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「掟(おきて)」:1

おきて」:1


 千代とピエトロ、二人と少しだけ仲良くなり、顔を合わせれば挨拶したり短くおしゃべりをしたりする程度には親しくなれた和真は、その日は悪くない気分で自分の牢獄ろうごく


 自分の牢獄ろうごくで長野という青年や、監獄を運営する側にいるシュタルクのこと、ヤァスという青年について推理を巡らせたその次の日、和真は千代とピエトロの提案で、まだよく知らない監獄の内部について案内してもらえることになった。


 収監しゅうかんされた当日に渡された資料で、監獄の中にどんな場所があるのかおおよそ理解はできていたものの、収監しゅうかんされてからの間にいろいろなことがあったせいで、まだ見て回れていない場所も多い。

 千代とピエトロは[退屈な監獄生活の暇つぶし]くらいに考えて和真に案内を申し出てくれたのだが、和真としても嬉しい話で、収監しゅうかんされてから日が浅く休日の自由時間の過ごし方も特に思いつかない和真はもちろん、その提案を断らなかった。


 ただ、和真は、ピエトロも一緒にいることがほんの少しだけ残念だった。


 もちろん、ピエトロが陽気で楽しい相手だということは理解できていたし、和真に親切にしてくれる好青年であるとも思っていたが、もし、彼がこの場にいなければ、和真は千代と二人きりになれたはずなのだ。


 初対面が、和真を捕獲するプリズントルーパーの作戦時であり、その出会いは最悪なものではあったが、正直、和真は千代のことが気になっていた。


 自然なウェーブのかかった栗色の髪のポニーテールは、千代が何かをするたびにぴょんと飛び跳ね、見ていて飽きない。

 そして、和真よりも少し年上で、[お姉さん]という感じで落ち着いていて、世話焼きな性格であるのに、時折見せるはにかんだような笑みが、何というか、とてもいい。


 もし千代と二人きりで、案内をしてもらえたら。

 和真はその場面を想像して、少しだけうわついた気持になり、それからすぐに、暗く沈んだ気持ちになった。


 本当に和真が千代と二人きりになるようなことがあれば、きっと、少しも会話が続かないだろう。

 和真は元々人と面と向かって話をするのは苦手な方だったし、[陰キャ]と友人や知人から言われるような性格だったから、特に[女性]とどんなふうに話せばいいのか、その知識がない。


 女性には、あまりいい思い出が無かった。

 おしゃべりをするくらいには仲がいいと思っていた女子生徒から、裏では「アイツ根暗よね~。蔵居っていう名前も、きっと性格が暗いからだよ」と陰口を言われていたことさえある。


 それ以来、和真は余計に不特定多数の人と関わることを避けるようになっていた。

 新しい友人を積極的に作りたいとは思わないのだ。


 ピエトロがいて、明るく、気軽に話題を振ってくれるから楽しくおしゃべりが続いているのだが、もし彼がいなければ、ただ決まずいだけになっていただろう。


 そんな自分の性格を思い出すと、どうしても嫌な気分になってくる。


「そういえば、和真さんのチートスキルって、いったい、どんなのでしょうね」


 自身の心の内側で負のスパイラルに入っていた和真は、突然に千代にそう話しかけられて、思わず「ぅへっ!? 」と奇妙な言葉をらしていた。


 千代はよくはにかむものの、気さくというか、あまり複雑に考えずに大胆に踏み込んでくるようなところがあり、いつの間にか和真のことを名前で呼ぶようになっている。

 そのおかげで、和真も彼女のことを「千代さん」と名前で呼ぶことになってしまっているのだが、年の近い女性からそんな風に呼ばれたことはほとんどないので、和真は慣れていないのだ。


「え、えっと、俺のチートスキル、ですか? 」

「そう。だって、和真さんのチートスキルって、まだ分からないのでしょう? 気になるじゃないですか」

「そ、そう言われても……」


 ニコニコとした笑顔で、興味深そうに自分の方を見てくる千代から、和真は少しだけ視線を横にそらした。

 なんだか和真には千代が眩しくて見ていられない。


「あ、ごめんなさい。そうですよね」


 和真の態度を[話すのを嫌がっている]と誤解した千代は、すぐに申し訳なさそうな顔をする。


「まだ、和真さんにだって分からないことですものね。それに、たとえどんなチートスキルか分かっていたとしても、簡単に話していいようなことではないですものね」

「そうそう。ま、僕たちみたいな無害なチートスキルだと、隠すような必要もないし、関係ないことだけどね」


 そんな千代の言葉に、ピエトロがうんうんと何度もうなずいて見せる。


 和真には、少し引っかかるようなところがあった。

 今の言い方だと、囚人チーターたちが持つチートスキルは本来、[隠しておくべきこと]であると言っているふうに思えたのだ。


「えっと、どういうことですか? もしかして、チートスキルって、隠しておかなければならないことなんですか? 」


 その和真の問いかけに、千代とピエトロは互いに顔を見合わせる。

 二人は最初、驚き、意外そうな顔をしていたのだが、それからすぐに、何かに納得したようにうなずいていた。


「そうか。和真くん、キミはまだここに来て日が浅いから、知らないことだったね」


 それからピエトロはそう言うと、和真に、どうしてチートスキルを隠しておく必要があるのかを説明し始める。


「実はね、ここでは、ほとんどの囚人チーターが、自分のチートスキルがどんなものなのかについて、あまり話さないのが普通なんだ」

「私たちみたいに、運営側の了承を得て、チートスキルを使って働いている囚人チーターや、一部の、とても強力なチートスキルを持つ囚人チーターは別ですけれどね」


 そして、その説明には、千代も途中から加わった。


「そう。僕たちには関係ない話だけれど、もしかしたらキミには関係のある話かもしれないからね」


 そう言うピエトロも、千代も、どういうわけか真剣な表情を浮かべている。


 和真にはまるで意味が分からなかったが、とにかく、二人の話をきちんと聞いておく必要がありそうだった。


 それは、このチータープリズンに存在する、暗黙の[掟おきて]だった。


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