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最悪だ

   - 山王学園校門 -

 商店街より直線で続く通学路。この学生賑わう通学時間帯に、数日来障害物の如き人種がひしめいた。

 報道関係者、いわゆるキャスターとスタッフだ。

 「んじゃ、奈々子ちゃん、本番入るよぉ~ ! 」

 民放の人気朝番組、アフターセブンである。

 校門と通学中の生徒をバックに、白いブレザーの女性が頷いた。マイクを持ち、ショートの髪を少し気にする、人気キャスターの山県奈々子である。

 「本番前、 6 、 5 、 4 ……」

 無言でディレクターの指が 3 本カウント。指を回してキュー。

 「おはようございます、山県です」

 カメラが入り、奈々子が立て板に水で話し出す。途端、生徒達は遅刻覚悟で足を緩めた。

 「今日も山王学園の校門付近よりお送りします。遂に 3 人目の被害者が出、明けて今日、いつもと何ら変わることのない登校風景が見られます」

 奈々子は声援を送る男子生徒に軽く手を振った。

 「事故、自殺、他殺……未だ特定の出来ないこの惨事、生徒達の不安を思うと早期解決を望むばかりです」

 そこで、わずかに視線を落とす。この細かな演技が奈々子の人気を支えているのだ。

 「本来ならば、休校も有り得る事態。生徒達はそれをどのように受け止めているのでしょう」

 奈々子は近くを歩く男子生徒にマイクを差し向けた。

 「ちょっといいですか ? 」

 その生徒は煙た気にマイクを押しやると、振り向きもせずに校門を通過した。

 しかし奈々子は諦めない。次は 2 人で歩く女性徒を捕まえた。

 「ちょっといいかしら ? 」

 その 2 人はカメラを確認すると、待ってましたとばかりに構えた。

 とその時、甲高いエンジン音が接近。

 ……なに ?

 「中止!奈々子ちゃん避けて !! 」

 バイクだ。咄嗟に脇へ飛んだ奈々子の前を赤銀配色の二人乗りバイクが駆け抜けた。

 ……あれは !

 見送る先、そのバイクは校門を通過し、校舎の陰へ。

 「ありゃぁ、学校関係者か ? 」

 ディレクターが奈々子の無事を確認しに駆け寄った。

 「えぇ……生徒さん、乗ってましたね」

 「あっぶねぇなぁ。抗議だ抗議 ! 」

 熱の入るディレクターを奈々子はなだめた。

 「逆効果ですよ。私達こそ学校には迷惑なんですから」

 それより……。

 彼女に意味あり気な笑みがかすめた。


    -1 年紅組 -

 ……不覚 !

  机に突っ伏す玲子は大きく溜め息を吐いた。剣道道具を忘れた。バカ教師にたばかられたせいだ !

 しかし、玲子は少し笑みを見せた。あの AGUSTA の走行感 !!

 「ごきげんだね、玲ちゃん」

 不意に詩子が玲子の前に座る。

 「そう見えるか ? 」

 詩子はにんまりと頷いた。

 「樋川先生とはどういう関係 ? 」

 「……は ? 」

 「誤魔化さないでいいって。バイクで登校してきたじゃん」

 玲子は教室を見回した。やけに視線が集中している気がしていたのだが……。

 「何を見た !? 」

 「だって正門にあれだけ派手に突っ込んでいけば嫌でも見えるって。すんごいバイクだね」

 「いや、あれは……」

 言葉を詰める。教室内が全て耳、玲子の言葉を待つ空気が明らさまに知れた。

 「ふっざけんなよ ! 」

 キレた。

 玲子が立ち上がり、机が音を立てて引っくり返る。

 「あたしはあの教師に騙されたんだ ! 」

 しん……と静まる教室。

 静寂を破るように戸が開いた。

 「お~い、みんな座れぇ」

 かくて主役がのんびり登場した。


 「しつもぉん ! 」

 大作初の出席終了直後、女子生徒が元気良く手を挙げた。

 「おぅ、坂上朱美ちゃん、どうぞ ! 」

 朱美はすっくと立ち上がる。

 「昨日は名前しか教えてくれなかったじゃないですか。色々先生のこと教えて下さい ! 」

 「くぅ~」

 大作は握り拳で固まった。

 「先生 ? 」

 「嬉しいねぇ。この学校に来て初めて先生って呼ばれたよ。よっしゃぁ、朝の HR は質問た~いむ ! 」

 「おぉぉぉぉ ! 」

 教室内が沸き立ち、一斉に手が挙がる。

 「まずは朱美ちゃん、行ってみよう ! 」

 「はい。沖田さんとはどういう関係なんですか !? 」

 興味津々、室内が静まった。

 「沖田…… ? あぁ、玲ちゃんか」

 おぉぉぉ。

 生徒よりどよめき。

 「えぇ、そのことに関しては……」

 玲子の視線が突き刺さる。

 「……関係者より固く口止めされておりますので、黙秘権を行使させて頂きます」

 一斉に玲子に視線が集中。

 「な、何て言い方しやがるんだよ ! いいか、何もない、関係ない ! 」

 「みなさん、それでよろしいですか ? 」

 今度はブーイングの嵐。

 ……最悪だ。


    - 生徒会室 -

 システムデスクに肘を付き、組んだ拳に顎を乗せる。

 真田は目を細くじっと待っていた。

 「……遅い、ですね」

 横に控える堀川が待ち切れずに呟いた。山岡からの連絡待ちだ。

 「あれは、誰にも渡せない……」

 真田かそう呟いた時、生徒会室備え付けの電話がコールした。

 「もしもし……」

 相手は山岡だった。しかも、未だ川辺町住宅街。

 『室内くまなく捜索しましたが、鍵は見付かりません……』

 山岡、ピッキングによる不法侵入。れっきとした犯罪だ……。

 「持ち出したか……」

 その報告を聞く真田も落ち着いたものだ。

 『恐らく』

 「よし、ご苦労。至急学園に向かえ。 1 時間後、奪還する」

 『はい、了解です』

 山岡が電話を切る直前、僅かな雑音が。それを真田は逃さない。

 舌打ちして真田は電話を解体。中より小さな発信機を取り出した。

 「会長、それは……」

 盗聴機だ。

 「興味を持つ人間は少なくない。大切なのは、今の会話が確実に聞かれたと言う事実」

 「急ぎますか ? 」

 真田の口許に笑みが閃いた。

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