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「チートスキル、それは罪なり」:1

「チートスキル、それは罪なり」:1


「なぁ! オイラを、山に返しておくれよ! 」


 その、子供のように高い声を発したのが、自分の隣で十字架にはりつけにされているシマリスから発せられたものだということに和真が気づくまで、数秒の時間が必要だった。


「頼むよ! 山のみんなが、家族が待っているんだ! オイラがいなけりゃ、みんな飢え死にしちまうよ! 」

(しゃ、しゃべってるっ!? )


 シマリスが人間の言葉で話しているのだと理解した和真は、ぎょっとした。

 月並みな反応かもしれなかったが、他にどんな反応をすればいいというのだろうか?


「だまァれ! この、チーターめが! 」


 はりつけにされながらも、必死に懇願こんがんするシマリスに、カルケルは右手の人差し指を突きつけながら怒鳴った。


「山に返せだと!? 貴様のチートスキルのせいで、その山がどうなっていると思う!? 」

「おっ、オイラが何をしたって言うんだよっ!? 」


 カルケルに対し、シマリスは必死に言い返す。


「オイラはただ、お腹を空かせたみんなのためにドングリをたくさん出してやっていただけだ! そのおかげで、山のみんなも、オイラの家族も、何度も無事に年を越せたんだ! オイラ、何にも悪いことなんかしていない! 」

「フン。バカなリスの頭でも分かるように、説明してやろう」


 シマリスの訴えを鼻で笑い飛ばすと、カルケルは憎々しげに口元をゆがめる。


「貴様のせいで、貴様のその、[無限ドングリ]のチートスキルのせいで、お前の山はもう、めちゃくちゃだァ! 確かにお前と、お前の一族は良かっただろうさ! 天国だったろうさ! どんなに不作の年でも、大好きなドングリが食べ放題! 飢えることもなく、食べ物を探して動き回る必要もない! まさに、楽園だ! 」

「そ、それのどこがいけないんだ!? 」

「ァァ! いけねェなァ、実にいけねェよ! 」


 カルケルはシマリスを威圧するように足を踏み鳴らし、シマリスはその大きな音と勢いに怯えて、ビクりと身体を震わせた。


「エサを食い放題の結果、どうなったか! お前の山じゃァ、シマリスどもが大繁殖! 毎年毎年、二乗、三乗で増えまくって、今じゃァシマリスどもの茶色い毛皮で絨毯じゅうたんみたいになっちまってるありさまだ! それだけじゃァない! 増えすぎたシマリスどもは、山に住んでいた他の生物を駆逐しやがった! 木という木を住みかにして、他の生物の住む場所を奪い取った! 天敵だって、数の力で追っ払っちまった! 貴様のチートスキルのおかげで、山まるまるひとつの生態系がぶっ壊れたんだ! 」

「そ、そんなの、オイラたちの知ったことじゃない! あそこは、オイラたちの山なんだ! オイラの一族が、他のみんなが、代々住んでいたんだ! 」

「ああ、そうだろうさ! だがなァ、山に住んでいたのはお前らだけじゃない! 山は[オイラたちのもの]だとォ!? これだからチーターは嫌いなんだ! 自分のことばかりで、周りのことが少しも見えやしねェ! 」


 カルケルは再び足を踏み鳴らし、口角こうかくからつばをまき散らす勢いでシマリスにたたみかけた。


「お前が殺したんだ! お前が身勝手にチートスキルを使ったせいで、山に住んでいたシマリス以外の生き物はみんな死んだ! だからお前は捕まったんだ! 」

「そ、そんな、オイラは……」


 シマリスはなおも何かを言い返そうとするが、口ごもってなかなか言葉にならない。

 カルケルの迫力に気圧されたのか、それとも、自分が気づきもしていなかった事実を突きつけられて、気持ちの整理がついていないのかもしれない。


「それでも、オイラは帰らなきゃならないんだ! 」


 だが、最後には、シマリスは敢然かんぜんとカルケルのことを見返し、そう叫んでいた。


「オイラが、オイラの出すドングリがなけりゃ、みんな死んでしまう! 冬が来る前に戻れないと、オイラの仲間も、家族も、子供たちもみんな飢えて死んでしまうんだ! なァ、頼むよ! オイラを山に返しておくれよ! 」

「フン。何を身勝手な! 全部、貴様がチートスキルで好き放題にした結果だろうが! 」


 しかし、カルケルはそう冷たく、吐き捨てるように言うだけだった。

 それから、姿勢を低くしたカルケルは、シマリスに顔を近づけ、意地悪くささやく。


「あとで、お前にも見せてやる。……冷たい雪の中に埋もれた、茶色い毛皮の、しましまの死骸が転がる、山の光景をよぅ」


 シマリスは、「ピィッ! 」と、人間の言葉にならない悲鳴をあげて両目を閉じ、カルケルから顔をそらした。


 その様子を横目に見ながら、和真はゴクリ、とつばを飲み込む。


 シマリスの山のことや、シマリスの仲間や家族たちを待っている過酷な運命というのもそうだったが、カルケルが持つチーターへの強い憎しみ、嫌悪の感情を色濃く感じ取ったからだ。


 そして、その感情は、今度は和真へと向けられる番だった。


「それでェ? 少年よォ、貴様、このシマリスとはどんな関係だァ? 脱走の手引きをしたのではないかァ? ン? 正直に話せば、すぐに話を終わらせてやるぞォ? 」


 和真は、もう一度ゴクリとつばを飲み込んだ。


 それから、早口で、聞かれたことをぺらぺらとしゃべりだす。


「お、俺は、な、何の関係もないんです! ほ、本当です、信じてください! こいつとはたまたま隣になっただけで! きゅ、急に物音がしたから驚いただけで、お、俺は何もしてないんです! コイツが入れられていたゲージにだって、指一本触れてません! 」

「ふむふむ、はてさて、どうだろうなァ? 貴様のチートスキルは……、フム、アピス、コイツはお前の担当だったなァ? 」

「はい、獄長」

「コイツの捕獲作業にも同行して支援していたんだったな? 遠くまでご苦労だった。……書類はあるか? 」

「こちらに」


 [アピス]と呼ばれたエルフの女性はカルケルの問いかけに淡々と答えると、ローブの中から書類の束を取り出してカルケルへと手渡した。

 その書類をパラパラとめくったカルケルは、自身のあごひげを指でもんだ。


「ふぅむ。蔵居 和真、種族人間、15歳、日本という国の学生。チートスキルは……、ふむ、まだ発現していない、か。なるほど、[ヤァス]殿の[未来視]の結果に基づいた予防的措置で拘束、か」


 書類を見ながらぶつぶつと呟いたカルケルは、隣で待機していたアピスの方を振り返り、「首輪はきちんと機能しているのか」と確認した。


 アピスは魔法の杖の先端を和真の首輪へと向け、また和真にとって聞きなれない不思議な言語を呟く。

 杖から光が生まれ、その光は和真の首輪を包み込むと、すぐに消えた。


「はい。正常に機能しているようです」


 光が消えると、アピスは短く、聞かれたことを返答した。

 エルフ族が持つ美しい見た目と同じ様に、美しい声だ。


 その返答を聞くと、カルケルはしばらく自身のあごひげを右手の指でもんでいたが、やがて、不敵な笑みを浮かべ、和真を見おろした。


「いいだろう、少年。オレは正直者には優しくすると言ったな? その約束を守ってやろう」


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