美少年の自覚
距離感が縮まると、やよいのすごさがよくわかった。
やよいは…無神経でガサツではあるが、信じられないくらい人の長所を見つけるのがうまかった。できない事を責めるのではなく、できているところを褒めちぎった。人ってのは、褒められるとうれしくなるもんだ。やたらサーキット内に笑い声が聞こえるようになった。
やよいは…ガサツだから失敗もそれなりに多かった。それを隠すことなく、むしろ自分から大げさに口に出しては大げさに謝った。人ってのは、ごまかしたり隠そうとしたりしない態度を見ると、許したくなっちまうもんだ。潔く謝る声が響くようになり、許す声があちこちから飛ぶようになり、励ます声がビュンビュン飛び交うようになった。
小野さんが、他人のミスを包み込んで人間関係をスムーズにしたのとは全然違う方向で、やよいは攻めまくったのだ。一人一人と向き合って、長所と短所を真正面から受け止めて、なんとなくぎこちなかったパート連中を丸め込んだ。
それはまるで、ごつごつとした石ころを自分という洗濯ネットに詰め込んで、大胆にガシガシもんで、角を取って河原にある丸い石にしたような…強引ではあるが、しっかり結果につながる、人間関係を円滑にするスキル。
ずっと人間嫌いで過ごしてきた俺でさえ、いつしか尖っていたかどっちょを丸くこそげ落とされていた。
まさか、この俺が、他人と…女と…やよいとゲームを一緒に楽しむようになるなんて思いもしなかった。
空手と勉強とバイトしかしてこずに、貯まりっぱなしだった金でゲーム機を買って、バーチャル空間で誰かと戯れるようになるなんて思いもしなかったんだよ。
「ちょ…バイトのくせに課金アイテムとかマジふざけんな!!」
「俺は五年目なんだよ!オメーみてーに貧乏人じゃねえの!!」
「今晩魚釣りイベントあるけど!もちろん参加するよね!!」
「今度は俺が勝つからな!そしたら虹色のカブトムシよこせよ!!」
「帰ってくるまでにダンボールの山が終わってなかったら…お前の家にゴキブリ放つぞ!!」
「ゲゲ!マジで!やだよ!!」
乱暴な言葉のやり取りをする中で、確実に。
俺の中で、やよいの存在が、大きくなっていった。
毎日、パワーのある言葉の投げつけ合いをしているけど、いつか。
いつか、俺にしか。
……俺にしか?
なんだ、この、おかしな、感情は。
そういえば、なぜかやよいを、独占したくなる時がある。
そういえば、なぜかやよいの、顔が見たくなる時がある。
そういえば、なぜかやよいに、笑ってもらいたいと願う俺がいる。
もしかして、これは。
こ、恋というやつ、だったり、するんじゃ……。
今までだって、疑わしい場面は、あった。
突然異動してきた赤池とイチャイチャしてるのを見ると、イライラしたり。
いつも俺を頼っていたくせに、赤池に頼むことが増えてムカついたり。
仕出しの漬物は俺の口に放り込むのがいつもだったのに、赤池の口の中に入れやがったから怒鳴ったり。
そうか、これは…恋だ。
俺は、やよいのことが、好きなんだ。
……好きなんだと、自覚したのが、遅かった。
「ねーねー!イケメンはいつ私と恋に落ちてくれるのさ!ずっと待ってんだけど!」
「ッ…!!だから、そういう事をっ……!!」
やよいは、わけのわかんねえ木偶の棒に夢中になってやがったんだよ!!!!!!!!




