(;・∀・)ええ…
結局、イケメンは終業までに、帰ってこなかった。
あいつ!!今日めっちゃ段ボール多かったのに!!
なんちゅーはた迷惑なイケメンだ!!
てゆっかさ、帰れなくなるなら、ちゃんと連絡入れろよマジで!!
いつもの仕事っぷりからは考えられないようなミスだな。
…なんかあったのかな?
「おい。」
事務所に施錠して駐車場に行くと、私の車の前で杉浦君が待ち構えていた。
なんだ、めっちゃ機嫌悪いやん!!
もっとにっこりできないもんかね…。
「あ、おつおつ。今日はイケメンが戻ってこなくて大変だったね!めっちゃ頑張ってくれてありがとね!!マジ助かっ「お前さ。マジでいいかげんに、しろ。」」
「おまえなんなの?何見て何考えてんの?」
うわ!!
なんか、めっちゃにらまれてるんですけど!!
ちょーこえー!!!
でもまあ、杉浦君だしな。
「前を見て、楽しいことを、考えてるけど。」
「嘘つけ!!…お前さ、何かあんの?マジで、おかしいって。」
おかしくなんか、ないって。
「全部、言えよ。全部、受け止めてやる。俺なら、受け止めることができる。」
「いう事なんか、何もないよ!毎日、楽しいよ!見込み違い、乙!!」
ヤバイ、真剣過ぎて、空気が、キツイな。
「…赤池は、ダメだ。あいつは、お前に、助けてもらう事しか、考えてない。」
「そんなことないよ!いっぱい助けてもらってるよ!」
「あいつを受け入れるための言い聞かせを、するんじゃねえ!!」
言い聞かせ…?
だれが。
なんのために。
「あいつに恋をするために、自分の気持ちを、ひん曲げるなよ!!お前、あいつなんか、微塵も好きじゃないくせに!!!」
「顔が、好きだって、言ってるじゃん!!!」
やべ。
ちょっと、杉浦君の顔、見るのきつく、なって、きた。
「俺と恋に落ちろって、言ってるじゃん。なんで、落ちてくんねーの。」
真剣過ぎる目が、おちゃらける私に、突き刺さる。
おふざけの答じゃ、放してもらえそうに、ない。
「私を恋に落とすには。相当の覚悟が、必要だと思うよ。」
恋を知らないで、25年。
おかしな、テンションで、乗り切れると、信じ続けて、きた。
「だって、私、思い込んでるもん。イケメンが好きだって。これは恋だって。」
目を、逸らすな。
逸らしたら、そこに、付け込まれる!
じっと、杉浦君の目を、見つめる。
「思い込んでる私を、変えるだけの何かが、あんたにあるのかな?」
ずっと横で、ケンカばかりしてたあんたに。
いつもフルパワーで、感情の投げつけ合いしてた、あんたと私の、関係。
その関係性を、恋に変えることが、できると思う?
「俺は!!お前をさらってく準備はいつでもできてんだよ!!」
ああ、いつもの、フルパワーだ、ゴリゴリに踏み込んでくる、遠慮のない、気持ちがのっかった、言葉。
「だけど!!お前をさらっていくにはお前の許可が必要だから!ずっとイラついてんだよ!!お前!!さらわれる準備、しとけよ!マジで!!」
「ええーやだよ!!私、自分の意志で、自分の人生歩みたいもん。さらわれて自分の人生歩めるとは思えん!!」
私を支えてきてくれた人がたくさんいる。
私を頼りにする人がいる。
私を心配する人がいる。
たくさんの人の中で。
自分ただ一人がさらわれて。
それまで組み上げてきた何かが崩れて。
崩れたパーツを傍観するなんて、私にはできん!!!
私は、誰も、裏切るつもりは、ないんだってば!!
「ばっか!! さらわれた先でそこから自分の人生始めろって言ってんだよ!! お前、ぬるい位置から自分の人生傍観してんじゃねえぞ?! マジふざけんな!!」
「ふざけてなんか、ないって。いたって真面目なんだけどw」
真面目に、自分の人生、生きてますよ。
時折、コメディテイストを無理やりぶっこんでね。
ええ、楽しいですよ、楽しいと、私が言っているんだから!!!
「お前の人生なのに、なんでお前が! 周りのやつの人生の世話しなきゃいけねーんだって言ってんだよ!!」
「ま、そういう人生も、あるわなwww」
うん、らちが明かん。
「ま、考えとくわ!!真面目なメッセージ、ありがと!あとでおうちにケーキ、置いとくわ!じゃね、おつおつ。」
「ちょ!!待てよ!!」
お前はどっかのトレンディ俳優か!!
まだなんか言ってる美少年を華麗にスルーし、私は車に乗り込んだ。
さ、早く帰って、おいしいご飯、作って、食べよう。
そのあとで、ゲームして。
美少年の機嫌、取り直しますか。
…………………………
「おっはよー! マイダーリン! 今日もイケメンだねえ! よっ!! いいお顔!!」
「おはよう。」
あれ、テンションひっく!!
まさか一日でラブラブ生活に飽きたとか?
おいおいなんちゅー飽きっぽさだよ!!
「…異動だって。」
「え!! だってまだこの前来たばっかじゃん! なんで!」
マジか!!一年経ってないのに異動とか、初めて聞いたぞ…!
「僕が知りたいよ!! なんでいきなり、このタイミングで!しかも行ったこともない、県外に!! 引っ越し準備も必要だし、はっきり言って昨日から、混乱がハンパなくて…。」
「まあ、落ち着け。まずは、引っ越し先を探して、引っ越し業者を選んで…」
「何言ってんの! 冬木さんは、冬木さんは! 悲しくないわけ?! せっかく両想いになれたのに、別れちゃうんだけど!!」
うん?なんか、こう、なんだろう、イケメンの、言葉の端に、違和感を感じるんだけど。
「うーん、まあ、こういう事って、大人だし、仕方ないんじゃ…」
「…君と僕は、温度感が、違うみたいだ。」
なんかイケメンが顔色、失くしてる。
あんたの方が温度低そうだな!
私のラブラブコールに、めっちゃ塩対応だしさ!!!
「異動の話、私は、断ったよ。」
「え、断れるの?僕は命令だから無理だって言われたんだけどな…。」
まあね、私退職、しちゃうからね。
そこらへんは黙っとくか。
でも、多分、近々、バレるはず。
どうやって乗り切ろうかな。
ま、なんとかなるか!!
「具体的に、いつここ出るの?」
「引っ越しでき次第、すぐだって。頭おかしいんじゃないのか、この会社…!!」
聞くところによると、昨日イケメンがいなかったのは、支社長に現況報告と異動命令の保留を嘆願に行ってたためらしい。
呼び出されて行ったんじゃなく、自ら乗り込んで行ったとか。
無駄にこう、フットワーク軽いな。
嘆願する時間あるならバラマけよ。
まあ、私の黒い感情は、出さずに蓋をしておきましょう。
いらんこと言って更なる混乱を呼ぶこともあるまい。
イケメンの異動は、朝の朝礼で発表された。
別れを惜しんで、写真撮ってる人もちらほら。
なんだ、なんだかんだで、ここでいい人間関係、築けたじゃん。
良かったね、イケメン君。
その美貌と、仕事の速さでたくさんの人を魅了して、新しい職場でも人気を勝ち取ってくださいな。
君なら、できる!昔のヘタレ乙じゃないんだからさ!!!
あーあ、結局、イケメンとのラブラブ生活も、間もなく終了かあ。
すっかり気の抜けてしまった私は、イケメンに愛の言葉を投げかけることを、コロッと忘れて、仕事に邁進した。




