いえす!
- 校庭 -
「いいか、ナイル川がここ」
生徒が見守る中、大作は木切れで線を引く。
「船で訪れた外国人は、このギザのピラミッド群に圧倒される訳だ」
クフ、カフラー、メンカウラーの三大ピラミッドだ。
「墓とされてきたこれらに王の遺体は安置されていなかった。その理由は ? 」
一人の生徒が手を挙げた。
「外来の者へ見せる、力の威光……ですか ? 」
「近い ! それもその一つだ。解くヒントは、太陽神と復活への……」
その時、大作の懐より電子音が。例のピンチセンサーだ。
「……何だよ、またか ? 」
すると校舎より悲鳴、それに続いて甲高い炸裂音が轟いた。
9mm パラベラム弾の発射音だ。
……レインの奴 !
「おい、自習だ。サッカーだろうが野球だろうが好きにしろ ! 」
戸惑う生徒達を後目に、大作は駐車場へ向かった。
……こいつぁただ事じゃぁないな。
着いた先には赤銀塗装の愛車、 MV AGUSTA が。
キーを差し込みセルでスタート。クラッチを切ってシフトを一速へ。アクセルを吹かしてクラッチを一気に繋ぐ。
後輪がスライドして 180 度ターン、そのままフロントをリフトアップして発進した。
-2 年藍組 -
階下の喧騒は真田のクラスにも聞こえた。
聞こえたどころか、英語の授業が一時中断した程だ。
……まさか。
真田の眉が引き締まる。そこに、
「会長、来てください。沖田です ! 」
2 年紅組在籍の副会長、野口が戸を開け大声で真田を呼びつけた。
真田は勢い席を立つ。
「例の奴らか !? 先生、体調不全の為、休養を要請いたします ! 」
「あ…あぁ、分かった」
英語教師の小倉、完全に勢いに圧されていた。
「では、失礼」
真田は背もたれに掛けたブレザーとネクタイを持って足早に退室。
「状況は !? 」
廊下を歩きつつブレザーに袖を通し、ネクタイを締める。
「山岡によると、先ほど石原達の遭遇した者とは別物だそうです」
野口は真田の後に従いつつ、携帯で連携を取る。
「手数と、操影だったか、奴らとの関連性は ? 」
「ポジティブ。異様な黒覆面、黒装束。そして、数は 6 です」
「下手な介入は危険だな」
真田はしばし眉を寄せた。
「私が現場で指揮をする。不用意に突出しないよう連絡」
「はい ! 」
- 校舎階段 -
残る 3 体に追い立てられながら、奈々子と玲子は手摺に腰掛け階段を滑り降りた。
「どうせなら残りも撃てばいいだろ ! 」
玲子は踊り場の壁に突っ込み、足で蹴っ飛ばして方向転換。
「それが……手応えが変なのよね」
奈々子は 1 階廊下に飛び込みそのまま走る……と、不意に天井が割れた。
急停止した奈々子の背に、玲子が突っ込んだ。
「なんだよ ! 」
奈々子は応えない。
玲子が彼女の肩口より覗くと……銃弾に倒れた筈の黒装束が 3 体、落ちた天井の瓦礫よりもそもそと起き上がっていた。
そう、銃で倒した筈の 3 体。
前門の虎、後門の狼である。
ふぅ、と奈々子は小さく息を吐く。
「手応えない筈だわ」
「あんたって結構暢気だよね」
「どこぞのバカ男には負けるけどね」
玲子は妙に納得した。
異形の者は猫背で殺気を放ち、二人の前後をきっちり取り囲む。
「鍵ヲヨコセ ! 」
二人は背中合わせに構えた。
「いいこと、沖田さん。絶対渡しちゃダメよ」
「言われなくても」
異形の者が腕をゆらりと首に。それを水平に動かした。
「殺ス ! 」
6 体の黒装束が一斉に動いた。
それを待っていた玲子。傘立てより拝借した傘を無造作に放り投げた。
玲子に向かう 3 体、手で叩き落とした。
その、僅かな隙を玲子は見逃さない。先頭の 1 体の懐に飛び込み、
「っりゃぁ ! 」
瞬間投げを極めた。
その体は向こう、奈々子に向かう 3 体に衝突し、動きを止める。
「ナイス ! 」
奈々子は玲子の背を馬跳びに越えて、 2 体の前へ。
「シャァァ ! 」
異様な呼気をさせて黒装束の貫手が奈々子を襲う。
しかし彼女はその手を受け流し、投げ、掌底を顎へ。 2 体同時に床に仰臥した。
