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美少年の苛立ち

 結局、午後の配布には俺と木偶の棒が入ることになった。

 まだ重たい荷物も多いし、何よりマイペースにおかしな配置で段ボールを詰みやがった奴がいるからさあ!下手に状況を知らないやよいが入ったところで効率が悪すぎるんだよ。


 あと、地味にできのよくない新人がいることもあって、おせっかいの塊であるやよいをサーキット内に放牧しておきたい気持ちもある。あいつはなんだかんだ言ってフォローの天才だからな。


「赤池さん、それ佐木さんのカートに乗せてあげて!ごめん、宮崎さんこっち持ってって!!」


 ・・・どんっ!!


「・・・はい」


 俺がカートの上にシャンプーボトルが入ったケースをのせると、覇気のない目をした兄ちゃんが聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で返事をした。


 二週間ほど前にここに入って来た宮崎さんは中年に差し掛かろうという年代の人で、いまいちやる気のない、馴染まない、浮いている存在だ。はっきり言って、いつやめてもおかしくないくらい温度感が低い。

 フレンドリーで和気藹々とした空気が流れるこの倉庫で、人の親切に笑顔のひとつも返さず『金のために動いているだけだしジジイババアが俺に関わるな』とふてくされてんだよな。いい年してどうなんだよマジでさあ。


 倉庫作業の求人ってのは、大体にして『マイペースでお仕事できます!』とコミュニケーション不要をうたうことが多い。荷物を受け取って所定のケースに入れて行くだけだから確かに会話は必要がない作業ではあるが、それは他の事業所なんかの常識であってさ!!


 うちはやよいがいるからバリバリに無駄話もするし、おせっかいも焼きまくるから騒がしいし、わりと気が休まらないんだよな。はっきり言って、コミュ障には合わない職場だ。

 今まで何人もやめてきたんだからこっちは気にしないってのにさ、合わないと思うなら出て行けばいいのに、根が真面目なのか気が弱くて退職を申し出ることができないらしく、律儀に不満たらたらの様子で勤務してんだよ。


「なんで重たいもののせたの?宮崎さん、動きが悪いのに」


 変なところで神経質な木偶の棒が…早速文句を垂れてきやがった。


 こいつは効率ばかり気にしていて、全然人の個性を見ちゃいないんだ。やる気のない、知識を身につけようという意思の感じられないやつに、のんびりサーキットを回って労働時間が過ぎればいいと思ってるような新人バイトなんかに、軽い荷物を乗せようと考える意味がわかんねえんだけど!


「軽いもん乗せたところでまだ不慣れだし、ゆっくりとしか動けないんだ。小さいものは入れ方に悩んで無理やりねじ込んでシュリンクが破れるパターンが怖い。裸商品のほうが安全だろ?でかいもんのほうがわかりやすいと思うけど?」


 バラマキの基本的なルールとして、重たいものはケースの一番下に置かなければならないというものがある。ここで長く働いている人であれば、どのレベルが重いものにあたるのかすぐにわかるのだが、新人の場合はそれが重いものなのか軽いものなのか判断することが難しい場合があるのだ。

 いちいち重さの確認を仰ぐタイプの新人ならいいのだが、自分勝手に判断をして重いものを上にのせたり、潰れやすいものを下のほうに入れたりする奴もたまにいてさ。


 …今だって、どう見てもクソ重たいシャンプーボトルを上にのせようとしてばっちりやよいに叱られてる奴がいるじゃねえかよ。


「宮崎さん、カートが重いってのろのろ動くから…他の人の邪魔になっていると思わないかい。全体的な流れを見て判断しないとダメだよ」


 正社員さんは俺の判断に真っ向から対立するらしい。目も合わさずに、不満げな声をぶつけてきやがる。


 いちいち本当に…むかつくんだよな。なんなんだ、この上から目線は。作業効率を上げることしか頭になくて、パートをコマのようにしか考えていないのが気にいらねえ。完全にバイトやパートを下に見ているとしか思えない。


「あ、イケメンちょっといい?あのさ。」


 イラつく気持ちを宥めながら配布を続けていると、やよいがへらへらしながらやって来て…ま―――――た木偶の棒にちょっかいを!!!


「やよい!!さぼんなって!!」

「違うって!マジな相談だってば!!!」


 マジな相談しようという奴が…そんなかわいく目をキラキラさせて、上目遣いで声をかけるかよっ!!ちくしょう、俺にもそういう表情を向けろっての!!!


 イラつきながら二人して倉庫の隅に向かう様子を・・・けっ!!あんなもん見ねえよっ!!!俺は山のように残っているダンボールを手早く捌き!!


「まあまあ、杉浦少年!!そうあせんなって!恋愛ってのはだな、一気に状況が変わって、思わぬところからハッピーエンドに繋がるルートが開けるんだ!!時期を待て、そして判断を誤るな!さすればやがて愛おしい人を抱きしめることができるであろう!がはは!!」


 木偶の棒を引き連れて端っこのほうに行ってしまったやよいを盗み見ようと顔を上げると、原田さんがやたらと浮かれた様子で慰めにかかってきてさあ!!クソ、どう見ても面白がっている!!この暇人&面白がりめ!!


「ルート?!そんなもんくそくらえだ!!俺は自分のこの鍛えられた両腕で好きな女をがっちりと抱きしめるって決めてんの!!」


「ひゃー!!!言うねえ、杉浦君!!ああ、あたしだったらコロッと行っちゃうのにねえ、なんでやよいちゃんは…あ、原田さん、その綿棒やりたい!」

「ほい、もってけドロボー!」

「ちょ…岸部さん、それだけで出発?!ダメダメ、こっちのコットンも持ってって!!」

「おい青少年、お前本気でがんばれよ?!俺はな、お前が冬木を落とす方に3本握ってんだ、頼むぞ?!」

「大穴狙いは身を滅ぼすぜ?俺は手堅くイケメンにかけたけどな!!」


「くっそー!!!今にみてろよ?!大下さんと原田さんの勝ち逃げになるからな!!」


 不機嫌そうに配布する木偶の棒がいないだけで、明るく楽しくノリのいい会話が発生して仕事が捗るんだよな。もうさ、あいつホントこの職場向いてないよ、マジであいつこそ早くやめるべきだと……。


「みなさーん!私、今から!壁ドン越しに、チューされるみたいでーす!!」


 ?!


 ちょ・・・待てよ!!


 なんかおかしな声が聞こえてきたんだけど?!


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