(о´∀`о)ノバイバイ
6月の、終わり。
結局、原田さんは間に合わなかった。
来週復帰するよって、さっき電話がかかってきてた。
ごめんね。
私、原田さんが戻る頃は、もう、ここにいないんだ。
私、今日が、ここで働く、最後の日なんだ。
「冬木さん。結局、誰にも、言ってないのね?」
「いうタイミング、逃しちゃいました、あはは。」
不破さんが、苦い顔で私を、見る。
「今日のお昼とか、帰りとか、みんなに言ってやれよ…。」
所長が、悲しそうな顔で、私を見つめる。
「うーん、でも、悲しみに包まれるの、いやなんですよね!まあまあ!明日から本社の若いおねーちゃん来るし!そのタイミングで、冬木はやめたって言ってくださいな。」
今日も元気に、私はサーキットを、回る。
「回りまーーーーす!」
ちょっとだけ、いつもより、声が大きめなんだけどね!
今日で、最後。
この場所が、私、大好きだったよ!
昼ご飯をいつもの様に杉浦君とケンカしながら食べて、荷物配布をがんばっていると。
『社員冬木さーん、事務所まで来てくださーい』
あれ、なんだろ。
書類は全部、提出したはずだぞ…。
「ごめん!ちょっとここ変わって!」
「よし!行って来い!あとでほっぺにチューな!!」
「するかっ!!!」
ああ、このやり取りも、これで最後か!!
事務所に行くと…ゲゲ!!
アレは…イケメンじゃありませんか!!
おいおい!あんた遠い県外へと出向したんじゃなかったんですかね!
…久々に見るイケメン!!
相変わらずイケメンだな!
なんだか、ちょっと、影があるぞ…。
ヤバイ、そういえば、最後に送ったライン、なんて書いた…?
見て、ない!!
「冬木さん。久しぶり。」
「やー!久々に見るイケメンも、やっぱりイケメンだね!!元気?」
「相変わらず、僕のことは、イケメン呼び、と。」
大丈夫、か?
怒っては、いない、みたい???
「聞いたよ、やめるんだってね。」
「うん、そう。」
ああ、不破さんと所長から聞いたのかな?
「実家に戻るの?」
「うん、結婚するの。」
「「「は?!」」」
しまった、口が滑った!!
ま、いっか!最後だし!!
イケメンと不破さんと所長が、ものすごい顔してるよ!!
ウケる!!おんなじ表情じゃん!!
「私さ、26になったら、結婚する相手が、いるんだ。26までに自分で相手見つけられなかったら、結婚するって話になってて。見つかんなかったから、親が用意した相手と、結婚するの。」
「何、それ、本当に?」
不破さんが心配そうに、私をのぞき込む。
所長は無言だ。落ち着いた男はやっぱ違うな。
…すげえ!唖然とするイケメン、めっちゃ不細工だな!
こんな顔、初めて見たわ!!
「僕と恋に、落ちることが、できなかったから…?!」
「ああ、違う違う!そういうんじゃないって!イケメンは関係ないよ!」
そう。
イケメンは、関係ない。
これは、私が決めたこと。
「いい年して、親の言いなりになるのか!」
あれ、イケメンがなんか怒ってるぞ…つか、人の親ディスんなよ!
私のこと心配してくれて、やさしく軌道修正してくれて、私が幸せに生きていけるよう、いつも考えてくれてる人たち、なんだからさ…。
「私さ、親とケンカとかしたことなくて。ケンカの仕方、わかんないんだよね。」
親の言うことに従ってたら、間違いはないって思ってるから。
「ま、私が納得してるんだから、いいんだって!ははは!」
「杉浦君は、知ってるの。このこと。」
「何も、言ってない。」
不破さん、めっちゃ私のこと、見てるよ!!
眼差しが怖くて、イケメン見たら…。
いつも遠慮がちに見つめてきてたイケメンの目が、まっすぐ私を捕らえてきた。
なんだ、震えあがるほどイケメンだな!
ラインの内容は、ヘタレマックスだったけど…。
「だまって今日、ここをやめるんだもん。」
「…。」
所長も、不破さんも、イケメンも。
無言で、私を、見つめる。
「ちょっと!言わないでよ?!無難にここ出ていきたいんだからさ!!」
明日からは新しい風が吹いて、新しい人間関係が始まるんだから!
それを混乱で混ぜっ返すとか、立ち去る人がやるべきことじゃ、ないんだよ!!!
「で、イケメンは何しに、ここに?」
「…赤池君はね、冬木さんを本社に引っ張れないかって、懇願書を出したそうなんだよ。」
「はあ?!何勝手に…!!」
所長の言葉に、一瞬我を忘れる。
またこの人かってに暴走したよ!!
最後の最後までこう、なんていうか…。
「すみません。でも、それも無駄な努力だったわけですね。なるほど、本部がウンと言わないわけだ…。」
呆然とするイケメンに、私からかける言葉は、ない。
「…あのさ。カエル、返してもらって、いい?」
「ああ。そういや、カエル、返し忘れてたわ!ごめん、ごめん!」
そうだね、カエル、返しておかないと。
駐車場へと、向かった。
私の車まで三分の道のり。
イケメンは黙ったまま。
怖いよ!!この沈黙が!!
そりゃさ、私もライン返さなかったからさ!悪いっちゃー悪いんだけどさ!!
でもさあ、もっと、こう、軽くやり取り、したかったというかさ!!
何でオハヨーのラインの返事に、「君がいない朝の味気なさ」とか送ってくるんだか…。
「はい、いままで、ありがとう!」
私は、長らくマイカーの安全を守ってくれたカエルを、イケメンに渡した。
道に迷ったときも、ガス欠になった時も、このカエルだけは、私に微笑んでくれていた。
さらば!カエル!!
「…僕は、君の中に、何か、残せただろうか。」
はい?
なにこれ、めっちゃ重くなる奴じゃないでしょうね…。
「僕の気持ちばかり、押し付けてしまったことは、否めない、と、思う。悪かったよ。」
「本当に、初めて、誰かを、好きになったんだ。それだけは、伝えたかった。」
「僕に、誰かに夢中になれる時間をくれて、ありがとう。」
「ラインが来なくなって、いろいろと考えたんだ。」
「僕は、君に恋をしたけれど、君は、僕に、恋はしていなかった。」
「冬木さんの謎が、今日、わかった気がする。」
「冬木さんは、いい人過ぎるんだ。」
「いい人過ぎて、毒になる。」
「いい人過ぎて、毒まみれだから、自分の周りの毒に、無頓着なんだ。無関心なんだ。」
なんだ、この人。
また、語り始めちゃう、感じ?
もう夕方近いんだよ…。
勘弁して、欲しい!!
「私も、イケメンと戯れることができて、楽しかったよ!まあ、元気でね!!」
話が長くなりそうだから、強引に締めにもっていく。
「うん。…うん。ありがとう、今日、会えてよかった。」
最後に、イケメンに抱きかかえられたカエルを見つめてから、私は駐車場を、後にした。
ありがとう、カエル。
わたしを守ってくれて、本当に、ありがとう。




