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美少年の学び

 几帳面に段ボールを積み始めた木偶の棒は、きっちりと揃ったダンボールの端っこに満足しているようだ。口角を上げてニヤニヤしながら腕組みをして一人で頷いてやがる。


 神経質に並べられた、メーカーごとに高く詰まれた、一見整った配列。

 ……こういうところが全然後の事とか考えてねーんだよ!


 何で重たいもんを縦に積んでいくかな、そんなことしたら下の方がつぶれるって言ってんのに!!同じ種類のもんは同じもので固めた方が良いとか変なところでこだわりがあって聞きゃあしねえ!!いつか山が崩れて大事にならねえかって思ってるんだけど?!

 そもそも重いもんを高く積んだら、俺と木偶の棒が配布に入るならいいけど、か弱いやよいに取らせなきゃいけなくなる場合だって出てくるんだぞ!!!そういう気遣いってもんが出来ねーのがむかつくんだよ、自分の正義?を通すことに一生懸命で周りが見えねえっていうか、頑固というか!マイルールありきの他人っていう考え方が鼻について仕方がねー!!


 こいつはなんて言うんだろうな、自分ができる事は周りのみんなもできて当たり前みたいな考え方をするやつでさ、二十代の若者の動きと50代のおじちゃんおばちゃんの動きを同等に扱おうとしやがるから本当に気分が悪い。もちろんその中には、身長差が20センチもある俺とやよいも含まれている。こいつは背の低いやつが高いところにあるものを取る難しさをまったくわかっていないのさ。


 なんていうか……本当に相性の悪いやつっているんだなと思う。


 やよいの事が無くても、何かにつけて意見が相反するってーの?やけにこう…いやな部分が目に付くというか、気になるというか。あれだ、嫌いな奴ってのは、やけに目の中に入ってくるみたいな感じ?どうも目の端でおかしな行動をしてるのを捕らえちまってイライラすんだよ。


 フリーターの兄ちゃんやヤンキー崩れの姉ちゃん、やよいや所長にはニコニコする癖に、能力差別っていうのか?ある程度の動きをしない人にめちゃめちゃ塩対応してんのとかよく見るし。やよいが気を配ってる日はいいけど、休みの日なんかはわりと空気が悪くなる。本人は気持ちの悪いとってつけたような笑顔を差し出して作業してるんだけど、気を使ってやってるんだっていうオーラがだだ洩れてるもんだからさ、繊細なパートさんたちはみんな気にしてんだよな。


 やってやってる感をきっちり漂わせながら恩に着せようとする感じも実に気に食わない。なんで仕事に人の感謝を求めてんだよっていうかさ、賛辞がなきゃ働けねえのかよって呆れる。


 俺は学校で人間関係で割を食ったことも多いし、はっきり言って人嫌いをする方ではあるけど、別に誰かを蔑んだり馬鹿にすることを好んではいない。人は人、他人は他人、縁があれば協力し合う事もあるし世話になっている人には感謝の念だって湧く。ぶつかり合って、解りあえることだってあると思っている。だけど、それはコミュニケーションをとれる場合のみっていうか。


 はっきり言って、完全に他人をシャットアウトしにかかっている木偶の棒とは1ミリも解りあえる予感がしない。他人が自分に合わせて当たり前、自分は自分のすべきことを自分のペースで続けるだけって考え方がどうにもこうにも鼻につく。小せえ怒りをきっちりと自分の中にしまいこんで、些細なことでそれを引き出して投げつけてくるのが気に入らない。


 俺は本来、怒りを次の日に持ち越さないタイプだ。一時の感情に囚われて一生恨みを抱えて生きていくようなタイプではない。明日は明日の風が吹く、今日の敵は明日の友なんてこともあると思っている。だからこそ、やよいの来る前にここにいたクソ社員のことだって笑って送り出すことができたのだ。


 だが・・・あまりにも木偶の坊がうっとおしくて、最近自分の中の矜持がぶれてきやがった。


 一日の終わりに怒りをリセットしたところで、次の日に会えば新しい怒りを投げつけてくる。こちらが忘れた不愉快な出来事を、何度もしつこく口に出してえぐり散らかしやがる。想像もしないような斜め受けの不満をちびちびちびちび小出しにされて、俺の心を逆なでしやがる。


 俺はもう子どもじゃないから、気に食わないやつに当たるとか、差別するなんてみっともないまねはしない。……したくなんかねえ。できれば、俺だって…やよいのように、ポジティブなことのひとつくらい、口にしたい。木偶の坊の良いところに目を向けようとすればするほどに、いけ好かない部分が鼻についてイライラする。

 イラつく自分に、自分の性格が悪くなっているんじゃないかと疑心暗鬼になっちまう。


 俺は思いやりがもてなくなっているんじゃないのか?

 人として優しさと理解する気持ちが足りてないんじゃないのか?


 こんなんじゃ・・・人としての魅力なんか得られなくなっちまう。

 ますますやよいとの距離が広がることになりかねない。


 俺は確実に・・・赤池徹という男のせいで、自分を見失いかけている。


 反面教師にして学びを得よう、そういった前向きな気持ちすらこそげ落とされちまうのが実にたちが悪い。


「おうい!もうじきに飯だけどどうする、荷物もらったほうが良い?」

「俺ダンボール下に持ってくわ、そのままついでに飯に行くけどいいよね?」


 ささくれ立つ俺の腹のうちは今のところ漏れ出してはいないようだ。

 ニコニコとおっさん二人が声をかけてきてくれて…我に返った。


 よし、気分の切りかえしねーとな!!

 もうじき飯だ、くさくさしてねーで次だ、次、次!!


 原田さんと佐木さんはわりとおおざっぱだから、あんまり細かいのは渡したくないんだ。数が合わなくなると二度手間になっちまうから、俺が捌いた方がよさそうだな。午後イチで自分のカートに乗せる分をよけておくか。


「残ってるのは細かいんだ、俺が午後からやるから原田さんも佐木さんももうカート置いてきて!でさ、悪いけど一緒に段ボール下に持ってってもらって良いかな、でくの・・・赤池さんが箱の積み直しやってるからさあ!!」


「おー!わかったわ!!」

「じゃあ俺ガムテープもってこよう」


 気さくに頼めて、快く引き受けてくれる人はたくさんいるんだ。


 つまんねえやつのことなんか気にする必要はない!!

 俺は俺のできる事を精一杯やれば良い!!


 ピンポンパンポーーーーン!


 もやもやした気持ちが少し晴れたとき、昼休憩を知らせる音が鳴った。

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