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12/39

(;゜∀゜)マジスカ…

終業後、いつものように事務所に施錠して駐車場に向かうと、イケメンが待ち構えていた。


 今日は杉浦君ゼミの合宿だとかでいないんだよね。

 でっかい車が、私の隣に停まってる。

 もちろん、イケメンの車。

 一回も乗ることなかったなあ…。乗ること、ないだろうなあ…。


「お疲れさま。」


「おつかれ。なに、どうした?」


 なんだろうね、この人さ、思い詰めたような物言いするから、ちょっと怖いというか、身構えちゃうんだよねえ…。

 何言われるんだろ、やめること、バレたのかな?


「僕は人見知りが激しくてね。入社式でも、誰にも声がかけられなくて。本当に、困ってたんだ。」


 ああ、ぼっちだったもんね、目立ってたよ。

 目立ちすぎて、誰も声かけられなくて、いたたまれずに私が声をかけたんだった。


「冬木さんには、本当に感謝してる。入社式のことも、今日までのことも。」


「今日まで?私何にもしてないよ!」


 まあね!イケメンイケメンしつこく呼んで申し訳ないとは、思っている!!


「僕が行った事業所は、ひどいところだったんだ。自分のミスを、人のせいにする。人の手柄を、自分のものにする。噂がうわさを呼ぶ。人が人を奪い合う。誰もが自分のことしか考えていない。」


「僕は、どうにも身動きが取れなくなって。いよいよ退職を願い出た。もう、無理だと思った。」


「やめる前に、異動をしたらどうだと、打診された。」


「異動したところで、また同じような環境に違いないと、思って躊躇したんだけど。」


「移動先候補一覧に、君の名を、見つけた。」


「僕は、君のいるここを、選んだ。」


「君は、ここにいて、おかしなテンションで、僕を迎えてくれた。」


「あの、おかしな呪文。あんなのは、意味がなかったんだ。」


「なぜなら、僕は、初めから。君が好きで、好きで、本当に、好きで。」


「君だけを、心のよりどころにしてきた。君からもらった言葉を糧にして、生きてきた。」


「君のあの言葉がなかったら、今、僕はここにいない。」


「君は、僕にくれたものを、ここで、惜しげもなくどんどん振り撒いていて。正直、嫉妬した。」


「とても、自分が、小さい、貧しい人間だと、思った。」


「君の言葉に縋って生きてきた僕は、打ちのめされてしまった。」


「僕の貧しさに、僕は気づいてしまったよ。」


「ずっと、僕が名前を呼んでもらえないことにイラついていたのは、君が僕を全く覚えていないことに腹を立てていた事も確かにあるんだけれど。」


「僕を赤池徹だと認めてもらえないことに対する、苛立ちが、大きかった。」


「僕にとっては唯一の、自分を認めてもらえた大切な経験なのに、君にとっては、誰にも与えるいつものことだったという事実に、ショックを受けた。」


「僕自身を、見てほしい。僕自身のことを、知ってほしい。そう、願い続けていた。」


「願い続けていたら、気持ちが伝わると思っていた。」


「でも、君は一方的に僕をイケメン扱いして。」


「入りたくない人の輪に誘い込んで。」


「どんどん、僕のことを、追い込んでいった。」


「僕の目の前で、テンションフルマックスで、心のうちを全部曝け出して杉浦君とケンカしてるのを見て、どれほどまでに、僕が、うらやましいと思い、妬ましいと思い、嫌悪感に包まれたのか、君には、わからないと思う。」


 なんだ、話、長いな。

 自分語り好きなんだね、この人。

 うーん、イケメンなのに、もったいない。


「私と恋をして、明るい気持ちを得たらいいんだって!嫌悪感は過去のものでしょ。それはさ、とりあえず奥の方に置いといてさ。」


 昔のことをぐちぐち言ってもしょうがないじゃん!


「今は楽しさを満喫しようよ!私イケメンとの言葉の掛け合い、すごく好きだよ!」


 面白いことに目を向けて、気持ちを集中させたらいいのに!


「言葉が返ってくるって、すごく楽しい。」


 今は一人じゃないでしょ、あたしもいるよ!!


「やっぱりさ、いいとこ見つけて伝えるのも素敵だと思うけど、伝えた気持ちが、返ってくるのもうれしいもん。」


 二人いたら、できることって、あるよ!!


「ねえ、いっぱい気持ちの投げ合いしようね。気持ちの投げ合いだったらさ、同じ場所にいなくてもできるでしょ?ラインとかさ!」


 マメなコミュニケーションがさ、絆を深めるんだって!!


