Σ(゜△゜)マジで!
「あのね。社内恋愛をするなとは言わないけどね。ちょっと、やりすぎ。」
「マジすみません。」
25歳が、ただいま絶賛お説教もらっちゃってる中なんですけど!!
くう、親にもこんなに怒られたことないのにー!
「テンション上がるのは良いけど、まわりを振り回すのはいただけないなあ。」
所長まで参戦してきたよ!!
「ハイ…。」
いたたまれなくなって、小さくなる私。
まあね!女子にしては164あるし、大きいほうだけどね!!
一回りくらいは、縮んだような気がしないでもない!
いやいや、ちょっとは小さくなってるでしょ!だってちょっと凹んでるもん!!気持ちが!
「ええとね、ちょっと重要な話が、あるのよねえ…。」
不破さんがなんだか、ちょっと言葉を濁したぞ?
何、なんか私ミスったかな?
…ヤバイ、この前カートで仕分けBOXに凸してヒビ入れちゃったの、バレタカモ…。
所長がぐっちゃぐちゃの事務机の上にある書類を一枚、私に、渡してきた…?
なになに、…。
異動命令?!
「ちょ…!めっちゃ急じゃないですか、何これ!!」
「急でもないよ。三ヵ月後に、異動だからさ。」
三ヵ月後?
ちょっと待て、今何月だ?
今…9月!!
「12月1日から、本社勤務になるそうだけど。予定とか、どう?」
「引越しの準備とかも必要になるんじゃない?実家に戻ることになりそうだけど。」
実家。
12月。
ちょっと、待って。
どうしようか。
うーん、困ったな。
でも、まあ、しょうがないか。
言うか。
言っちゃうか。
うん。
「あの。実は、私、11月いっぱいで、ここやめようと思ってたんです。」
「「はあ?!」」
めっちゃハモってる!!!
さすが長年連れ添った所長&経理ペアは年季が違うな!!
「冬木さんの方こそ何いきなり言ってるの!!ぜんぜん聞いてない!!」
「え、それは本気なのか?適当なこと言ってるんじゃないの!!またあ!!」
おお、なんかめちゃくちゃテンパってるぞ!
年配の方のテンパリって、なんかこう、ぐっと来るもんがあるよねえ…!
「会社規定では、一ヶ月前に申告ってあったから。まだ良いかと思ってて。」
社則めっちゃ見たもん、間違いない。
もともと、26歳になるまでの自由だったし、さ。
11月の終り、私は誕生日を迎え、26歳になってしまうのよ。
「なので、この辞令は、お断りして下さい。」
渡された紙を、そっと汚い机の上に戻す。
うん、何でこんなに書類があふれてるのかな!
見たらちゃんと片付けろって言ってるのに!!
…おや、この紙にメモってあるのは、私の文字。
てへー!自分の汚した机でしたー!!
「何、何でやめちゃうの。理由は…?ここ、みんなすごく仲良いし、楽しそうに働いてるのに。」
不破さんが困惑した様子で私に探りを入れてくる。
うーん、どうしよう、どこまで話すべきなのか。
「私、26になったら、実家に帰る約束を、両親としてるんです。」
「何、ご実家、商売でもしてるの?家を継ぐとか?」
家を継ぐ、ね。
そういう言い方も、ありなのかも?
「そうですね、あんまり話しませんでしたけど、家が結構、由緒正しい、的な?あはは、似合わないでしょ!!」
うはあ!
所長も不和さんも、めっちゃ変な顔してるよ!!
ヤバイな、どうしよう、この空気。
「すみません、お取り込み中ですけど、失礼します!」
アレ、天下のイケメンが乗り込んできたぞ!!
「原田さんがカートでぶつかっちゃって!!ちょっとひどいことになってるんで、車出してもらいたいんですけど!!」
「マジで!!私行くわ!!担架!担架!!」
重苦しい空気が、一瞬であわただしくなった。
今何時だ…?三時!!
今なら病院、開いてるよね?!
「怪我はどんな感じなの?救急車のほうが良い?」
「足を挟んで、かなり腫れてる。折れてるかも?」
じゃあ、すぐそこの整形外科だな。
スマホを取り出し、検索し、すぐさま電話を入れる。
…時間外だけど、すぐに見てくれるらしい!
「じゃあ、私玄関に車持ってくるから、イケメンは原田さん持ってきて!!」
「了解。」
私は勢いよく、事務所を飛び出そうと…。
「冬木さん!あの件は、また今度。とりあえず、これは、断っとくわ。」
所長の手には、さっき私が付き返した異動命令書が。
ああ、そんなの、握りつぶしといて下さい。
事務所出口の下で車に乗って待機してると、小柄な原田さんをイケメンがお姫様抱っこしてきた。
イケメンにお姫様抱っこされるミドルガイ…なかなかの絵面に少々困惑するも、人命救助が先だ!!
