キタ━(゜∀゜)━!
「回りまーす!」
「入りまーす!」
元気の良い掛け声が、こだまする。
ここは物流倉庫、私の職場。
広いサーキットの中で、大きなカートを操り、出荷先へと荷物を仕分ける、通称バラマキ。
それが私の主だった、仕事。
荷物受取所でカートいっぱいに商品を受け取って、ずらりと並んだ仕分けBOXの中にばらまいていく。
カートが大きくて重たいので、ほかの人たちとぶつからないよう、動かすときに、大声で合図を送るようになっているんだよね。
ちなみに、回りますってのは、一方通行の通路を、Uターンするときいう言葉。
入りますってのは、商品を仕分けBOXに入れてる人をよけて、抜かすときに言う言葉。
ここで毎日、全長300メートルのコースを、何十周と回って商品をさばいているのであります!
正直ね、この会社で働くようになって、体重10キロ減ったわ!!
だって毎日2万歩いてるんだもん!!!
ここで働くようになって二年目の、下半身強化がハンパない私。
冬木やよいと申します!!あ、年はね、うん、一応25歳。
実は大学一浪しててさ!!てへ!
大勢のパートさんたちに囲まれて、元気はつらつテンションフルマックスでございますですー!
というのもですよ!!
今日付けでね!
新しい社員さんが、来るの、よー!
割とマジでチョーうれしい。
だってさ、ここ社員がね、三人しかいないんだってば!!
所長でしょ、経理さんでしょ、私。
ねえ、バカでしょ!バカなんだよね?!この会社!!!
50人のパートさんのローテーション組みから、新人さんの教育、破損品の始末に納品の遅れの管理。
もうね、はっきり言って新卒にやらせる仕事じゃないんだって!!
まあね!新卒時代はもう終わってるんだけどさ!
まあね!!ぶっちゃけ私結構できる人だし!やれちゃってるんだけどさ!!!
今日の12時に、着任なんだって!
どんな人だろ?めっちゃ気になる!!
「冬木さんめっちゃテンション上がってんじゃん!!」
「そらそうよ!!!待ちに待った追加社員、これが期待せずにいられよか!!!」
カートの追い越しざまにパートの岸部さんが私に声をかける。
私の入社と同時にここで働き始めた、言ってみれば、同期みたいな人だったり。
年は十も上なんだけどね。
「イケメンだといいねえ…。あんたまだ彼氏いないんでしょ?」
「ああ、うるさいうるさい!!出会ってないだけ!!出会ったらすぐ落とすし!!」
彼氏はね、まだ出会ってないだけなんだって!たぶん!
出会ったら、速攻恋に落ちればよし!
こっちは準備万端だ!!
「いよいよこのさびれた事業所内にも、オフィスラブの風が来るのかな。」
「いやいや…社員さんに彼氏は求めてないって!一緒に働いてもらえたら、それだけで十分なの!」
そりゃ見目がよろしければ、それに越したことはないけれどもですよ。
社員さんなんだからさ、まずは能力が第一でしょ、うん。
倒れない体力と、くじけない心、そして包み込むような優しさ。
まあ、そんなところだな!必要なもんは!!
いい顔は、はっきり言って、いらん!!
『社員冬木さーん、事務所まで来てくださーい!』
おお?!ついに、キター!
「ちょっと行ってくるわ!!このカート、誰かお願い!!」
「おー!俺もらうわ!」
丁寧なバラマキに定評のある佐木さんが私の仕事を引き継いでくれた。
よっしゃ!ちょっくら行ってきますか!!
「失礼しまーす!」
張り紙だらけの事務所のドアを開けると、所長が新しく来た社員さんと何やら話し込んでいた。
おお、結構でかいな!これは、体力ありそうだ!!
「どうもー!バラマキ担当兼いろいろ始末担当の冬木で…」
でっかい背中がこちらを振り返る…!
!!!!!!!!!!!!
はい?
はいーーー?!
「あ、こんにちは。赤池と申します。」
輝く白い歯。
耳の垢も吹き飛ぶ、透き通っていて心地良い、低くはないがハートにズガンとくる声。
風の出力調整ができなくなって、ずっと強風のままのエアコンの風になびく、さらっさらの色素の薄い茶髪。
幅の広めの二重瞼の下に輝く、これまた色素の薄い瞳。
すうっと通った鼻筋に、いささか大きめの口がワイルドさを醸し出し、残りと笑ったその眦には、笑いじわ…だとおおおお?!
「イケメンですね!!恋に落ちましょう!今落ちた!」
「はい?!」
少々ビビッているイケメンを目の前に、私の暴走は止まらない。
「はい!今から、あなたは、私と恋に落ちます!!ウンダラホメカメ、ドヒャーン!」
私は呪文を唱えた!!
「!!!」
「どお?私のこと、好きになったでしょ!!!」