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「接触(コンタクト)」:2

接触コンタクト」:2


 それは、青年が和真に様子をたずねていた、シュタルクという名前を持つ、銀髪に宝石のような赤い瞳を持つ少女だった。


「あの、お兄さんが探している人、今、後ろに立っていますけど? 」


 青年のことをじっと見つめているシュタルクの方を手で指し示しながら、和真は青年にそう教えたのだが、青年は振り返ったりしなかった。


「伏せろ! 」


 青年はそう鋭く叫ぶと、突然、和真を突き飛ばした。


 和真は訳も分からないまま青年に突き飛ばされて、地面の上に仰向あおむけに倒れこむ。

 咄嗟とっさに受け身らしきものを取って、頭を地面に強くぶつけずに済んだのは、体育の授業で少しだけ柔道を習ったことがあったおかげだった。


 その直後、和真の目の前、先ほどまで和真の身体があった場所を、灼熱の炎の波動が貫いていった。

 炎はまるで波のように幾重にも連なり、シュタルクを中心とした扇状に、波紋となって広がっていく。


 炎の直撃を受けて、和真が休憩するのに使っていた木が、一瞬で燃え上がった。

 木の葉っぱの中に身を潜めていたシマリスが炎に追われて、キーキーと悲鳴をあげながら逃げ出していった。


 和真は、その場で思わず悲鳴をあげていた。

 もし、青年に突き飛ばされていなければ、自分もまた炎に焼かれ、黒焦げになっていただろうと理解できたからだった。


長野ながの。投降しなさい」


 悲鳴をあげる和真のすぐ近くで半身を起こした青年に、シュタルクは冷たい声でそう言った。


 長野、というのは、どうやら青年の名前のようだった。


「長野。あなたには、脱獄および反乱、反乱教唆、チートスキルの無断使用、窃盗、傷害など、数々の容疑がかけられている。ルールに従い、ただちに投稿しなさい」


 シュタルクは長野に続けてそう言い、右手を長野に向かって突き出す。

 そして、その手の平の中で、見るからに熱そうな炎が、ぐるぐると渦を巻き始める。


「シュタルク! いったい、何があったっていうんだ!? 」


 そんなシュタルクに向かって、長野は叫ぶ。


「キミは、何もかも忘れてしまったというのか!? 僕のことも、アヴニールのことも、何もかも忘れて、今のキミは、奴らのあやつり人形みたいじゃないか! 」


 和真には、長野が何を言っているのか、少しも分からなかった。

 事情を知らないのだから当然だったが、しかし、どうやら以前から知った間柄であるらしく、長野の言うことが理解できるはずのシュタルクは、眉一つ動かさない。


「もう一度言う。投降しなさい」


 そのシュタルクの言葉と共に、その手の平でうずを巻いている炎が、一層大きく、灼熱の輝きを強くする。


 和真はもう、悲鳴をあげてはいなかった。

 もう、悲鳴をあげているような場合ではないと理解できたからだ。


 頭上ではついさっきまでは涼しそうな木陰を提供してくれていた木がバチバチと音を立てながら燃え盛り、時折、火のついた枝や葉っぱが焼け落ちてくる。

 火災を察知して周囲には警報が鳴り響き、プリズンガード、プリズントルーパーたちが慌ただしく動き始め、囚人チーターたちが逃げ散っていく。

 悲鳴と、いくつもの足音が重なり、ゴウゴウと音を立てながら木が燃え盛っている。


 何とかして逃げ出さなければ、危ない。

 そう理解した和真は、必死になって逃げ道が無いかを探した。


 シュタルクは、そこに和真がいようがいまいが、おかまいなしであるようだった。

 最初の一撃でも、和真を容赦ようしゃなく巻き込むような攻撃を行って来たし、今もまた、和真の方に少しでも意識を向けている様子はない。


 このままでは、訳も分からないことに巻き込まれて、最悪、死ぬ。


 だが、和真は身動きすることができなかった。

 安全に逃げられる逃げ道が見つからないというのもあったが、そもそも、突然のことに腰が抜けてしまい、身体がうまく動かないのだ。


「嫌だと言ったら、どうする? 」


 和真が見上げている先で、長野はいつでも行動できるように身構えながら、そう挑発するように言った。

 どうやら、シュタルクに言われるまま、大人しく投降するつもりは少しも無いようだった。


 そんな長野に向かって、シュタルクは炎を放つために自身の手を振りあげる。


「あなたを、消し炭にしてでも連行する! 」


 そして、炎が放たれたのは、シュタルクがそう叫んだ直後だった。


 シュタルクが振り下ろした手からは、その手の中で渦巻いていた高熱を凝縮された炎が解き放たれ、ひと塊だった炎はいくつにも裂けて広がりながら押し寄せてくる。


 その光景を目にした和真は、とにかく必死になって、うようにしてその場から逃げ出した。


 怖くて身体が動かないとか、腰が抜けているとか、そんなことにかまっている余裕は無かった。

 じっとしていては、和真はあの炎に焼かれて、いや、炎に焼かれずとも、その高温を受けて蒸し焼きにされてしまうのだ。


 和真はとにかくまともに動く手を使って這い進み、すこしでも迫りくる炎から逃れる。


 間一髪だった。

 背中に高熱を感じ、後頭部の髪の毛が焦げたような気はしたが、何とか和真は炎の直撃を回避し、燃え盛る木の下からも逃げ出すことができた。


 だが、それ以上遠くには、すぐには逃げられそうになかった。

 身体は相変わらず思うように動かなかったし、ほんの少し動いただけなのに、緊張感と恐怖感から呼吸が苦しくなってしまっていたからだ。


 和真はどうにか身体だけを起こし、両手を使って少しでもその場から離れようと、じりじりと後ろへ下がりながら、シュタルクと長野がどうなったのかを確かめようと視線を向けた。


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