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イケメンがあらわれた!私はおかしな呪文を唱えた!イケメンは、とまどっている!そこにケンカ友達が乱入してきた!現場は大混乱だ!  作者: たかさば


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美少年の気付き

 ……今日の昼飯は、実にしょっぱかった。


 おいしさに定評のある仕出し弁当屋が調味料の量を間違えた訳では、ない。

 今日の日替わり弁当は、とにかく一番うまいとみんなに絶賛されているデミグラスソースキノコハンバーグだった。久々に登場した事もあって、余った分を貰うためのじゃんけん大会も大盛り上がりで…、おそらく、いつも通りにかなり相当めちゃめちゃうまかった、はず。


 …アレだ、人ってのは、精神的にダメージを受けすぎると、味覚なんて吹っ飛んじまうのな。

 つまんねえ言い争いをして、恥をかいて、柄にもなく落ち込んじまったせいで、味なんかしやしねぇ~!


 ……いろいろと必死になりすぎたと、反省はしている。

 勝手に追い込まれてみっともなく自爆しちまったのが、ホント…情けねえ。


 俺は、本気で…口説きにかかったんだ、…なのに。


 完全に俺は範疇外なんだと…、思い知らされちまった。

 子供扱いされて、つい…ブチ切れちまった。

 売り言葉に買い言葉、らしくないセリフを吐いて…自分自身にドン引きしちまった。


 今日ほど、年下に生まれてきた事をのろったことはない。

 オンナ慣れしてないせいで、気のきいたセリフが微塵も浮かばなかった事を悔やんだことはない。

 引くに引けない、自分の気の強さに嫌気が差したことはない。


 瀕死状態のまま…倒れ込まずに弁当を完食したのは、男の意地だ。


 地獄のような空気が漂う中、元凶であるやよいが一生懸命場を盛り上げようとしているのがめちゃめちゃキツかった。気を使って、いろいろと無茶振りネタをぶっこまれるのが…ツラかった。一生懸命、場を和まそうとしているのがまるわかりで…居た堪れなかった。

 その、必死な様子を見て、こっちもダメージがでかいなりに応えてはみたものの…周りのパートさんたちの得も言われぬ表情といったらもう。当たり障りのないゲームの話をし続けてカラ元気丸出しで昼休みを乗り切ったせいか、疲労感がハンパなくてだな……。


 午後からひたすら荷物を捌くことに集中したことも体力をゴリ削りした。

 カートを積極的にスピーディーに動かし、身体を酷使して、余計な事を考えないよう努めたせいだ。撃沈したからといって、クヨクヨして仕事に支障が出るような女々しいことはしたくなかったというか、してたまるかよという気持ちが強かったというかさ…。完全に暴走していた自覚はある。

 まあ、仕事だけに一生懸命向き合って、余計な事を考えないようにしていたおかげで…段々落ち着いて、最後の荷物の山に取り掛かる頃にはいつもの自分を取り戻せたんだとは、思うけど。


 ようやく仕事が終わってサーキットから引き上げると、やよいがいつも通りに…ロッカールームに向かう通路ではしゃいでいるのが見えた。


 俺がこんなにダメージを受けているのに、なんかずるくね?!これだからガサツは…、そこがいいところでもあるけど!!

 いつもだったら、即茶々を入れにかかるのだが…さすがに一緒になって騒ぐ気にはなれず、スルーして荷物を取りに行き、駐車場に向かった。


 落ち着いたとはいえ、一度ささくれ立った感情はまだソワソワし続けていて…、頭を掻きむしりたくなるような、大声をあげたくなるようなモヤモヤが爆発しそうだった。一刻も早く己の失態を嘆き倒して、吐き出してしまいたかった。車の中で叫び散らかしたいような、このまま海までドライブに行って波に向かって吠えまくりたいような、原田さんのところに行って愚痴り倒して笑い飛ばされたいような…そんな気持ちでいっぱいだった。


 だが、車に乗り込もうとしたところで…、ふと、気付いちまった。


 なんか、俺、逃げ出してねぇ…?ってさ。


 好きな女に気持ちを伝えて、スルーされて、むしゃくしゃを爆発させて、ばっちりへこんで。モヤモヤを喚いて済まそうとしたり、友達に慰めてもらおうとしたりすんの…、ダサくね?

 つか、このままやよいと会わずに帰っちまって、スッキリしないまま女々しく愚痴ったりしたら、『だからお前はガキなんだ』とか言われるの…確定じゃん!!


 モタモタ、メソメソ、うだうだしてる場合か?

 外野がいない状態で、自分の気持ちを…真面目に伝えるべきなんじゃねえの?

 けっしてただの気まぐれや勘違い、思い込みなんかじゃない、俺の本気を知ってもらわなければダメに決まってんだろ?

 茶化さないで俺と向き合って欲しいという願いを聞いてもらわなきゃ、話になんねえだろうが!


 ……俺とやよいはいつも、実に気軽に感情をぶつけあっていた。


 すぐに怒って、すぐに茶化して、すぐに食ってかかって、すぐに笑いにして、すぐに反省して、いつもケンカして、すぐに仲直りをして、ちょっともめて、かなりもめて、最後はグータッチで全部水に流して笑う……。それが当たり前であり、そういう流れがデフォルトであり、そういうものなんだと思っていた。


 俺は…やよいと、本気の、笑いなしの、真面目な話をした事が、……ない。

 真面目っぽい話はしてきた、だが、いつも…最後は結局、コミカルな感じにまとめられていた。今にして思えば…、何を言っても、軽くあしらわれていたというか。


 俺が、やよいに本気にしてもらえない理由は…、この辺りにあるんじゃないのか?


 ……いや違う、俺だけじゃ、ない。

 パートさんたちや所長、不破さんに…あのクソ木偶の棒だって。

 パワフルでガサツでとびきり明るいやよいを前にして、生真面目でシリアスな雰囲気は…、ことごとく吹き飛ばされてきたじゃないか。


 喜んだ、笑った、失敗した、へこんだ、立ち直った、怒った、すごく怒った、許した、許された…ド派手に感情を爆発させていた、やよい。


 大げさに悲しむアピールはしたが、泣いたことはない。わざとらしく落ち込むことはあったが、うつむいて黙り込むところなんか見たことがない。

 いつもみんなを笑わせて、喜ばせて、怒りや弱気を吹き飛ばしていた。


 あの、感情豊かな姿は。


 ……姿は。


 心地のいい人間関係をパワフルに振り撒く、やよいの本心は…どこにあった?

 やよいの、本音は……いつ、どこで、見えた……?


 うっすらと感じていた違和感の正体に……、迫ったような気がした。


 俺の中に、不確かではあるが…確実に。

 不信感が…、顔を、出した。


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