( ゜д゜)ポカーン
何とかずれた数も直せて、ほっとしたところで、お昼のブザーが鳴った。
今日は早めにお弁当をゲットする。
ホントたまにフリーダム過ぎる奴がさ、全部食い散らしちゃうんだよねえ…。
仕出し弁当置き場には、お弁当が山積みされてて、その横に夜間のお茶と、ふりかけ、調味料なんかが置いてある。
あ、今日白いご飯だ。ふりかけも使お。
「ねーねーこのふりかけ誰の?もらっていい?」
「あ、あたしのだから、いっぱいかけていいよー!」
加藤さんのふりかけだった!いただきー!
「わーい!ありがとー!」
月曜日、クッキーでも持ってきてお礼しよ!
二回三回と、ちょっと高級そうなふりかけを白いご飯の上に振りかけて、さあて、今日はどこが、開いてるかな…?
お弁当とお茶をもって、食堂全体を見渡す。
シルバー世代のテーブル空いてるな、久々にあそこに入って、ご隠居トークでもまったり楽しみながら頂こうか…
「おい!!やよい!!こっちこいよ!!」
テーブルの端から、杉浦君が呼んでる。
あ、イケメンもいるぞ…?
飯がうまくなるやーつだ!
行くよー!!
「はい失礼しますよ!」
「どうぞどうぞ。」
端の席に杉浦君、その横に私。
杉浦君の前にイケメン、その隣に岸部さん。
岸部さんの隣には大下さん。
大下さんの前には原田さん。
私の横に、原田さん。
イケメン以外は、みんな私がここに来た時以前から働いてる、ベテランさん。
杉浦君も、地味に私よりだいぶ先輩だったりする。
高校生の頃からアルバイトしてるんだよね。
今は、大学生。何やらモテているらしいとは、杉浦君親衛隊代表の小島さん談。
「午前の段ボール、全部はけた?なんかさっき、二人でもめてたみたいだったけど。」
斜め前で神々しくご飯を頬張るイケメンと、ぶすっとしている杉浦君に、声をかける。
イケメンと美少年の向かい合わせかあ…。
なにこれ、どっかのホストクラブみたいw
行ったことないけどさ!!!
「別にもめてねえよ!ちょっと話してただけ!!」
「あと10箱ぐらい残ったかな。細かかったから、午後に回したんだよ。」
「さすがだね!細かい気遣い、この安心感!やっぱ頼りになるわ!」
「おい!俺も褒めろよ!」
「あー、はいはい、すごいすごい。」
お昼直前に、細かいのはいるとご飯遅れちゃうからね。
そういう気づかいできるのって、地味に大事。
「午後も私と一緒に配布入ってね。よろしく!」
イケメンにお願いすると。
「おい!俺が午後は入るって!」
「え、なんで。あたしはいるよ、イケメンと一緒にいたいし!」
ぶはっ!!
おお?なんかイケメンが噴出したぞ?
「お前!!すぐそういうこと言うな!!ふざけんな!こいつのどこがイケメンなんだよ!!」
「え、全部?顔良すぎじゃん!!」
もうさ、ずーっと見てられるわ!!
にっこり笑っても、プンプン怒っても、疲れても、どこからどう見てもイケメン!!
「バカ!!お前、顔につられておかしなことになってんじゃねーぞ!!」
なんかめっちゃ杉浦君がかみついてくるんですけど!!
「まあまあ!杉浦君も落ち着いて、ね?」
岸部さんがフォローに入ってきたよ。
「だって!だってこいつさあ!!ずっと俺が好きだって言ってんのにスルーしやがってさあ!!」
そうなんだよね、なんか隙あればさ、いっつもこの子、私のこと好きって言って来るんだけど!!
おかしいな、ずっとケンカ仲間だと思ってたのに、いつの間にそういう話になった?
謎だー!
「無理だわー!だってあんた弟と同じ年だもん。弟のおねしょぱんつの世話してた記憶が私の中にある限り、あんたは無理だわ!あんたのパンツは、弟のおねしょぱんつにしか見えん!」
「バカ!!お前な、家族とは違うだろ!!同じ目の高さで、お前と同じ景色を見て!同じ道を同じように歩いていけるのは俺しかいないんだよ!!こんな上からお前のつむじ見下ろすだけでぼさっとしてるやつなんかだめだ!こんな面だけ男にお前がやれるか!!俺んとここいって!」
「エー、やだ。」
「こんなに口説かれてるのにこのスルーっぷり。在り得ない…。」
え、私口説かれてんの、これ?
「冬木さんってどういう人生歩んできたの…一体…。」
え、私何気にディスられてんの、これ?
「いくら何でも杉浦君が気の毒すぎるよ、これ。」
え、何、私が悪いの、これ?
「だって恋とかしたことないもん!わかんないよ!!」
めっちゃ正論かましてやったわ!!!
…。
あれ?
なんか。
食堂が、しんとしているのは、なぜでございましょうか…?
「すげえ…このオフィス、めっちゃオープンにラブ展開してるよ…。」
「うわぁ…杉浦君、かわいそう…。」
「つか冬木もひでえな…。」
「ありゃダメだわ、経験のなさが故のデリカシーのなさがハンパない。」
「ねえねえ、私ね、現代社会において、ハーレム展開って、今の時代ならありだと、地味に思うのよ…?」
「ごちそうさまでした。」
イケメンが、そっと立ち上がって、この場から退場を図る。
立ち去る姿もイケメンだな、おい!!
「おい!ぼさっとしてんじゃねーよ!飯食え!そんで俺と付き合え!!」
「やだよ!!諦め悪いな!!!」
少ししっとりしてきたふりかけご飯をわしわしとかきこみ、お茶を飲む。
「冬木さんはさ、こう、どういう恋がしたいのよ?」
「さあ…?全然分かんないけど、イケメンは、イケメンだと思うよ!だから迫ってみてるんだけど!」
「それがまずおかしいんだよ…!!!」
あれ、杉浦君がご自慢の顔を手の平で覆っているぞ?!
「うーん、あのね。恋しいと思う気持ち、みたいなのは…。」
「え、だって一目惚れとかってあるんじゃないの!たぶん、それなんじゃないの?」
イケメンをイケメンと思う気持ちってのが、いずれ、恋になる…はず?
「ちげーよ!!お前のはただ単に良い顔ってのに向かって突き進んでる、ブルドーザーみたいな一方的なごり押しなだけなんだって!」
「そうね、イケメンの方は、温度感、低そうだし…杉浦君でいいじゃないの。」
「いいじゃないのじゃないって!俺は!こいつに!選んでもらわなきゃ意味ねーんだってば!!!」
めっちゃ力説してるな。
「冬木!ここまで男に言わせといてお前は何なんだ!」
お?原田さんが説教顔になってるぞ!!…これはヤバイ!!
「わ、わかりました、わかりましたってば!考えとくって!!」
何やら、左隣で、杉浦君が息をのんだ、ような、気もする。
私は、食べ終わったお弁当箱と、カラになった紙コップを持って、立ち上がった。
さ、昼からも、頑張ろう!!