表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

有難うございました

    - 職員室 -

 数学教師川田と大作、そして玲子。

 無言で向かい合って 3 分。根を上げたのは川田だった。

 「では、もう一度整理すると、屋上に出て飛び降り自殺しようとした沖田を樋川先生が発見。命綱を付けて救助に向かい、一緒にダイビング……ということですか」

 呆れて具合の川田に、大作は真顔で頷いた。

 「まったく、その通りです」

 当の玲子、勝手に進む自分の自殺未遂に、もう諦め顔だ。

 「で、原因は ? 」

 大作が殊更深刻ぶって応えた。

 「数学が難しく、クラスの足手まといになる事を苦慮して……だそうです」

 玲子は思わず吹き出しかけた。

 「もういい。二人とも怪我をしているようだ、保険室に行きなさい」

 職員室を出た大作は、無言で廊下を保険室へ歩いた。 後に続く玲子の存在など忘れているような態度だ。

 「なぁ……」

 痺を切らせた玲子が声を掛けた。

 すると、不意に大作は立ち止まり、玲子に振り向いた。

 「何で逃げなかった」

 玲子の肩を掴み、そのまま壁に押し付けた。

 「いた……」

 「何故逃げなかった」

 大作の表情は今までになく本気だ。

 それが、尚更玲子を反抗的にした。

 「なんであたしが逃げなきゃなんないんだよ ! 」

 「喧嘩慣れしてるんだろ ! 分かっていた筈だ、奴らが本気だったってことは !! 」

 「でも、他の連中放っておけないだろ ! 」

 「それでも、逃げなきゃいけなかったんだよ ! 」

 玲子は大作の手を払いのけた。

 「大きなお世話だ ! だいたいあんた何 !? 助けてくれなんて頼んだ覚えはないよ ! それに、あいつらも大作も……何者よ !! 」

 大作は舌打ちすると、玲子の腕を取って再び歩き出す。

 「ちょ、ちょっと痛い ! どこ連れてく気よ ! 」

 「まずは保険室で傷診てもらえ。話はそれからだ」


    - 保険室 -

 「しっつれいしま~す ! 」

 がらり、と戸を開けると、保険室の主、玉川陽子先生が振り返る。

 「いらっしゃ~い」

 実に軽いノリの、白衣の天使。常連男子生徒の最も多い場所である。

 「あらあら、大ちゃん先生と沖田さん。噂のコンビね」

 「え…… 1 日で噂になってんですか ? 」

 「朝から派手だったそうじゃない。……で、どうしたの ? 」

 大作はムスっと押し黙る玲子を椅子に座らせた。

 「こいつね、腕んとこ怪我しちまって」

 陽子は玲子の腕を取る。

 「あら痛そう。ちょっと待っててね」

 玲子は手を払いのけた。

 「別に大したことないよ。面倒なことは……」

 「いやダメだ ! 」

 意外な程強く、大作が玲子の腕を取って陽子の前に出す。

 「綺麗な肌に傷を残しちゃダメだ」

 「あんただって怪我してんだろ」

 「俺のはいい」

 「だ……」

 反論しようとした玲子の頭を、大作はくしゃくしゃっとかき回した。

 「しっかり治せ。んじゃ陽子先生、後頼みます」

 そう言い残すと、大作は保険室より立ち去った。

 「あ、こら待てよ ! 」


 「よ、人気者」

 大作が保険室を出ると同時、どこから嗅ぎ付けたやら山県奈々子が行く手を塞ぐ。

 「……レイン、何か用か ? 」

 大作は半ば無視して先へ進む。

 「あら、機嫌悪いのね。インタビューしたいんだけど」

 「ノーコメント」

 奈々子は人差し指を左右に振った。

 「駄目よ。さっきのは恥ずかしかったんだから」

 大きく溜め息。

 「何が訊きたい ? 」

 「トンがらないの。ハンに挨拶したの ? 」

 「さあね」

 嘯く大作。

 「あんなトコにビールかけるなんて、カシム以外に考えられないわ」

 「じゃぁ訊くなよ」

 奈々子は鼻に皺を寄せた。

 「ホント、機嫌悪いのね。……雇い主は誰 ? 」

 「疑わしいことはないぜ。理事長だ」

 「あらあら……本格的じゃないの」

 大作は奥歯を噛み締めた。

 「だから、もう犠牲者は出したくない」

 「こだわるのね。屋上で……何があったの ? 」

 「それは……」

 ふと大作は笑みを浮かべた。

 「沖田玲子に直接訊いてくれ。ピッタリ張り付いてな」

 奈々子の表情が一変。

 「それ本気 ? 」

 「勿論。担任の俺が許可する」

 


   - 保険室 -

 玲子の腕に包帯を巻きつつ、陽子は大きく溜め息を吐いた。

 「なんだよ……」

 「大……樋川先生の言う通りよ」

 玲子は思わず陽子を睨みつけた。

 「噂は聞いてるわよ。もっと自分を大切にしなきゃ」

 「そ、そんなのあたしの……」

 「終了 ! 」

 陽子はその腕を叩く。

 「いてっ ! 」

 「さ、授業でしょ。教室に戻んなさい」

 しばし包帯の巻き付いた腕を眺めた玲子、その目を陽子に移す。

 「なぁに ? 」

 首を傾げる陽子へ、玲子はがばっと頭を下げた。

 「有り難うございました」

 思わず陽子より笑みがこぼれた。

 「はい。もう怪我しちゃ駄目よ」



    - 生徒会室 -

 「そうか……見たか」

 生徒会執行部の石原は堅い表情のまま頷いた。

 「で、あの連中は ? 」

 「操影と名乗る男……先日我々より先じて鍵を入手、逃走した生徒と同一人物です」

 「うちの生徒か ? 」

 「否定します。あれはこの学園に関わる人種ではありません」

 真田は大きく息を吐く。

 「やはり来ていたか……」

 「と、言いますと ? 」

 「死者の文字盤を狙う、ハイエナの群れ…さ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