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美少年の命令

 ピンポンパンポーーーーン!


 昼休憩を知らせる音が鳴り、サーキットを回っている人が一斉にカート置き場へ向かっていく。俺も出しかけの段ボールのふたを閉じ、荷捌き所をあとにする。


 クソ木偶の棒があまりにも忌々しすぎて、暴走気味に荷物をさばいたせいか…やけに腹が減っている。

 今日の弁当は原田さんの分が余ってるはずだから、一つ余分にもらっちまおうかな…。ガッツリ飯を食って体力を回復しておかねえと、仕事に支障が出そうだ。明後日の特売の関係で大容量洗剤がたくさん入って来てるし。


「ちょっと!!!どうするのよ、杉浦君!!完全に冬木さんが血迷ってるじゃない!!もうさ、全然おかしいのよ、なんか魔法にでもかけられたみたいに杉浦君のことスルーしてるんだから!!!絶対おかしい、あれは何かある!!」


 岸部さんが血走った眼をして俺の横に並び、ブツブツとやよいについて文句?を言っている。なにげに観察力に優れている岸部さんはやよいの言動を気に留めていて、人となりをよく観察しているから侮れねーんだよな。


「お前も男なら嫁の手綱きちんと握っとけよ…俺の握ったカネが風前の灯火じゃねえか!」

「はっきりさせとかないと戦が起きるぞ?牛耳ってた原田さんが抜けたからさあ!」


 どしどしと地響きがしたと思ったら、大下さんまで駆け寄ってきた。風圧を感じたのか、前を行く佐木さんがこっちを振り向く。ニヤニヤしてんのは…他人事だからか?

 ほんとしゃーね―な…おっさんどもはさあ!!

 大げさな事を言ってはいるが、一口500円の山分けゲーム…せいぜいが年末の忘年会の酒が一本増えるかどうか程度のお遊びなんだけど、まあ、自分が賭けの対象になっているのが腑に落ちねえっつーか。


「どうすんだよ、この昼ドラ展開はさ…正直おっさんにはしょっぺえぞ…?」

「まだ挽回できるって!!がんばれ、杉浦少年!!」

「というか、みんなも気になっちゃって仕事に集中できないパターンよ、これ!!」


 ロッカールームにつく頃には、好奇心旺盛なメンバーがやけに集まって来て…俺を囲んで盛り上がってやがる!

 この、おもしろがってる感じ…悪い人たちじゃねえけど、ハズイっつーか、くすぐったいっつーか!!!うっとおしくはあるが、まあ、気のおけない仲間的な?

 …つか、当事者のやよいはどこだよ。なんで俺ばっか?!まだサーキットに残ってんのか?


「ねえ、ところで、何でいつの間にかイケメンいなくなってるの?」

「ずっと一人で捌いてたじゃない、お疲れ様ねぇ」

「いなくてもなんとかなる辺り…まぁ、ねえ」


「あいつは所長に呼び出されて事務所に行って…今頃移動中なんじゃね?知らねーけど!!他事業所のヘルプ?らしいよ」


 所長が段ボールチェックが終わって事務所に下がる時に、木偶の棒がこのあと他事業所に出向する事を聞いた。午後も最後まで配布に入ってもらう事になってしまって申し訳ないと頭を下げられたんだけど、正直なところ邪魔なやつがいない事の方がうれしいっつーか。木偶の棒が戻ってこない方がありがたいとさえ思っている。あいつがいるとモチベーションが下がるからな。


 とりあえず、一番近い事業所は往復で1時間かかるから…今日の昼飯は木偶の棒の面を拝まずに済みそうだ。おそらくうまい飯が食えるはずなんだが、周りがガシャガシャうるさそうなのが少々気にかかる。


「じゃあ邪魔者が居ないうちに、やよいちゃんにいろいろと聞きださないと!!!」

「そのつもりだけどさあ!!」


 やよいには聞きたいことがたんまりあるわけだが…飯を食いながら、食堂でアッパラパーに話すのもどうかと思うんだよな…。どうも俺は血の気が多くてブチギレ傾向にあるというか…。


 ……ぐずぐずしてるといつもの席が取られちまうかもしんねー。俺はロッカーからスマホだけ取り出して、足早に食堂へと向かった。


 弁当を一つ取り、いつもの席に着いて、やよいが来るのを、待つ。


 なかなか来ないのは、ロッカールームでパートさんたちに捕まってるからか…?いや、やよいは誰かに捕まってダラダラとくっちゃべって飯を食う時間を減らすようなタイプではない。おそらく誰かにおやつを分けてもらっているに違いねぇ…。


「かとーさーん!!ふりかけ全部使っちゃったー!ごめーん!!」

「ええー?!いいよ!!そのかわりスコーンおねがーい!!」

「おっけーおっけーOKぼくじょー!!!」


 あーあー、やっぱり案の定だよ!!!


 食堂に響き渡る天真爛漫200%のドでかい声、みかんと10円のスナック菓子を抱えて、へらへらと笑いながら弁当箱に手を伸ばし…注目を集めている、まさに台風の目!!

 きょろきょろしてるのは…木偶の棒を探しているからか?クソっ、ホントに忌々しいったりゃありゃしねー!!!

 つか、てんで視線を気にしないのがマジですげえよな…。なんなんだ、あいつの鉄の心臓?毛の生えっぷりはさ!!!


「おい!やよい!こっちにこい!!これは、命令だ!!」


 イラつきがハンパなくて、思わず…でけえ声を出しちまったじゃねえかよっ!!!

 命令ってなんだよ、もうっ!!!くっそー、痛恨の言葉のチョイスミスだよっ!!


「ちびが私に命令とかすんなよ!私はイケメンと…」

「あいつは他事業所に行ったんだよ!呼び出されてさ!!」


 怒り任せに返事をしつつ、なんとなく…違和感?を感じた。

 やよいは、木偶の棒がいなくなったことに気が付いていなかったらしい。普通、気が付きそうなもんじゃね?気にならなかったのか?…付き合うなら、なおさらさあ?

 同じ社員同士なのに、なんも聞いてねえのも、なんか…変じゃね?気のせいか……?


 そういえば…オリコンのエラーが出ていたような気もする。

 なんだかんだ、やよいは仕事に集中すると周りが見えなくなるところもあるんだよな…。そうだな、仕事に夢中で気が付かなかった、それだけか。

 あー、もー!些細なことは、いいんだよ!!


 ……まず、キッチリと確認しておくべきことは!


「おい。赤池と付き合うって本当なのか。」

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