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「バトルロワイヤル:一対その他全員」:3

「バトルロワイヤル:一対その他全員」:3


 対戦カードとしては、それは、あまりにも不公平なものだった。


 逃げる和真は、ただ一人。

 それを追う囚人チーターは、大勢。

 おそらく、監獄に収監しゅうかんされていた囚人チーターたちのほぼ全員が、和真のことを狙っていると考えてよかった。


 首輪によって封じられているはずのチートスキルを駆使し、突然和真を追いかけはじめた囚人チーターたちを鎮圧するためにプリズンガードとプリズントルーパーたちが戦っていたが、この状況は想定されていなかったのか、苦戦しているようだった。

 とても、和真を助けてくれるような余裕はなさそうだった。


 囚人チーターたちは、互いに競うように和真を追いかけ、襲いかかって来た。

 様々なチートスキルが立て続けに和真に向かって襲いかかり、和真は必死でそれらから逃げ続ける。


 和真はたった一人だけだったが、そのことが逆に有利に働いていた。

 囚人チーターたちはそのたった一つだけの[景品]をめぐって互いに争い、足を引っ張り合い、和真はその隙につけこんでどうにか逃げ続けることができた。


 どうして、などと考えている余裕は無かった。

 囚人チーターたちは和真のことを追いかけ、容赦ようしゃなくそのチートスキルを使って攻撃をしかけてくるのだ。


 和真は必死に、その攻撃から逃げ続けるしかなかった。


 だが、このままうまく逃げ続けられるという保証は、どこにもなかった。

 牢獄ろうごくで休んでいたところを突然襲われた和真は裸足はだしで、身に着けている囚人服はびしょぬれで重く、気持ち悪く、そして、次々とくり出される囚人チーターたちの攻撃は、和真に休む暇も与えない。


 すぐに和真の呼吸は乱れ、息が苦しくなってくる。


 和真は、生き延びるために考え続けた。


 囚人チーターたちは、なぜ、襲いかかってくるのか。

 確か、「早期出所のため」と言っていた気がする。

 とすると、つまり、和真の首には、早期出所という[褒賞ほうしょう]がかけられているということになる。


 和真を追いかけてくる囚人チーターたちはみな、[早期出所]を勝ち取るために襲いかかってくるのだ。


 その、[早期出所]という部分に、和真はデジャブを感じていた。


 和真もまた、ヤァスに[早期出所]という条件をちらつかされ、[特別任務]を任されているのだ。


 それに加えて、囚人チーターたちがチートスキルを使うことができている、というのも引っかかった。

 特別な場合を除いて囚人チーターたちにはチートスキルの発動を抑制する装置、首輪が装着されており、本来であればこのようにチータープリズンでチートスキルを使うことなどできないはずだからだ。


 和真を襲ってくる囚人チーターたちはみな、規則通りに首輪を身に着けたままだった。

 だが、和真は例外を知っている。


 和真自身が身に着けている首輪は、ヤァスが特別任務を遂行する和真のために用意したもので、この首輪はチートスキルを抑制する機能を持たない。

 和真を襲っている囚人チーターたちも、ヤァスが和真に与えたのと同じ首輪を身に着けているのだと考えれば、合点がてんがいく。


 和真は直感的に、これはヤァスがしかけてきたことなのだと理解した。

 ヤァスが持つ権限を使って直接和真をどうこうしようというわけではないようだから、和真がヤァスに疑念を持っているということはまだ知られてはいないはずだったが、ヤァスは何か、別の目論見があってこの状況を作りだしているのだろう。


 その目的は、分からないし、和真には深く考える時間は無かった。


 誰も、和真のことを助けてくれる者はいない。

 囚人チーターたちは次々と襲いかかってきて、和真は休むひまもなく逃げ続けるしかない。


 自力で、生き延びるしかない。


 追い詰められた和真に切れるカードは一つだけだった。


囚人チーターに対抗するためには、武器も何も得られない状況では、和真自身が、チートスキルを持つしかない。


 和真は必死に逃げ続けながら、襲いかかる囚人チーターたちのチートスキルを何とかコピーしようとした。

 コピーできてもそれは[劣化コピー]だから、それ単体では対抗のしようもなかったが、数を集めればチャンスも見えてくれるはずだった。


 幸い、和真のチートスキル、[劣化コピー]は、和真自身が相手のチートスキルがどんなものなのかを理解できさえすれば、発動することができる。

 もちろん相手に「あなたのチートスキルは何ですか? 」とたずねても教えてもらえるはずがないので、和真は目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、相手のチートスキルを理解しなければならなかった。


 和真は息を切らしながら走り続けながら、自身へと向けられるチートスキルを観察し、そして、無我夢中でそのチートスキルをコピーしようと試みた。


 簡単にはいかなかった。

 相手のチートスキルを和真自身が理解すればいいとは言っても、ゆっくりと観察して考えているような時間がないからだ。


 だが、チャンスはいくらでもあった。

 囚人チーターたちは皆、和真をしとめるためにチートスキルを使用してくるからだ。


 [早期出所]という褒賞ほうしょうに魅力を感じる囚人チーターは数多いのに対し、その褒賞ほうしょうを得る条件となっている[和真]は、たった一人しかいない。

 和真を追いかける囚人チーターたちは互いに争いながら、わずかなチャンスを狙って和真を攻撃しようとする。


 そのたびに、和真には相手のチートスキルの正体を観察し、コピーするチャンスが与えられた。


(帰るんだ! 日本に! )


 和真はそう念じ、逃げ続ける息苦しさと恐怖で折れそうになる自身の心を鼓舞しながら、囚人チーターたちのチートスキルをコピーし続けた。


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