「いえす ! 」
思わず玲子と奈々子、互いに手を打ち鳴らす。
「あんた強いね ! さぁ、残りは……」
玲子の計算は裏切られた。
異形の者は、何事もなかったかのように身を起こしていた。
「…ヨクモ ! 」
「考えてみれば……」
二人は固まった。
「鉛弾が効かないんですもんね」
その時、廊下に響くエンジン音。
赤い影が突っ込み、 180 度のターン、後輪で 2 体を吹き飛ばした。
「助っ人の出前、いかがっすか ? 」
「大作 ! 」
「カシム ! 」
玲子と奈々子は同時に叫ぶ。
「苦戦してるなぁ。平気 ? 」
AGUSTA より降りた大作。二人は弾かれたように詰め寄った。
「大作、何で今頃現れるんだよ ! 」
「貴方ねぇ、最初から護衛させる腹だったでしょ ! 」
大作は両手を胸の前にホールドアップ、ひらひら振った。
「やめてくれ。御婦人方に詰め寄られるのは慣れてないんだよ」
瞬間奈々子の手が閃き、玲子は目を見張る。銃口が大作の額に張り付いていた。
「言いたいことは以上かしら ? 」
「熱くならないの」
大作はそれを指でつまんで逸らした。
「闇走に銃弾は効かないよ」
「やみばしり?あら……知り合いなの ? 」
「まぁね」
「じゃぁ紹介してちょうだい」
「そいつぁ後にしようぜ。俺が相手をする。レインは俺のバイクで玲ちゃんと逃げてくれ。直ぐ後を追う」
「分かったわ」
奈々子は無造作にスカートを裂き、スリットを入れた。そしてそのまま AGUSTA のシートへ。
「沖田さん、早く ! 」
玲子は舌打ち一つ、大作を睨み付けた。
「いいか、絶対後で訳を説明しろよ ! 」
大作は親指を突き立て、
「あぁ、約束だ」
奈々子はアクセルを一吹かし、タコメーターの上がり具合いを確認。
「あら……凄いじゃじゃ馬」
そして玲子が乗った。
「出してもいいかしら ? 」
「いつでも ! 」
アクセルを開けて、クラッチを一気に繋ぐ。 AGUSTA はリアを暴れさせながら廊下を加速した。
「逃ゲルナ ! 」
しかし、闇走の前に大作が立ち塞がる。
「ドケ ! 」
スーツのボタンをはずし、ネクタイを弛めた。
「まぁ焦るな。俺の相手でもしてけよ」
闇走としては無視して追ってもよかった。しかし、大作の気に圧され、彼を無視出来ない。
「ナラバ、マズオ前ヲ殺シテヤル」
6 体の闇走は一斉に猫背の構えを取った。
「あまり出来もしないことを言うもんじゃないぜ」
「カカレ ! 」
襲い来る闇走。
大作は先頭の 1 体の腕を捕まえ、踏み込みと同時に右掌底を顔面に放つ。
「ガッ ! 」
首が飛んだ。ボロ布に包まれた頭がボールのように飛び、そして……残る体が灰のように崩れ落ちた。
「貴様、知ッテイルノカ !? 」
躊躇する闇走へ、大作はにやりと笑う。
「来な、灰に戻してやるぜ」
大作は足下に転がる傘を蹴り上げ手に取ると、手を差しのべて誘った。
挑発だ。
「シャァァァ ! 」
闇走の貫手が大作の頭を狙う。
それを躱すと、貫手は壁を貫通。
「おいおい、校舎を壊すなよ」
その闇走の背後よりもう 1 体の放つ貫手が大作へ。
「ぃよっと」
傘の柄で腕を絡めると、そのまま壁に手を埋める闇走の首に。 2 体は互いに絡まり動きが封じられた。
そこへ、
「はぁぁぁ ! 」
傘の先端を槍のように突く。
「ガァァァ ! 」
2 体を貫通し、壁に縫い付けた。
「モスクの闇走には苦労したぜ。その仲間か ? 」
転じて大作は軽いステップで牽制。
「貴様、 月影第3部隊の生キ残リカ !? 」
「馬鹿言っちゃいけない。俺は世界史教師だぜ」
「戯レ言ヲ ! 」
残る 3 体、同時に跳躍して襲撃。
……ヤッタカ !?
しかし、動けない。
3 体の腕が絡まり合って、外れない。
「イツノ間ニ !! 」
と、頭上に影が。
絡まる闇走を大作が踏み付けた。
「グゥ……」
「さて……怖いから退散するかな」
大作は闇走の頭よりするりと降り、窓から中庭へ飛び出した。