「ちょっと!降ろしてもらっていいってのに!!!」
「ダメですってば!!」
なんだかえらくもめてるぞ?
まあいいや、私は車を降りて、後ろのドアを開ける。
「ハイハイ、早く乗せて!足、気を付けてね!」
「わかってるってっ…つ、う…!!」
相当痛そう、これはヤバイぞ…。
労災手続きもしないといけないし、抜けた人員補填も必要だな。
やることは色々あるけど、まずは病院に直行だ!!!
「イケメンもついてきて。病院内で杖になる人が欲しいし。事務処理やんないといけないから、病院内でずっと付き添えるかわかんないからさ。」
「わかった。」
原田さんを押し込んだ後、反対側のドアからイケメンが乗り込む。
私の愛車は軽自動車、スポーツタイプなので車高は高めなんだけど、うーん、狭いな、車内が。
何気にイケメン私の愛車に初上陸だ!!
ちょっとテンション上がるわー!!!
原田さんは右足首の骨折だった。
くるぶしと腓骨?がぽきっと折れてるんだって。
全治二ヶ月くらい。
マジですか…。
地味に、原田さんともう会えなくなる可能性、出てきたぞ…。
でもまあ、言わない方がいいな、これ。
だまっとこ。
原田さんは松葉杖の人になった。
狭い車に、でかいイケメンと小柄な男と、松葉杖が二本。
うん、車内、せま!!
「手続きは私が全部やるからさ、原田さんは家で療養してね!」
「うーん、出てきたらダメなの?俺事務でもやるけど。正直さ、かみさんいるからあんま家にいたくないっていうか。」
原田さんとこ、あんまりうまくいってないらしいんだよね。
転職で失敗して、パートになったあたりからぎくしゃくし始めたって言ってた。
「まあまあ。とりあえずはさ、骨くっつくまで、二週間は家でおとなしくしててよ。いい機会じゃん、奥さんと話いっぱいしてみたら?仲良くなれるかもよ?」
「けっ!今更!!」
「いまさらも何も、話してみたらうまくいくことだってあるでしょ!」
マイカーが事務所前に到着した。
「原田さん、荷物どれだけ残ってる?私持ってくるからさ。ここで待っててね。」
「荷物はないな。お茶が残ってるけど、捨てといてくれていいから。」
「じゃあ、僕捨てておきます。」
「自転車は、ここに置いとかせてくれよ?これじゃ、乗れないからさ。」
松葉杖ももらったし、イケメンはここで降りてもらうか。
原田さんの家はここから20分くらい。
今から行けば、終業までに帰ってこれそう。
「じゃあさ、イケメンはここで降りて、仕事の続きやって。私原田さん家まで送ってくるから。」
「ついていかなくて、大丈夫かな。」
「だいじょうぶだって。頼むね、イケメン!」
「赤池だってば!!」
なんだ、また怒ってるよ、このイケメン。
いいかげん、自分のことイケメンって認めたらいいのに。
「あらあら!!まあ、どうしたの…!!」
「折れちまったんだよ!!」
原田さんのお宅に伺うと、奥様が目を丸くして出てきた。
なんかめっちゃ、かわいい感じの奥さんだな。
なんていうんだろ、キュートな、感じ?
原田さんから聞いてたのと、ちょっとイメージ違うなあ…。
「いつもお世話になってます。冬木といいます。あの、」
「アラー!!やよいちゃんね?お話は伺ってます!!いつもお世話になってます!!」
おお?なんかいきなり親近感マックスで話しかけられてるぞ?
原田さん、いったい家で何話してるんだ!!!
「おい!!余計なこと言うんじゃないぞ!!」
「うるさいわね!やよいちゃん、お茶でもいかが?」
「冬木は今からまた仕事に戻るんだって!!引き留めるな!!」
「何言ってんのよ!お茶ぐらいいいでしょ!小さいなあ、もう!!」
なんだろう、このケンカップル臭。
どこかで臭った気がするぞ…。
「あはは、ごめんなさい、カートが私を呼んでるので!あの、しばらく、自宅療養をお願いしたいんですけど、いいです…よね?」
「ええー!!じゃあ私の仕事手伝ってもらお!やったー!」
奥さん、手芸教室の先生やってるんだよね、確か。
「勝手なことを!!もういいや、冬木、早く戻れ。ここにいるとこいつに捕まって帰れなくなる!!」
「あら、心外ね!!私はただ…。」
「はい、送ってくれて、ありがとさん!!」
原田さんは松葉杖を華麗に操りながら、おうちの中にはけていった。
何だ、このやっつけ感。ま、いっか!!
みんな待ってるし、やらないといけないこともいっぱいあるし!
さ、会社に、戻るよー!!
2023/7
ちょっと誕生日に修正入れましたです