冗談!
- 新校舎 1 階 -
警官の 3 人は黒装束の異様さ、現場の荒れように自然と右手が拳銃に触れた。
不振人物、それも極上に不振だ。いや、それどころか……人類か ?
「おい、何してる」
職務質問。しかし、その声は震え、警察官という立場を忘れていた。
「答えろ、何者だ ! 」
腕を解いた 3 体の闇走がゆっくりと振り向いた。
ぼろ布に覆われた顔から表情が読み取れない。いや、そもそも顔などあるのか…… ?
「愚カナ連中ダ」
「う、動くな、撃つぞ ! 」
3 体は意に介すことなく猫背に構えた。
「邪魔ヲスルト殺ス」
「動くなと言ったろう ! 」
一人が発砲。もう一人も反射的に引金を引き絞る。 38 口径の弾丸は闇走に命中。しかし、奴らは怯まない。それどころか、一滴の血液さえにじまない。
「……ひ」
巡査の喉に悲鳴が昇る。
その瞬間、
「シャァァァ ! 」
奇声を発した闇走。貫手が発砲した巡査の首 2 つ、胴体より切り離した。
「ば、化け物~ ! 」
首より鮮血を天井まで吹き出す仲間の遺体に腰を抜かし、巡査は這うようにその場を逃げ出した。
- 旧校舎裏 -
「やっぱり時計塔ね」
「おい、あそこはベタで有り得ないとか言ったのお前だぞ」
「あら、今は秋よ。変わり易いは女心と秋の空、ってね」
「忘れてたよ」
大作と奈々子の掛け合い。甲高いあの音に緊張していた玲子はやっと二人に割り込んだ。
「あのさぁ、今の、銃声とかってやつじゃないの ? 」
さも意外そうに大作が応えた。
「よく分かったなぁ。新校舎からだし、あの音だと 38 口径だ。多分警察が闇走と接触したんだろ。問題ない」
「いや、そうじゃなくて……」
感覚の桁が違うらしい。玲子は一般的反応を諦めた。
「で、何が時計塔だって ? 」
得たり、と大作が笑む。
「文字盤さ。あの塔は真田文六寄贈だ。一番怪しんだが見付からない。その謎が 117 。恐らく 11 時 7 分のことだ。あれは機械塔。その時刻に合わせて行けば道が啓けるはずだ」
奈々子が腕時計に目を疾らせる。
「あと 10 分程ね」
不意に背筋を走る異様な気配。
「成程、そんな仕掛けあたあるか」
……この声は。
「あ~ぁ、怪し気な中国人のお出ましだ」
足下より吹き上がる殺気。
大作と奈々子は同時に後転。その地面より腕が突き出した。
「ふぉぉぉぉお ! 」
続いて胴体が現れた。目深に帽子を被り、足首まで届くぼろコート。 2m を越える、影巨人。
そして、 2 体の前にふわり、と小さな男が着地した。
「今度は逃がさないネ」
操影だ。
「カシム、これも友達なの ? 」
奈々子は銃をぴたりと影操に据える。
「やめてくれ。俺は友達は厳選する方だ。あいつら冗談通じないんだぜ」
……あんたのは質悪いっての。
「玲ちゃんなんか言った ? 」
「言っては……いないよ」
大作は玲子に笑顔を向け、力まず両腕をたらして構えた。
「沖田玲子、鍵を俺に渡して逃げろ」
「……え ? 」
初めてまともに呼ばれ、玲子は戸惑った。
「全て俺が引き受けた。操影、彼女を見逃せ。じゃないと、俺も本気になるぜ」
玲子が睨みつけた。
「じょ、冗談 ! ここまでやられて……質悪いんだよ !! 」
「そうネ。逃がス、それ出来ないヨ」
操影は口の前に二本指を立てた。
「二巨影……殺 ! 」
「ふぉぉぉお ! 」
巨大な影が、宙に跳んだ。
- 新校舎玄関 -
「ひ、ひぃぃぃ……」
所轄に配属されて 3 ヶ月。警察官としては本当の新入りだ。
そんな彼が見せられた、同僚の呆気ない死、そして異常な容疑者。いや、現行の殺人犯だ。
勇気を振り絞り、辛うじて巡査としての職務を思い出す。
……ほ、本部に連絡を !
外に転がり出た彼は、パトカーの無線に取り付いた。
「至急至急 ! こちら PC7 号高村巡査 ! 山王学園校内にて不振者と交戦、 2 名殉死 ! 至急救援……」
高村の声が止んだ。
『こちら本部。高村巡査、交戦とは何だ !? もう一度報告乞う !! 』
しかし、高村巡査は口端より血を流し、座席に突っ伏した。
彼の背中より、黒い腕が引き抜かれた。
その、血まみれの腕はそのまま パトカーの無線も貫手で破壊。何事も無かったように パトカーより離れ、 4 体の仲間と合流した。
「ドコダ、沖田玲子、 月影第3部隊ノ生キ残リ ! 」
闇より言葉が吐き出されるようだ。
そこに、銃の連射音が反響した。
「アソコカ、アソコニ居ルノダナ ! 」
5 体の闇が、影を渡るように、しなやかな獣のように疾駆した。




