。


 その操作する速度は、もしかすると和真よりも早いかもしれなかった。


「ふむ。取調室には当然、いない。重点監視対象の囚人チーター用の牢獄ろうごくにも、いない、と」


 和真は機器の操作方法など分からなかったから、ただ見ていることしかできなかった。

 それでも少しでも役に立とうと、映し出されるモニターの映像の中に何かを発見できないかと、和真は真剣に目をらした。


 だが、長野が捕らわれている場所は、なかなか発見することができなかった。

 監獄棟周辺の監視カメラには破壊されたものも多かったうえ、監視カメラの数そのものが多く、すべてを詳細に確認することが難しかったからだ。


 それでも、和真とオルソは、根気強く映像を確認し続けた。


「あっ! オルソさん、あそこ! 」


 やがて和真は、モニターに映った光景を目にして、そう叫び、指をさしていた。

 それは、オルソが操作していたモニターとは別の、自動的に切り替わってしまうモニターの方の映像だった。


「えっ? 和真くん、見つけたのかい? 」

「はい。でも、すぐに切り替わっちゃいましたけど……」


 和真の方を振り返ったオルソに、和真は申し訳なさそうに言うしかなかった。


 和真は、確かに長野の姿を見たと思った。

 長い潜伏生活でボサボサに伸び放題の髪や、長野の体型も覚えている。

 どこか薄暗い、無機質なコンクリートの肌がむき出しの部屋の中央で、両手両足をイスに縛りつけられた長野が、ぐったりとした様子でいるのを、和真は間違いなくその目にしていた。


 だが、映像はオルソが確認する前に切り替わってしまっていて、そして、和真には長野がどこに拘束されているのかまでは見当がつかなかった。


「大丈夫さ、和真くん」


 そんな和真に、オルソはニッ、と微笑んで見せる。


「自動で切り替わる映像にもパターンや順番があるんだ。それを見てやれば……、ほらね」


 そう言うと、オルソは機器を操作して、和真が長野の姿を見たと思った映像を手動で表示させる。


 映し出された映像には、確かに長野の姿が映っていた。



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