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「それは何気なく現れた」:3

「それは何気なく現れた」:3


 和真の周囲を、四人のプリズントルーパーたちが取り囲んでいた。


 全身を覆うゴテゴテとした外見の装甲服に、素顔が一切見えない、フルフェイスのヘルメットをかぶり、足には滑り止めのびょうが打たれたコンバットブーツを身に着けている。

 そして、その手にはそれぞれ自動小銃があった。


 エアガンなら、和真も一つ持っている。

 中学校の時はやっていたから、親にねだって買ってもらったものだ。


 結局はやりが終わった後は押入れの中にずっとしまわれたままになっているが、その形は今でも覚えている。

 とてもリアルで、重さも本物と少しも変わらない。


 正直、和真にはプリズントルーパーが持っている自動小銃が本物なのか、エアガンのような偽物なのかは判断がつかない。

 だが、とてもオモチャには見えない、剣呑けんのんで威圧的な雰囲気を放っている。


 プリズントルーパーたちから視線をそらし周囲に向けると、そこは、どうやら何かの建物の中のようだった。

 どこもかしこも鋼鈑で作られ、表面を塗料で塗装された無機質な作りになっていて、壁や天井には配管やケーブルがむき出しになっている。


 そこは車両などを停めておくための格納庫のような場所であるらしく、そこには、和真をここまで連れ去って来た車だけではなく、他にも同じ型の車が難題も停車していた。

 どれも、軍隊で使う様な軽装甲車両だった。


(秘密基地かなにかなのか? )


 和真の第一印象は、まさに[地下の秘密基地]だった。

 鋼鈑で覆われた広い格納庫には窓も柱もほとんどなく、天井の証明が冷たく周囲を照らし出している。

 和真が感じたことの無い、冷たくて厳格な雰囲気が辺りにはただよっていた。


「動くな」


 きょろきょろと辺りを見回している和真にプリズントルーパーの一人がそう言うと、別のもう一人がしゃがみこんで、和真の足にかけられた手錠を外す。


「立て」


 それからプリズントルーパーは和真にそう命じ、一人が乱暴に和真の服のえりをつかんで和真を立たせた。

 装甲服には筋力を補助する機能でもついているのだろう。和真を引き上げたその腕の力は、強力な機械のようだった。


 加えて言うなら、プリズントルーパーたちの声はどれも同じに聞こえていた。

 ヘルメットの中に変声機でも仕込んであって、中の人間の声が分からないようにされているようだった。


「ついてこい」


 プリズントルーパーはそう言うと、前に二人、後ろに二人という隊列を作って和真を取り囲み、和真にそう命じた。

 和真は訳も分からないまま、ただ、その指示に従うことしかできなかった。


 プリズントルーパーたちが和真を拘束した理由も、今、和真の足を自由にしてくれた理由も、何もかも分からない。

 和真にはそもそも、プリズントルーパーたちにこんなことをされるような心当たりもない。


 和真にとって、いや、ごく当たり前の日常生活を送っている多くの人々にとって、プリズントルーパーたちの存在は噂として広まってはいたものの、実際に存在する証拠をつかんでいる人は誰もいなかった。

 そもそも、プリズントルーパーたちはこの世界に数多く現れたチーターたちを捕らえるための組織で、和真のように普通に暮らしている人には、一生なんの縁もないはずの存在だった。


 和真は自分にチートスキルがあるとは思っていなかったし、実際、何のチートスキルも持ってはいない。


 なのに、どうして、自分がこんな目に遭っているのか?


 何より恐ろしいのは、この得体の知れないプリズントルーパーたちがこれから、和真に何をしようとしているのか少しも分からないことだった。

 少なくとも、自分に明るい未来が待っているとは、到底思えなかった。


 こんなところにいたくない。

 今すぐに逃げ出したい。

 逃げ出さなければ、どんな目に遭わされるか分からない。


 和真はおびえながらも、前後をプリズントルーパーたちに挟まれ、指示された通りに歩き続けるしかない。

 やがて、プリズントルーパーたちは格納庫から通路へと和真を連行し、長い一直線の廊下を歩き始める。


 その時和真の目に突然、明るい光が飛び込んできた。


(窓だ! )


 しかも、ガラスも何も設置されていない、開けっ放しのものだった。


 外に逃げ出せる。

 和真はそう直感し、そして、その瞬間、プリズントルーパーたちの銃口が自分に向けられていることも忘れて、窓に向かって走り出していた。


 相手が持っている銃は本物だろうとは思っていたが、まさか、いきなり発砲するなんて、和真は少しも思っていなかった。


 実際、プリズントルーパーたちは和真に向かって銃を撃たなかった。

 背後で銃をかまえる音は聞こえたのだが、プリズントルーパーのひとりが「待て! ここで撃つのはまずい! 」と制止したのだ。


 プリズントルーパーたちはブーツの音を響かせながら和真を追って走り始めたが、この一瞬の躊躇ちゅうちょの間に、和真は距離を稼ぐことができていた。


 チャンスは今しかない!

 和真は必死に走り、そして、窓のある場所までどうにかたどり着いた。


 窓の高さは、和真の胸の辺りまである。

 だが、そこにはガラスも何もなく、その窓枠を乗り越えさえすれば、和真は自由の身になれるはずだった。


 手錠をはめられた手で何とか窓枠を乗り越えようと和真が身を乗り出した時、和真は、窓の外にはふたつの青い色しか存在しないことに気がついた。


 ひとつは、眼下に広がる、濃くて、うねうねと生き物の様にうねる青。

 もうひとつは、どこまでも続く、少し白みがかった明るい青。


 その窓の外には、広大な海と、空が広がり、陸地は遠くにかすんで見える。


「えっ、何で、海!? 」


 和真がプリズントルーパーの秘密基地だと思ったこの場所が実は船の上であり、船はすでに日本を離れ、海の上にあるということを認識するのと、和真に追いついてきたプリズントルーパーたちがスタンガンで和真を気絶させたのは、ほとんど同時のことだった。


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