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美少年の変化

 やけに元気のいい社員がやってきたのは、俺がバイトをするようになって五年目のゴールデンウィークが終わった頃のことだ。


 所長から新人が来るという話を聞かされた俺は、嫌な予感がしていた。新人が来るって事は、今いる社員がいなくなるって事で…また新しい人間関係を作っていかなきゃいけない。


 俺がここで働き始めた時は事業所のオープンだったから、本社の偉い人がたくさん来てたんだけど…慣れたころに人数が減らされて、おかしな社員が来やがった。せっかくパート連中のチームワークができてきたところだったのに全部ぶち壊して、人員がごっそり減ってしまい、めちゃめちゃ大変なことになった。挙句の果て、そのぶっ壊した張本人が心身的負担が大きすぎるとかほざきやがって退職してさあ!


 そのあとすぐに異動してきた社員の小野さんは、几帳面でめちゃめちゃ丁寧な仕事をする人だった。パートのしりぬぐいを嫌な顔一つ見せずにやってのけ、人間関係を観察して諍いが起こらないよう配慮し、破損や入れ間違いなどのミスの発生を大幅になくした、この物流倉庫になくてはならない人だった。


 そんな有能な人が辞める?どう考えても、また倉庫内がおかしなことになる展開しか浮かばない。しかも、入社したばかりの新人って!!


「杉浦君と年齢が近い女性が来るんだ、みんな、優しく指導してやってくれよ?」

「女の子だけど、随分パワフルな子だって本社の人が言ってたよ、僕が抜けた後、きっとこの事業所をよくしてくれるから、頼むね。」


 穏やかに微笑んだ小野さんが去った翌日から、嵐が吹き荒れるようになった。


 年齢層が高く、たまに血の気の多いおっさんや好奇心旺盛なおばちゃんはいるものの、基本落ち着きのある人材ばかりのこの物流倉庫。落ち着きのかけらもない、騒がしい女が乱入してきて、一気に社内の雰囲気が変わった。


 明るい人、口数の少ない人、血の気の多い奴、ビクビクおどおどが標準装備のやつ…人を選ばず、目についた端からブルドーザーのごとく突っ込んでって、ガガガと持ち上げては自分のフィールドにもちこんじまう。人と人の間にある垣根ってのをぶち壊す、信じられないほど無神経で、ガサツな、女。


「うわ!!わっか!!十代かよ!!」

「オメーと変わんねえっての!!」


 俺と一番年が近いという事もあってか、やけにこの女…やよいは俺にからむようになった。


「ねーねーこれ教えて!」

「人にもの聞く態度じゃねえな!」


「人に教える態度じゃねーな!教えろよ!ちび!!」

「ふざけんなよ?!ブース!!」


 年下だからか、他のパートさんにはしないような横柄な態度をとりやがるのが気に入らなかった。もともと俺は、散々女ってのにひでー目に遭わされてきた。同年代の女ってだけで嫌悪感が湧いて、売り言葉に買い言葉…いつ何時もケンカ口調になっちまう。事あるごとに衝突し、数週間。俺は相変わらず冷たい返ししかしなかったし、極力かかわりを持たないように心がけていた。


「あんためっちゃ男気あるな!いい仕事すんじゃん!」


 口も利かないような冷めた仲になると踏んでいたけど…やよいはそれを良しとはしなかった。所々に…貶す言葉だけじゃなく、認める感情を、ぶち込んできた。


「当たり前だろうが!ふざけたこと男がやれるかよ!!」


 気がつけば、いつの間にか…誉め言葉を、むず痒いような気持ちで受け入れていた。


「ヤベえ!ミスった!ごめん!」

「謝り方も潔しだな!!!許す!次こっちやれ!!」


 へんなごまかしや見栄を張らない、対等な関係が、できていた。


「やるから弁当の漬物よこせよ?!」

「若いくせにじじい嗜好だな!乙!!」


 遠慮のない、軽快な言葉の投げ合いを楽しめるようになっていた。


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