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「クラン」:5

「クラン」:5


「悪いが、俺はソイツに興味がない」


 和真とメッセンジャーの方を振り返ったプルートは、冷たい口調でそう言った。


「そもそも、俺はアイアンブラッドのリーダーになったつもりもない。お前らが勝手に話し合って、いつの間にか決めていたことだろうが」

「それは、当然だ」


 プルートからぶっきらぼうな口調で言われても、メッセンジャーは少しもこたえたような顔をしなかった。


「お前、我々の中で一番強い。強い者、アイアンブラッドのリーダーになる。これは、我々の絶対のおきてだ」

「どうだかな。あのライオン頭の方が、俺なんかよりもずっとリーダーには適任だぜ? 実力は申し分なし、それに、俺の前はそもそもアイツがリーダーを務めていたんだろう? 」

「それは、我々のおきてに反する。タージュ、お前がリーダーになることに異論は無いと言っていた」


 そのメッセンジャーの言葉に、プルートは舌打ちをしてそっぽを向く。


 おそらく、[タージュ]というのは、あのライオンの獣人のことなのだろう。

 どうやらアイアンブラッドの以前のリーダーはタージュの方で、それから、このプルートという青年にその座が移ったということであるらしい。


 だが、プルートはそれに不満であるらしかった。

 彼のリーダーへの就任は、本人には何の相談もなく、いつの間にか決まっていたことであるらしい。


「ったく。どいつもこいつも、いつも人を勝手に使いやがる」


 プルートは、その不満を少しも隠そうとはしなかった。


「前は勝手に部族長だのなんだのと言われてこき使われて、今度は[リーダー]。俺に何をしろっていうんだよ」

「それはおきてだからだ。もっとも強い者が、アイアンブラッドのリーダーになる。そうして我々は秩序ちつじょを守って来た」


 メッセンジャーの頑固な物言いにプルートは「ケッ! 」と吐き捨てるように言うと、それから、和真の方をその赤い瞳で睨みつけた。


「それで? そのひょろひょろななまっちろい奴が、何だっていうんだ? 」

「コイツ、まだよく分からないが、重要だ。チートスキルはまだ分からないが、その刑期は九百九十九年。必ず何かある、大きな変化をもたらすような何かが。だから連れてきた」

「フン、俺にはカンケ―ねェよ」


 だが、プルートは再び、そう言って心底つまらなさそうな顔でそっぽを向いた。


 和真はことの成り行きを見守っているしかなく、プルートとメッセンジャーの表情をチラチラと盗み見していたが、そんな和真の前で、メッセンジャーが小さく、不敵に微笑む。


「コイツ、シュタルクと会った」


 プルートが突然立ち上がり、和真につかみかかって来たのはその瞬間だった。


「お前っ! シュタルクを、アイツを見たのか!? いつ、どこでだっ!? 」


 プルートは和真の胸ぐらをつかみ、両手で空中へと持ち上げながら、必死の形相でそう問い詰めてくる。

 首を絞められているわけでは無かったが、体重の全てがプルートにつかまれている部分に集中するせいで和真の息は詰まり、そして、プルートの激しい気迫を前に、和真は何も答えることができなかった。


「言え! 俺に、アイツのことを教えろ! 奴は生きているのか!? どこにいるんだ!? 」


 プルートは、苦しそうにもがき、必死にプルートの腕をつかむ和真のことを無視して、自分の質問を続けた。


 和真がチータープリズンへと押し込められてから、シュタルクと会ったことは二回ある。

 どちらも大きな騒動になったので噂として囚人チーターたちの間には広く知られているはずだったが、どうやらプルートはそういったことには関心がなく、そういう出来事があったということを知らないようだ。


 だが、シュタルクについては、かなりの執念しゅうねんがあるようだった。

 和真は兄妹には見えないと思っていたが、もしかすると、それ以外のところで二人には何か関係があるのかもしれない。


「ぅげっ……ッ、ゴァッ……! 」


 和真は、そんな言葉にならないようなうめき声をらす他はなかった。

 プルートの腕の力はさらに強くなり、いよいよ、和真の呼吸が苦しくなってきたからだ。


「プルート、よせ。それ以上やると、そいつ死ぬ。それに、そいつ、シュタルクと会ったというだけ。居場所は知らないと思う」


 少し慌てた様子でメッセンジャーがプルートにそう言って止めに入ってくれなければ、和真は本当に窒息ちっそくさせられていたかもしれなかった。

 メッセンジャーに強く自身の腕をつかまれたプルートは、はっと我に返ったようになり、和真の胸ぐらをつかんでいた手を放してくれた。


 解放された和真は床の上に転がり、激しくせき込みながら無我夢中で空気をむさぼった。


 今は、プルートがどうしてシュタルクにそんなに執着しゅうちゃくするのか、どんなチートスキルを彼らが持っているのか、何もかもがどうでもよかった。

 とにかく、空気が欲しい。


「和真殿。すまなかった。まさか、ここまでのことになるとは思わなかった」


 メッセンジャーがしゃがみこんで和真に謝罪をしてくれたが、和真は「ふざけんな」と言おうとしたが、言葉にならなかった。


「悪かった。俺も、ここまでするつもりはなかったんだ」


 それでも、苦しそうな呼吸をしながら恨みがましい視線を向けてくる和真の様子でどう思われているかは理解できたのか、プルートはそう言って頭を下げた。

 謝罪の気持ちがあるだけずいぶんマシではあったが、和真としてはたまったものではなかった。


 結局、その後すぐに、和真はトレーニングルームから立ち去った。

 もうなごやかに話し合うというような雰囲気ではなかったし、和真はこの、力こそが絶対という暴力的ともいえる集団から、今はとにかく距離を置きたいと思ったからだった。


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