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「黒いネコ」:1

「黒いネコ」:1


 チータープリズンに収監しゅうかんされた囚人チーターたちは、その多くがクランに所属している。

 無所属の囚人チーターも数多くいたものの、和真にとってのどから手が出るほど欲しい強力なチートスキルを持つ囚人チーターは、ほとんどがクランに入っている。


 とすれば、和真がより多くのチートスキルをコピーし、将来の戦いに備えるためには、クランに接近することが近道だ。


 和真はそう考え、以前、自分に接近を図って来たクランに近づこうとした。

 和真を私刑リンチした鷹峰をリーダーとするクラン[アミークス]は避けなければならなかったが、ラクーン率いる[メンダシウム]、プルートをリーダーとして仰ぐ[アイアンブラッド]はどちらも規模が大きく、そして、強力とされるチートスキルを持つ高ランクの囚人チーターが数多く所属している。


 問題は、どちらのクランに接近するかだ。

 チータープリズンにおけるクランとは、そのクランのリーダーから庇護ひごを受けるという見返りに、クランのために働く、という関係で成り立っている。


 当然、クランに所属した者には、所属しているクランに対する[忠誠]が求められる。

 つまり、両方のクランに所属する、というのはできないということだ。


 和真は朝食を済ませた後、少しでも考えがまとまるのに役立つかと思って新鮮な空気を吸うために中庭へと出て散歩しながら、自分なり考えていた。


 アイアンブラッドは、特に[戦闘力]という点で魅力的だった。

 まだ和真は具体的にどんなチートスキルを持った囚人チーターが所属しているかは把握していないが、トレーニングルームで黙々と身体を鍛え上げるアイアンブラッドの囚人チーターたちの姿はいかにも強そうで、そのチートスキルにも期待が持てる。


 だが、そのリーダーであるプルートがあまりクランの運営に熱心ではなく、和真の方が得られる情報などの恩恵も少なそうであるうえ、そもそも和真の持つチートスキルでは加入できるかどうかが怪しい。


 クランに所属する以上は和真のチートスキルを明かさなければならないだろうが、そのためには相手の警戒を招かないため、劣化コピーというチートスキルは伏せておきたかった。

 だから、今の手持ちのチートスキルを偽って申告したかったが、[劣化コピー]によって弱体化しているそれでは、クランに受け入れてもらえないだろう。


 アイアンブラッドは和真に接触を図ってはきたが、それはあくまで、和真について知るためであって、クランに加入させるためではない。


 その点、メンダシウムは望みがあった。

 クランが大きい分、和真のように微妙なチートスキルしか持たない囚人チーターでも所属することができているようだったし、何より、ラクーンというリーダーがまとっていた大物の雰囲気。

 そのチートスキルにも、かなり期待が持てる。


 だが、こちらにも問題があった。

 リーダーはともかく、クランに所属する囚人チーターたちから、和真はあまりいい印象を持たれていないようなのだ。


 それは、和真がラクーン直々に呼び出されたという経緯によるものだったが、クランに所属できても他の囚人チーターから距離を取られてしまったのでは、和真は自分自身の目的を果たすことができない。


 和真は中庭を歩きながら、監獄棟の建物によって四角く切り取られた青空を見上げ、溜息をつくしかできなかった。


────────────────────────────────────────


 やがて和真は木々が生えている辺りまでやって来た。

 以前、鷹峰たちに私刑リンチされた茂みにはもう二度と近づきたくはなかったが、やはり周囲に緑が多い場所の方が喧騒けんそうは少なく、結論の出ない考えごとに少しは集中できて、いい考えが浮かぶかもと思ったからだ。


 だが、和真の思惑に反し、その場所は騒がしかった。


 木の上から、怯えたようなシマリスの悲鳴が騒がしく聞こえてくるからだ。


 木漏こもれ日の中に目を凝らして探してみると、木の葉の茂みの中にシマリスの姿を見ることができた。


 プリズンアイランドにシマリスが自生しているとは聞いたことがなかったし、何となく見覚えがあるから、和真がチータープリズンに収監しゅうかんされたその日に騒動を起こした、[無限にドングリを生み出す]チートスキルを持ったシマリスのようだ。


 そして、そのシマリスは今、追い詰められていた。

 木の枝の先端の方で、小さなシマリスがやっとつかまることができるような細い枝につかまりながら、逃げ道がないかと周囲をきょろきょろ見まわし、怯えた鳴き声を、助けを求めるように盛んに発している。


 シマリスを追い詰めているのは、一匹の、少し太目な印象の黒ネコだった。

 和真からすると木の葉の影になっているから見えにくかったが、シマリスがいる枝の根元の方で黒いかたまりがうずくまり、そのかたまりの中でネコの目が光って見えるから、どうにか判別できる。


 和真はこのチータープリズンに来てからネコの姿をはじめて目にしたが、さほど驚きはしなかった。

 日本で暮らしていた和真にとって、ネコなんて、珍しくもなんともない生き物だったからだ。


 だが、和真にとっては何気ないものであっても、シマリスにとっては死活問題であるようだった。


 ネコは、場合によってはネズミなどの小動物を狩って、食べる。

 同じ齧歯類げっしるいであるシマリスだって、食べることはあるだろう。


 シマリスが助けを求めるように必死に鳴いているのも当然だった。


(見捨てるのは、ちょっとかわいそうかも)


 どうやってか野生のネコが迷い込んできてシマリスを追い詰めているのかもしれず、放っておいたらシマリスが危ない。

 そう思った和真は、シマリスに同情して、地面に落ちていた石を拾い上げ、黒ネコのいる辺りに向かって投げつけた。


 当てるつもりはなかった。

 それでびっくりしたネコが退散してくれれば、それでよかった。


 だが、驚かされたのは和真の方だった。


「おい、少年! 何をするんだ!? 」


 和真の投げた石が近くをかすめた黒ネコが突然そう言い、和真を枝の上から睨みつけてきたからだった。


※黒ネコ:CV 大塚 明夫 大先生希望


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