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「今日からはじまる監獄生活」:3

「今日からはじまる監獄生活」:3


 食堂では、多くの囚人チーターたちが働き、集まった囚人チーターたちに料理を提供していた。


 素直に「すごい」と思えるようなチーターもいたし、「しょうもないな」と呆れるしかないチーターもいる。

 すごいのだかすごくないのだか、判断しかねるような微妙なスキルを持ったチーターもたくさんいる。


 たとえば、[炊き立ての最高級米と最高級の梅干しでできた日の丸弁当を無限に生み出す]チートスキルや、[焼きたてのコッペパンを無限に生み出す]チートスキル、[パスタを最高のゆで加減にする]チートスキルなどがある。


 最高級の日の丸弁当は光り輝いて見えるほどだったし、焼きたてのコッペパンは、「これは本当にコッペパンなのか」と思いたくなるほどいい香りがする。

 最適な状態で提供されるパスタはどれもソースとよくからみ、実に美味うまそうだ。


 正直、「いったい何の役に立つのだ」と思いたくなるような、チーターにはつきものの無双とは無縁に思えるチートスキルが、ここにはごろごろ転がっている。

 チータープリズンではそういった一見すると無害にしか思えないチーターたちも容赦なく収監し、[更生]という名目のために監視下に置いているようだった。


 中でも和真が「しょーもない」と思ったのは、[手から揚げたての美味しいとりのからあげを無限に生み出せる]というチートスキルだった。


 まれにネットの掲示板などで話のネタにされる、「便利かもしれないけど、正直微妙」なチートスキルの筆頭格だ。


 それでも、食堂にやってきた和真はそのからあげを求める人々の列に加わった。

 たくさんの人が並んでいるから並んでみた、という理由もあったが、何より、和真はプリズントルーパーたちに捕まった時に、からあげを食べ損ねている。


 今となっては、あの時和真の家にからあげを持ってきた少女は、和真を捕えるためにプリズントルーパーたちに協力していたのだということは想像がついている。

 和真の正直な気持ちで言えば少女のことがひどく恨めしかったのだが、それでもやはり、あの時食べ損ねたからあげはとても美味おいしそうなもので、和真はそれを食べ損ねたことがずっと残念でならなかった。


 食堂の厨房ちゅうぼうで働いているチーターたちのチートスキルは、和真が内心で「しょーもない」と呆れるようなものばかりだったが、素直に嬉しいと思える部分もあった。


 チートスキルで生み出される料理は基本的に材料の調達や調理の手間を心配する必要が無く、実質的に[いくら食べてもよい]のだ。


 実際、食堂で提供される料理は囚人チーターたちがその量を決めて好きなだけ食べていいことになっていて、トレーの上の食器いっぱいに料理を山盛りにした囚人チーターたちの姿を和真はもう何人も目撃している。

 普段の食事は制限されているから、休日だけは好きに食べていいということらしい。


 和真は、自分にはチートスキルがあるという自覚が未だに存在せず、自分は間違ってここに連れてこられたのだという意識が残ったままだったが、同時に、ここから逃げ出すことも、早期に解放されることも、あきらめている。

 そうであるのなら、今、食べたいものを思いっきり食べることで、少しは気晴らしにしたいと思った。


 主食として最高級の日の丸弁当を取ってトレーに乗せ、からあげを求める囚人チーターたちの列に並んだ和真は、からあげの味を脳裏に思い浮かべ、口の中で唾液だえきあふれさせながら順番を待った。

 からあげは、和真の好物でもあるのだ。


 幸いなことに、列の進み方はかなり早かった。

 手から無限にからあげが湧きだして来るのだから、からあげがいい具合にあがるのを待つ時間もないし、手から直接皿に望みの量だけ盛りつけるのだから手間もかからない。


 列はどんどん進み、やがて、和真の順番まであと数人、というところになった。


────────────────────────────────────────


「ぁあっ!? おっ、お前はっ!? 」


 そこで和真は突然、大声で叫んでいた。

 あげたての美味おいしいからあげを用意してくれていたチーターの姿に、見覚えがあったからだ。


 忘れるはずもない。

 プリズントルーパーたちが和真を捕えるためにやって来た時、和真を家の中からおびき出すために呼び鈴を鳴らした、あの時の少女だった。


「あっ、あなたは、あの時のっ!? 」


 少女の方も、和真のことを覚えていたようだった。

 食器の上にからあげを生み出すのを止め、少女は驚きがあらわになった口元を両手で覆いながら、目を丸くして和真の方を見ている。


 和真も最初はびっくりしていただけだったが、すぐに、自身の心の中でどす黒い炎が燃え盛るのを感じ取っていた。


 これは、千載一遇せんざいいちぐうのチャンスだった。

 和真をこんなところに押し込める、そのきっかけとなった少女に復讐することができれば、和真の心の内側で燃え盛っている黒い感情も、少しはおさまるというものだ。


 ここにいるのは囚人チーターばかりで、無能力者である和真にとっては、相手にどんなチートスキルがあるのか分からない以上、うかつに身動きの取れない状況だった。


 だが、状況からいって、少女がどんなチートスキルを持っているのかは考える必要がない。

 少女の持つチートスキルはまず間違いなく、[手から揚げたての美味しい鳥のからあげを無限に生み出せる]というものだろう。


 つまり、ケンカになったとしても、チートスキルで和真が一方的に不利になるということはなかった。

 単純な腕力の勝負であり、和真は格闘技などとは無縁でこれまで暮らしてきたが、単純な膂力りょりょくで少女に負けるとも思わなかった。


 その時の和真は、一切の冷静さを失っていた。

 自分がチータープリズンに収監されていて、常にプリズンガードたちによって監視されているという事実も、騒ぎを起こせば後々面倒なことになって痛い目も見ることになるということについて考えを至らせることもできなくなっていた。


 和真は、近くのテーブルに食器の乗ったトレーを叩きつけるように置くと、突然の再開にまだ戸惑っている少女の方を睨みつけ、彼女に向かって一歩を踏み出した。


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