美少年の苦悩
赤池という社員がやってきて、おかしな雰囲気はあったんだ。
いつもだったら、新しいパートが入れば…やよいの強引すぎるコミュ力であっという間に職場の輪の中に馴染むのが常だったんだけど、イマイチ馴染めない、馴染もうとしない、木偶の坊。やよいのフォローを受け入れているふりをしながら、自ら壁を作っているような…見えない拒否があった。
「あのイケメン…なんか闇あるよね……。」
「ちょっと、闇というか、病み?入ってるもんね、イケメンなのに。」
「やよいちゃんの陽キャオーラがああも跳ね返されるとはね…。」
俺以外のパートさんもみんな気が付いていたが、当の本人は全く気が付かないようだった。
毎日イケメンと持ち上げて仕事の輪の中に引きこみ続け、甲斐甲斐しく世話を焼きながらたまに俺にちょっかい出して。……だんだん、俺を引き合いに出すようになってきやがった。
「やっぱさー、チビと違って高さがあると便利だわー!いつもイイ仕事してくれてサンキュー!」
「僕はできることをしてるだけだよ、そんな褒められるようなことは…。」
「またまたっ!御謙遜っ!!高い所のものを取らせたら、天下一品っ!!」
「おい!!低い所のもんもちゃんとさばけよっ!!」
「背伸び乙!イケメンにだっこしてもらう?」
「穏やかな人って落ち着くわー!いつもイライラしてる人ってさあ、心がささくれ立つっていうか!」
「いや…怒るほどのことでも、ないから……。」
「でしょー!この職場、みんな仲良しでさあ、許し合えるのが魅力なんだよね!」
「おい!!やよい!!オメーの載せた綿棒バラバラじゃねえか!何やってんだよ!!」
「許す心の乏しいチビがいた―!狭いな、心!!その点イケメンは違うね!見ろやこの優しい微笑みー!うーん、ステキっ!」
やよいは…褒めることを第一目標としていた。いい所を見つけて、それを伝えて、ありがとうという言葉を引き出したいようだった。ところが、赤池は…自己肯定力を微塵も持ち合わせていなくて、何を言っても、否定的な言葉ばかり返した。
どれだけ褒めても、なかなか喜ばない。
それどころか、ますます卑屈になっていった。
はたから見ていて…明らかに、相性が悪かった。
やよいの思うように親近感が得られないまま、数ヶ月。いよいよ、おかしなことになりやがった。
赤池が有休をとった日の昼めしの時、やよいは…ブチかましてくれたんだよ!
「ねーねー、男ってさあ、どうやって落とすの?モテモテなんでしょ、コツ教えてよ!」
「……はあ?!」
「あたしイケメンのこと好きなんだけど、全然なびいてくれなくってさあ!どうしよう、裸になって抱き着いた方がいいのかな!」
「ッ…!!バッカじゃねえの?!オメーの平たい胸見て…誰が喜ぶんだよっ!!!」
まさか、俺が喜ぶとも言えず。
……つか、やよいが、イケメンのことを、好き……?!あんなに相性悪いのに?!あんなに無下にされてるのに?!あんなに否定ばっか返されてるのに?!ウソだろ!!
「なんだと!!ゴルァ!!くっそー、今日ゴキブリと蜂お見舞いしてやる!!も~いいよ!!」
憤慨して休憩室を出ていったやよいを見て、パートさんたちが気の毒そうな眼を俺に向けた。