「大丈夫だって!自信もって、ここから旅立っていきなよ!!」


 元気づける私を、イケメンがじっと、見つめる。

 なんだ?タメが長いな。何言われるのか、心配になってくるじゃん…。


「僕に、ついてきてくれないか。」


 はあ?!


「ええ!無理だよ!なにそれ。いきなりそこまで強引になるの?!無理無理、何言ってんの!!」


 何この人!!ぶっ飛びすぎでしょ?!


「僕は、君を、愛してる。ずっと、心から、愛してるんだ!君のために、僕は愛をささげる。」


「僕に毎日、寄り添ってほしい。励ましてほしい。そばにいてほしい。」


「無理だって!!何言ってんの!!」


 ダメだ!!この人、イケメン・できる男のツラかぶった、とんでもないヘタレ自己中だ!!

 私の都合とか全然気にせず自分の都合を押し付ける、空気読めないやつだ!!

 顔、顔が良ければいいといった私を、ぶん殴りに行きたい!!


「あのね!!あなたの気持ちは、伝わった、でもね!私だって、いろいろと都合があるし、イケメンの都合をすべて受け入れることは難しいよ!!気持ちのやり取りはいつでもできるでしょ?とりあえず、落ち着いて現実を受け入れて!それからいろいろと考えていこうよ!!今出す答じゃないよ!!」


 いつもなら、ここまで捲し立てることのない私の物言いに怯んでいるみたい。

 よし、このまま一気に畳みかけよう!!


「まずは落ち着いて、現実を見て、引っ越しに全力投球する!!で、落ち着いたら、いろいろ考えよ!!ね、混乱する気持ちはわかるから!でもここで答だしても、絶対後悔するよ?!」


 私の畳みかけに、少しだけ我に返ったみたい。


「わかった。寂しいけど、冬木さんの意見に、乗っかることに、する。」


 寂しい?

 乗っかる…?

 なんだ、この、微妙な、会話のすれ違い感。

 私が、私の意見を、イケメンに押し付けて、それを、イケメンが仕方なしに、受け入れた空気になっているような。


「カエルは、置いていくよ。僕の代わりに、君を守ってもらわないといけないからね。」


 正直、マジで、疲労困憊なんですけど!!!

 恋って、恋って。

 …めっちゃ、疲れる!!


 私が心底疲れ果てていることに気が付く様子もなく、イケメンは車に乗り込み、駐車場から発進した。

 怒ったのかな?

 いろいろ言っちゃったから。




 なんかすっきりしないまま、次の週の終わりに、イケメンは引っ越していった。

 新しい社員は、来ない。

なんか人員削減の影響で、あっちこっち人手が足りてないんだって。

 私がいなくなったら、来るみたい。


 人員が減った分、少々忙しくはなったけど、もともとチームワークのいい職場。

 毎日仲良く、やってる。

 あれだけ荒れてた杉浦君も、最近はなんとなく、落ち着いてる。


 まあ、毎日口説かれてはいるんだけどね。


 あと、ちょっと。

 あとちょっとかわせたら。


 杉浦君のまっすぐな気持ちを、受け止めなくてもよくなる。


 私は、ここから、去ることが、できる。



イケメンとのやり取りは、はじめのうちは、頻繁にあったんだけど…。


なんかこう、ラインがめっちゃうざくなっちゃってさ。

イケメン拝んでた時はほら、見た目が良かったから。

 多少の、あれっ?って思う部分は、目をつぶることもできたんだけどさ!


 でもラインだとね、イケメン拝めない分、文字が重くのしかかってくるというか…。

 はっきり言って、このイケメン、めっちゃ、重い。

 重すぎる。


 そもそも、就業中にライン送ってくるとかさ、社会人としてだめすぎじゃん。

 仕事するときは仕事ちゃんとしろよ…!!!


 最近は、朝晩のあいさつすら、してない感じ。

 やばいなあと思いつつも、ラインを送る気がしなくて!!

 だって送ってすぐにさ、既読つくとかさ!

 なんで僕の愛にこたえてくれないのとかさ!

 めっちゃポエムポエムしたことずらーーーーーーーーーーっと書かれてみ?!

 正直マジでドン引きだってば!!!



 そのうち乗り込んでくるんじゃないのかってひやひやしながら二ヶ月。


 やめてしまえば、もうそれまでだ。

 スマホも実家に行ったら、新しくする予定だし。


 …明日は、私の、退社する日。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 12/12 ・冬木さんヤバぁい! ・まぁ冷静に考えたら『どこまでも着いていく』ってのは都合良すぎですね。 [気になる点] もはや嫌な予感しかしないですが、次回をお楽しみにしときます。
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